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雑記帳
2026.06.01:新建築2026年4月号

先々月号について書き散らす。 この4月から何かと慌ただしく、読む機会を逸していた。 否、多忙など全く理由にはなりもしないのだが。

約二か月遅れで同号の各ページを捲ってみると、庇ないしはキャンチスラブを意識的に深く張り出した事例が多く見受けられる印象。 それによって、外観意匠において屋根が強く意識されもする。
例えば、周囲の風景に寄り添うべく屋根を分節し折り重なるように配置して軒の連なりを外観に取り込んだ作品。 あるいは、均質なカーテンウォールでその外表を覆うのではなく、その外側にキャンチ状にバルコニーを設置した中高層オフィスビル。 そこでは入館から退館までの間、外部環境から隔離され人工照明と機械空調のもとで職務に邁進するのではなく、外気に触れるひと時を享受できる基準階が実現されている。 更に、設備機器の設置・更新に柔軟に対応するため、外皮の殆どにバルコニーを巡らせた研究施設、等々。

中村拓志&NAP建築設計事務所による平屋建て木造建築「小津安二郎学会舎」もその一つ。
外壁と屋根の取り合い部分、即ち軒蛇腹に該当する箇所を外壁面より奥へと後退させ、たっぷりと軒を張り出した屋根を軽やかに浮き上がらせる。 焼杉による黒々とした外壁と白一色の平滑な軒裏との鮮烈な対比も、その意匠の意図を強力に補完する。
とても印象的な外観が形成されているけれども、この手の断面措置って鳥害に苦労しないかナ、などと余計な心配をしてしまう。 鳥たちにとっては快適且つ安全な棲み処になり得ますからね。 数年後、後退部分の手前に防鳥ネットやらテグス、あるいは剣山が張り巡らされて折角の意匠が損なわれないか、なんて考えてしまうのは枝葉末節のツマラナイ視点なんだろうな。
平面プランはそのまま住宅として使用できそうな構成。 諸室配置に少々調整を施せば、隠居後の住まいに良いかも・・・なんて平面図を見ながらあれこれ考えてしまった。

他にも同号には3Dプリンターを用いた作品が二点紹介されている。
この機材を用いて構造体を施工する手法の現在地って、どの様に捉えたら良いのだろう。 施工技術に係る先駆的な試行や研鑽は大切だけれども、機材自体の機能的な制約に起因し未だ試作の域に留まる・・・といった印象をこの場に昨年8月1日に記した。 今のところ出来損ないの版築みたいな外表しか生成し得ず、あるいはピン角が不得手ゆえに有機的な造形に限定されるこの新進の建築生産技術は、これから先どのような展開をみせるのだろう。

2026.05.24:写り込む風景
※1

season4の第10話にて五郎さんが食事をした「レストラン アトム」が一階に入居していた建物。

TVドラマ「孤独のグルメ」。 主人公・井之頭五郎が外出先で偶然目に留まった飲食店にふらりと立ち寄り、その店ならではのメニューを存分に楽しむ。 ただそれだけの内容が何とも言えぬ魅力を醸す不思議な長寿番組。 否、“それだけ”と言い切ってしまうのは乱暴だ。 各話の導入部に、飲食店に入るきっかけとなる外出先のエピソードが組み込まれるが、既に様式化されたその場面もなかなかに奥ゆかしい。

例えば今年4月より始まったseason11において、第5話の舞台は都市近郊の大規模な公営住宅団地界隈。 冒頭、目的地最寄りのバス停に到着した路線バスから五郎さんが降車する。 そのシーンは、この団地が鉄道駅からやや距離があるため、公共交通機関としてバスを利用する前提の立地条件を示している。 バスには乗客が殆どいない印象。 更に昼時のダイヤは一時間に一本程度。 自家用車の利用が一般化し、路線バスの利用客が減少の一途を辿っている状況が、映像から伝わってくる。
交通の便やその利用状況は、同様の大規模公営住宅の多くに共通しよう。

導入部のエピソードが終わり、五郎さんが飲食店を探すシーン。 そのさなか、五種の言語が併記された道路標識がさり気なく映り込む。 あるいは、同団地界隈にベトナム料理屋が三件並ぶ様子に驚く場面が映し出される。 そして結局入った店も、それらとは別に近傍に建つアジア系食材販売店併設のベトナム料理屋。
恐らくは、そちらのエリアに住む人々が当該団地に多く住まわれている顕われなのだろう。 入居者の多様化も、時代を経た公共住宅の多くに昨今見受けられる傾向の一つである。

こうして視聴してみると、このドラマはその時々の世相のアーカイヴとして結構貴重な映像が満載なのかもしれない。 あるいはその意識を相当持ちながらロケハンや撮影、そして編集作業が行われているのではないか。
そういえば、season4の第10話は大和ハウス工業が1960年代に手掛けていた非住宅系プレハブ建築「ダイワロッジ」が舞台※1。 竣工時の様態が概ね良好に保全されていると思しき内外観を堪能可能な映像として、とっても貴重だ。
五郎さんが美味しそうに食事をするシーンを眺めて和むのがこのドラマの楽しみ方ではあるが、そこに写り込む風景にも注視したい。

2026.05.19:久々の味
※1

前回、実家近傍に開店したスープカレー専門店について書いた。 北海道とカレー。 この二つのキーワードが揃うと、道内のチェーン店「みよしの」は外せないのだろう。 今回帰省に利用したエア・ドゥの機内誌「rapora」5月号にも偶然、「北海道ストーりーを感じるグルメ」と題する連載記事の中で、同店の看板メニュー「ぎょうざカレー」が紹介されていた。

ゴロゴロの具は一切無し。 肉も野菜も細かく切り刻まれ、カレーソースの中に粒状にその存在を知覚するのみ。 そんなカレーライスの上に餃子が載せられた光景を初めて目にしたのは、長岡から札幌に移り住んで間もない若かりし頃。 「都会では、カレーに餃子を載せるものなのだな。やっぱり札幌は凄いな・・・」などと思い込み、それが同店固有のメニューと知るまでどのくらい掛かっただろう。
長岡市民であったことに何の根拠もない劣等感を抱いてしまっていたのかもしれぬ。 否、長岡にだって、餃子と縁が深い誇るべきソウルフード「イタリアン」がある。 味は既に忘却の彼方ではあるけれど・・・。

ともあれ、みよしののぎょうざカレーである。
かつて札幌市内に住んでいた頃は至る所にチェーン店があって、そのコスパと相俟って手軽で身近な存在であった。 でも、仕事で東京に出て来てからはすっかり御無沙汰。 久々に店に入ったのは、昨年八月の帰省時。 札幌市内を散策していた折、北国とは思えぬ酷暑にエアコンの効いた屋内に避難しようと周囲を見渡した際、同店が目に留まった。 何やら懐かしくなり、昼食には少し早い時間だったけれども、混雑する前に食べてしまおうと入店。 カウンター席のみのこじんまりとした店内は、開店して間もなかったせいか屋外と大して変わらぬ室温。 この状態で熱々のカレーを食べるのもどうかと思いつつ、「みよしのセット」を注文した。 餃子をトッピングする「ぎょうざカレー」とは異なり別皿にて提供されるメニュー※1


みよしのセット

調理中の厨房の様子を窺うと、傍らの保温庫に既に調理済みの餃子がストックされている。 かつて利用していた頃も、巨大な円形の鉄鍋で大量に焼いたものを、そのまま余熱で保温。 時間が経ってモサモサな食感になった餃子を食す場合が殆どで、焼き立てに遭遇する確率は極めて低かった。 保温方法は変わったけれど、相変わらず作り置きしたものを盛り付けるのかなと思ったらそうではなく、専用の調理器で焼き始めた。 ストックされているのはトッピング用かデリバリー用で、別皿の場合は都度焼く様だ。 ならば焼きたてが食せるセットメニューの方が良いではないか。 それに別皿だと、餃子そのものを味わい、カレーソースを絡めて食べ、更にはトッピングして「ぎょうざカレー」風に食す等、色々楽しめる・・・などと他愛もないことを考えつつ、漸くエアコンが効き始めた店内で、久々に同店の餃子とカレーを味わった。
その感想はと問われれば、どう答えたら良いのだろう。 そういえばこんな味だったな・・・、といった程度。 でも、具材を粒状に潜ませその存在を消したカレースープは、看板メニューの「ぎょうざカレー」においてトッピングする餃子を主役として引き立てるためなのだろうな、などと今更ながらに気付く。

久々の味と言ったら、今度長岡に行く機会があったら、フレンドのイタリアンも食してみたいと思う。

2026.05.12:一軒家のスープカレー専門店

ゴールデンウィーク期間中は、いつも通り北海道の実家に帰る。
近所にスープカレーの専門店が出来たので、昼時に訪ねてみた。 極々普通の住宅地の一角の、極々普通の一軒家。 それなりの築年数を経た軸組みの木造と思しきその中古戸建て物件を買い取ってリノベーションを施した店舗。 といっても外観はサイディングを塗り替えた程度。 看板の類いは、玄関脇のスリット状の小窓の内側に、その旨の店舗表示を控えめに掲げるのみ。 前面道路に沿って幟を立てていなければ、車で来訪した人などは気づかずに通り過ぎてしまいそうな、そんな控えめな店構え・・・というよりも家構えだ。

道路に面して8台分の車室が並べられていて、通常の住まいの土地利用とは違うと気付く。 駅から離れた立地なので、車での来訪を鑑みた措置なのだろう。 あるいは、その様な駐車場確保が可能な敷地形状および既存建物の配棟状況を確認した上で、当該物件を購入したのだろうか。
歩道の切り下げは三箇所。 二箇所は今回のリノベに伴う新設と思われる。 全ての車室と公道との円滑な往来を考えると必要な措置だが、結構基準の緩い行政の様だ。

訪ねた際には既に車室は満杯。 極々普通の住宅のそれと同様の玄関ドアを開けると、これまた普通の家のそれとほぼ同質の玄関踏み込み部に置かれたベンチに、空席を待つ先客が数名座っている。
予約表に名前と人数を記入して待つこと数刻。 漸く席へと案内された瞬間、違和を覚えた。 店内の壁量が妙に少な過ぎる。 見渡すと、目立たない様に飾り棚と組み合わせながらブレース付きの鉄骨柱が新設されている。 しかしその配置も既存構造体への取り付き方も何やら怪しい。 店舗としての空間の広がりを演出すべく元々の部屋同士の間仕切り壁を大胆に撤去しワンルーム化した様だが、ここまでスッカラカンにして大丈夫なのか?と不安になってしまう。
とはいえ、注文したシシカバブカレーは絶品。 複数のスパイスを練り込んだ羊肉のつくねは更に追加でトッピングしたくなる美味しさで、風味豊かなカレースープとの相性も抜群であった。

ネットで調べてみると、もともとは商業地域の幹線道路沿いに店を構え、スタッフも多数雇ってそれなりの規模で営業し好評を博していた様だ。 しかし、店主御自身の年齢を鑑み、今後も長く営業を続けられる様に規模を縮小しようと移転を決意したのだそうだ。
確かに店主以外に店員は一人。 それでも無理なくこなせる規模の店となっていた。 リノベの際に外観にあまり手を入れなかったのも、隠家的にひっそりと営業したいとの意向の顕れなのかもしれぬ。
とはいえ元々人気店であったがために、移転後の様子を気にして常連客が殺到。 逆に慌ただしくなってしまっている感が無きにしも非ず。 実際、停められている車も、遠隔地のナンバープレートが散見された。 それが一時的なものなのか、それとも意に反して恒常化するのか。 何とも言えぬが、ありふれた極々普通の住宅地にこの様なちょっとした変化があるのは、それはそれで楽しい。 今後、似た様な店舗が散在するようになると、地域の活性化にも繋がるのだろうな、などとも想う。
気になる構造強度については勿論問題無いのだろうということにして、他のメニューも食しに再訪してみたい。

2026.04.26:ラーメン赤猫第14巻

最新巻を読む。
種類の異なる猫達が、それぞれに役割をこなしながら店を切り盛りする様子がこの作品の魅力。 加えて来店する人間の個性も様々。 新参者からリピーター、そして常連まで、それぞれに良い味を出している。

14巻では、第162話に登場するラーメンマニア三人組に関心を持つ。
学生か、あるいは社会人になって間もない、そんな風貌の青木くん。 そして、手厳しい批評眼がなかなかにお堅いイメージの中年の猪田氏。 一人称が「小生」なのも、その印象を補強する。 更に終始にこやかな表情で批評を展開する有栖川氏は、少し長めのロマンスグレーの頭髪と穏やかな物腰とが相俟って、大学の先生か会社経営者といった雰囲気の品の良い御仁。
それぞれの視点でメニューや店内の様子や経営方針について意見を述べ合うも、言い争う様なことはせず、お互いを尊重しながらラーメンを堪能する。 あるいは常に三人でつるむ訳では無く、単独ないしは二人組で来店することもある。 そんな緩い関係を保ちながら、ラーメンという共通の関心事でお互い存分に楽しんでいるところがなかなか良い、というよりも羨ましくもありますか。
年齢も違えば恐らくは職業も異なり、更にはラーメンに対する評価指標も異なる三人がどの様な経緯で知り合い、そして行動を共にするようになったのか。 きっかけはやはりSNSなのでしょうかね。 今後、その辺りについてもエピソードの中で触れられると面白いななどと思いつつ、再登場を期待したいキャラクター達ではありますか。

個人的にはラーメンはそれほど関心のある食べ物では無い。
けれども、例えば背油を結着剤にして大量のモヤシをてんこ盛りにする類いは失礼ながら食す気にはなれませんね。 それに、太麺も嫌いです。 うどんじゃあるまいし。 否、うどんが嫌いな訳では無い。 でも、うどんにしてみても、太いのはあまり好きではありません。 讃岐うどんより稲庭うどんの方が好みですかね。 という訳で、ラーメンも細いちぢれ面が嬉しいところ。 そう、チェーン店で言うならば、ちりめん亭の基本的なメニューあたりの系統が好みですかね。 かつては全国に手広く支店を展開していた様に記憶しているけれど、現在は極僅か。 寂しい限り・・・なんて、関心が無いとか言いながら書き出すと止まらなくなってしまうあたり、やはりラーメンはとても奥が深い。
ちなみに、ラーメン赤猫のメニューでは、猪田氏も絶賛した赤猫魚介しょうゆラーメンを是非とも食してみたいところ。 カマスの煮干しを用いた調味油で仕上げるその味は果たして如何に。

2026.04.19:東京文化会館

※1
出版社:講談社
発行日:1984年11月

※2

東京文化会館大ホール

Eテレにて4月12日に放映された日曜美術館「モダニズム建築家・前川國男の上野案内」の録画を視聴する。
「ハテサテ、どんなことを紹介してくれるのかナ」などと高を括って見始めたのだけれども、前川事務所にて往時この作品の設計に従事した方々が登場し興味深いエピソードを披露。 とても充実した内容だった。

東京文化会館を初めて見知ったのは、鈴木博之著の「日本の現代建築1958-1983」※1であったように思う。 発刊されて間もない頃、書店にてこの大型本を手に取り全編モノクロの各ページを捲る当時の私には、掲載されたいずれの作品も高尚過ぎて理解不能。 その中に当会館も紹介されていて、大ホールの内観を特徴づける木製の音響反射板が強く印象に残った※2
アメーバが群れを成すかの如きその造形に、高校時代の美術の時間を思い出す。 授業の内容を無視して上野のそれに似た不定形な図像をスケッチブックの各ページに鉛筆でびっしり描いて埋め尽くす無為な作業に勤しんでいた。 担当していた非常勤講師は呆れ果て、あるいはすっかり諦め、しまいには「だんだん良くなってきたナ」などと褒めているのか皮肉を込めているのか良く判らぬコメントを頂いてしまった。 その講師、今では日本画の世界では御高名な浦上義昭氏。 若気の至りとは言え、今になって思えば何とも恐れ多い。

閑話休題。
番組では同会館に対峙して上野公園内に配された国立西洋美術館や、同じく園内にやや離れて立地する東京都美術館も紹介された。 同じ建築家が関わった文化施設が一つの都市公園内に散在する豊かな風景。 しかし、それぞれの建物の群景としての連関性は然程高くは無い。
さもありなん。 国立西洋美術館は氏の師匠、ル・コルビュジエの基本設計に基づく共同設計。 東京都美術館については、番組の中でも御本人の「70歳になってようやくル・コルビュジエから離れることが出来た」とのコメントが紹介されている。 そして東京文化会館は師匠の影響が明らか。 創作に関わるそれぞれの背景の違いが、群景としての印象を希薄にする。

公園内の複数の文化施設を同じ建築家が手掛けた例として、千葉市の亥鼻公園における大高正人の仕事が挙げられよう。 異なる用途ゆえにそれぞれに異なる意匠とボリュームが与えられながら、各棟の配置を含め都市としての一つの"場"が醸成されていて、とっても良い雰囲気。 個人的には上野よりもこちらの群景の方が密度も含めて好きですかね。
しかし、その中の一つ、千葉県立中央図書館は数年後に別の地に移転予定。 その後の扱いが気になるところ。 一方、東京文化会館は近々大規模改修工事に入るのだそうだ。 同じ時期に建てられながら、丁寧に維持管理される文化施設とそうでは無いもの。 その境遇の差には様々な事情が絡もう。 しかし何とも複雑な気持ちになるところ、無きにしも非ず。

2026.04.12:【書籍】時の家

「北の古民家」のページに最近登録した「前源紙工業札幌営業所」は、見た目は何の変哲もない古びた二階建て木造家屋。 昭和初期に建てられたと思しきその外観からは、元々は四軒長屋であった可能性が想起された。 札幌駅北口直近の立地を鑑みれば、店舗併設の長屋建て住居だったのかもしれぬ。 それがいつしか東京に本社を置く会社の営業所として一棟丸ごと供用されるようになった。
手元に残る一枚の写真からそんな変遷を好き勝手に思い描きながらページを纏めた。

同市在住時、通りすがりに当該建物が目に留まり撮影に及んだのは約四十年前。 道内の古民家に関心を持ち始めたばかりの頃だった。
その関心は、単純に建物そのものの物理的外表にのみ向けられていた訳では無い。 往時の私自身の人生の何倍もの時間、都市の只中に存在し続けてきた事実。 その過程で堆積して来た諸相。 経年の変容。 結果として在る現在の様相。 そんな事々への想いと共に視線が向かう。
物理的な時間の経過が建築に宿す"何か"。 その"何か"を示す適切な言葉は未だ見い出せずにいる。

※1
著者:鳥山まこと
出版社:講談社
発行日:2025年10月21日

図書館に面出しで置かれていた図書のタイトル「時の家」※1に、その"何か"を想起させた。 手に取りページを捲ってみる。
冒頭からいきなり独特だ。 最初の数行を読んだだけで、著者は何らかの形で建築の仕事に関わっているのではないかと容易に思わせる。 さほどに建築家的な言い回し、ないしは専門用語が文中に密に連なる。 確認してみると、その通り。 建築士の有資格者であった。
読む人を最初から選んでしまう作品なのかもしれぬと思いながら読み進めると、今度は場面が突然切り替わる状況に出くわす。 それはちょっとしたきっかけで唐突に起きる。 今まで登場しなかった人物が突然現れ、あるいは時系列が突如切断される。 違和を持って読み進めると同様の状況が次々と立ち顕れる。 あたかもそれは、走馬灯の如く。
不思議な文体に接し続けるうちに何となく見えて来る。 この作品はこの調子で徹頭徹尾書き綴られているのだろうなと。
そこで再び、読者はこの作品に選別されてしまうのかもしれぬ。 そんな構成に飽きて通読を断念してしまう人と、気になって先へ先へと読み進めていく人に。

最初に書いた通り、建築は物理的な在り姿そのもののみならず、存在このかた堆積して来た時間や記憶や事象の気配と共に視認され、そして価値判断される。 ならば建築の経時を巡る"何か"を言葉で表記する方法として、この作品のような手法もアリなのかもしれぬ。

2026.04.05:孤独のグルメ Season11
※1

今月に入ってスタートした掲題のドラマの第1話終盤。 美味しい料理に大いに満足した主人公・井之頭五郎さんが店から出て帰路に就くお定まりのシーン。 そこにほんの少しだけミサワホームO型が映った。
言うまでも無い、昭和期における空前絶後の大ヒットモデル。 今でも全国津々浦々、訪ねる先々でしょっちゅうお目にかかる程に建てられまくったモデルであるがゆえに、普通の住宅地の中に立地する店舗の向かいに映り込んだって特に驚きはしない。 しかし目に留まってしまったからには、型式を特定したくなるのは極々普通の感情。 幸い、原作者が実際に店に訪問するコーナーとしてドラマとセットで放映される「ふらっとQUSUMI」の冒頭で再び当該モデルが大きく映り込む。 どうやらO型の三代目、1980年6月発売のO型NEWの様だ。 型式番号表記では、Onew-44-2E-B※1

末尾の枝番は内装仕様のグレードを示すもの。 「B」のほか、「C」とか「EX」等の表示が設定されていた。 なぜ外観から内装仕様が判別できるのか関心を持たれた方とは、別途ゆっくりと当該モデルについて直接語り合う機会を持ちたいものだと思う。

玄関側(この事例の場合東側)立面に、基本仕様には無い腰窓が追加されているのは、よくあるパターン。 そして、南側二階開口部下端に取り付くFRP製のフラワーボックスがアルミ製の既成バルコニーに交換されているのも、後年の改修で良く見受けるパターン。 つまり純性のモノとはやや異なるが、竣工時の様態が概ね良く保全された事例だ。

録画しておいたその映像を一旦停止し、写り込む住宅地の様子を眺めてみると、そのO型の背後数件先に三井ホームの同時期のモデル「モンブラン」が確認出来る。 原作者の久住さん、冒頭の店先でのおしゃべりの際にもう少し左の方に立って頂けると背後に映るO型の全景が愉しめたのだけれども、しかしあまり左に移動されてしまうと、それはそれでモンブランが久住さんに隠れてしまい、その存在に気付けなかったであろう。
そんなドラマの内容とは全く関係無い些事に気を掛けつつ、勿論内容もしっかり愉しみましたとも。 今回登場した鯖のみりん干し、美味しそうでしたね。 定食屋などでメニューにあると、私も迷わず頼みたくなるところ。 それと、定食に付いてきた「豚汁」。 関東圏ではやはり普通に「とんじる」と発音するのですね。 「豚汁」の読み方として「とんじる」と「ぶたじる」二種の発音エリアが国内ではっきりと分かれているそうで、私は物心ついた頃から後者。 前者の発音には未だに違和を覚えます。

閑話休題。
昭和50年代のハウスメーカーの企画住宅二件の実在を知ったからには現地を訪ねてみたいとの欲求が湧くのは自然なこと。 少し前であれば、早速行動に移していた筈だ。
でも、昨今はちょっと自粛しています。 というよりも自粛せざるを得ぬと言った方が正確でしょうかね。 否、そうやって住民以外の者が住宅地内を徘徊し、所どころで立ち止まって目の前の住まいを凝視したり写真を撮るなんて、不審以外の何物でもないとの意識が以前から全く無かった訳ではない。 しかし最近は、何やら輪をかけて疑念の目を向けられてしまいそうで、なかなか行動に移しにくい御時世。
同時代の事例の中には、とんでもなくレアなものだってある。 既に十分文化財的な価値を帯びていると個人的には思うそんな事例との遭遇や、あるいは記録に取る機会の喪失は何とも空しい限り・・・などと嘆いても、御理解頂ける方など極々僅かなのでしょう。

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