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雑記帳
2025.08.01:3Dプリンター

JR紀勢本線初島駅の新駅舎が3Dプリンターで積層造形され設置工事が完了した旨のニュースを目にした。
その面積は、約10平米。 従来の駅舎に比べるととても小振りで、二人掛けのベンチと券売機を組み込んだ待合い小屋といったところ。 無人駅ゆえに、それで十分なのであろう。 かつては利用客が多々往来し駅員も常駐していた旧駅舎の脇にチョコンと佇むその光景は、どこかユーモラスでもある。

無人駅化に伴い無用の長物となり老朽化が進む駅舎を、必要な機能を満たす適切な規模へと建て替える。 そんな事例は今後ますます増えるのだろう。 でも、その需要に対し3Dプリンターを用いる必然性は如何にある哉。
今回の取り組みは、駅舎に関しては世界初の試みと記事にはある。 しかし初物に拘るのでなければ、他にも様々なプレファブリケーション技術を活用する選択があり得る。
既にある選択肢としてのそれらの技術は、大量生産・大量供給を前提に進展が図られてきた。 しかし3Dプリンター技術は、少なくとも建築生産においては今のところその前提は成り立たない。 むしろ、大量生産のラインに乗せにくい一品生産前提の特殊形状の製作にメリットを見い出し得る。 必然性を求めるとしたら、そこになろうか。

初めて試みのせいか、初島駅舎の造形はおとなしいものに留まる印象。 3Dプリンターならではの意匠とまでは残念ながら言い切れぬ。 でも、今回の取り組みで得た知見をもとに、同じ路線上の他の無人駅を対象に、それぞれの地域性を反映したより個性的な造形の駅舎を3Dプリンターで個別に製作し、それらが百花繚乱の如く並ぶならば、楽しいかもしれない。 あるいはそれによって、話題性を含め利用客の増大につなげるきっかけにもなり得ようか。

最近、知人が勤務する建設系の技術研究所で、ロボットアーム式大型3Dプリンターを中古で購入した。 所内の上層部の面々は大層御満悦らしく、すぐにフル活用する様にと担当者である知人に指示が出されたらしい。 しかし、一体何に使えば良いのか。 如何なる技術開発テーマを与えれば良いのか。 これといったビジョンは見い出せず、考えあぐねて取り敢えず研究所内の外構部分に置くベンチの製作を考えた。
所用で訪ねた際に試作品を見せてもらったが、座りたいという気分を全く起こさせぬ奇妙な形のそのベンチの背後には、失敗作が累々と並ぶ。 材料を射出するノズルにトラブルが発生し、制作途中からトンデモなくグロテスクな形状に変わり果ててしまったり、あるいは基材の配合ミスにより自重で全形がひしゃげてしまったり・・・。
それらを見るにつけ、3Dプリンターによる積層造形は未だ発展途上。 しかし、だからといって検証を避ける理由にはならぬ。 新進の技術に係る貪欲な取り込みや研鑽の積み重ねが、更なる技術を進展させるのだろうから。
とはいえ、基本的な価値観がラガードの私は、単純には距離を置きたい・・・と、失敗作を眺めながら考えてしまうのであった。

2025.07.25:新建築 2025年7月号

霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ
橋一平建築事務所

冊子をパラパラと捲る手がピタリと止まる。
64ページから65ページに見開きで載せられた写真。 そこには、遺棄された建物に植物が侵食し始め、野生動物が思い思いに往来しているかの如き風景が映し出されている。 瞬時にカル・フリン著(訳:木高恵子)の「人間がいなくなった後の自然」に綴られた現実世界を想起した。 そこで紹介された事例程に深刻ではないにせよ、この状況は一体なんだ?と思いながら前のページに戻る。 すると、掲載されている内外観画像の殆どにキリンが写り込む何ともシュールな紙面構成。
但しキリンの背後に映る建物は、全てが廃墟然としたものではない。 新たに追補された部位も散見される。 その新旧のあわいに、地上から高く持ち上げられた歩廊がうねうねと曲面を伴いながら挿入され、その内側にキリンが佇み、あるいは霞ヶ浦への視線が開ける。
不思議な状況に関心を持ち設計者の論稿に目を通すが、建物そのものよりも設計に纏わる思想の話が中心。 むしろ、新たな用途に供するために、既存建物にどの様に手を加えて今現在の姿に変容させたのか。 その過程を概念図の提示も含め具体的に詳述して貰った方が読み物として面白かったのかな、などと思ってしまう。
とはいえ、実際に観に出向いたみたい気分にさせられる作品。 空間を体感したいのか、それともそこにキリンが佇む状況を目撃したいのか良く判らないのだけれど。

エアリスベース
平田晃久建築設計事務所

86ページから87ページの見開きを目一杯使って載せられた内観画像がとても印象的。 段差を積極的に取り入れたその構成は、昨今の主流であるバリアフリーの思想とは一線を画す様でもあり、あるいは図書館として求められる書棚のレイアウトに関わる可変性に制約を課しそうに思えなくもない。 でも、それを超える魅力や特質がそこに容易に視認される。 それは、奥へ奥へと自然に来訪者を誘う空間的な仕掛け。 高低差と、見通せない動線計画が中庭を介し一筆描きで円環を成す。 その構成と、設計者の解説文との符合も見事。 こちらは読み物としてとっても面白い。
床面の高低差処理に関し、段床の末端とスロープが手摺を介さず直接取り合う箇所が、見開きの画像に確認できる。 安全策として床面に「段差あり」の注意喚起表示がなされ、且つ段差を視認させる鋲が等間隔に打たれてはいるが、果たして措置として十分か。 この手の納まり箇所は、供用開始から暫く経って、より強力に注意を促すためにトラテープが無造作にベッタリと貼られてしまうケースに事欠かぬ。 果たして、この事例においてはどうだろう。 些事ながら少々気になった。

Satologue
堀部安嗣建築設計事務所+NIa

隠居後、当該施設の宿泊棟の一室くらいの規模の住まいにて静かに暮らしたいものだと思いつつ、物欲に塗れた現実がその希求との距離を無情に刻む。 それでなくても、日常生活を送るならここにキッチンを付けて、更にユーティリティや予備室を・・・などと考え始めると、途端につまらなくなってしまう。
素材の扱いや納まりがとてもきれいで、ゆっくりと佇んでみたい作品。

2025.07.15:AI生成

大学院の博士課程に在籍する知人から長文の草稿がチャットで届く。 何だろうと思って添付ファイルを開けてみると、なかなかに興味深い内容。
その知人の文章を読む機会はこれまでも何度かあった。 しかし今回の原稿にはやや違和を覚える言い回しも散見された。 例えば、引用が集中する箇所があったり、あるいは文末が「ですます」調で統一されている等。 敬体を用いたのは、それが論文ではなく書籍等に掲載する原稿だからかな・・・、などと思いながら二万字を超える文章に目を通す。 でもって真面目な感想を一生懸命考えて返信すると、してやったりといったニュアンスで、実はAIで生成した文章だとのコメントがプロンプトと共に返って来た。
愕然とした。 やや気になった違和はAI生成が原因か、などと思いつつ、しかし言われなければそうとは気づかぬ出来栄え。

こうなると、論文の執筆や推敲、そして査読の作業とは一体何なのだとなる。 なんて書くと、何を今さら・・・ってなるのでしょうかね。 もはや自身の知見を動員して文字を書き連ねる能力や労力には全く価値は無く、自身が満足出来る文章を如何に手早くAIに書かせるか、あるいは推敲させるかといったスキルが重用される時代に入って既に久しいのだろうか。
でも、推敲や査読に係る的確な判断には、やはり自身の作文力が欠かせないし、そのための継続的な鍛錬も必要だと思うのだけれども、それすらAIに依存してしまう時代なのだろうか。

後日、同じ知人から別の原稿が届く。 一計を案じ、私の替わりにAIに読み込ませ原稿を評価するよう指示を出し、生成されたコメントをそのママ返信しようと企てた。 でも、生成文に目を通していたら原稿自体に関心が沸いてきて、結局全て読んでしまうことに。 なるほど、AIの活用にはそんな作用もあるのだな。

試しにここまでの文章を同様に評価させたら、構成や文法や表現方法のほか、改善点や総括を箇条書きにして簡潔に取り纏めたコメントが瞬時に返ってきた。 一部引用すると、

最後の「結局読んでしまうことに」というオチが効いていて、思わず微笑んでしまいました。 AIに関する懐疑と受容のあわいに揺れる筆者の心情が、ユーモアを交えて巧みに描かれています。

との評価。 AIでも微笑むんだな、などと思わずこちらも微笑んでしまうと共に、提示した文章の内容に沿った無難なコメントが取り敢えずちゃんと生成されていて感心する。
でも、コメントに載る改善点を受けて、「それを踏まえてもっと良い文章を作成して」とAIにお願いする勇気は、今の私にはまだ無い。

2025.07.09:メーカー住宅私考_205
和室か、和の要素か

※1

ハウジング・トリビューン誌2025年6月27日号(通巻705号)の特集は「今、和室を考える」。 このテーマを巡り、神戸芸術工科大学学長松村秀一氏と大手ハウスメーカー四社の座談会の様子が収録されている。

興味深く目を通したが、議論の流れは最初こそ「和室」を巡る現況の確認。 しかし以降は、司会の松村氏が和室の議論を深めようと話を振るが、各メーカーの出席者の発言は和室そのものよりも、和風や和の要素へと移ろいがち。 考えるべきなのは和室なのか、それとも和の要素なのか。 「和室」や「和風」の定義がしっかり決まっていないと、何を議論すべきなのか曖昧になりかねぬ。
畳が敷いてあれば和室なのか。 床の間が無ければ和室とは言えないのか。 居室の多くを和室で計画すれば和風住宅なのか。 和室が無くても和風の表現は可能なのか。
各社の昨今の商品開発の動向は、最後の四点目に主眼が置かれている様な印象。 それは、和の要素を更に再解釈した「和風風」ないしは「和感」とでも言うべきものなのかもしれぬ。

和風の問題に関し、例えばこのサイトの「住宅メーカーの住宅」のぺージに登録しているミサワホームSIII型について、敢えて和風という切り口で言及を行った。 とはいっても、建物ボリュームは四角四面。 総二階のほぼ直方体。 その外表に取り付くディテールも和風の伝統的なそれからはかけ離れている。 にも関わらず、全体から受ける印象を洋風と和風の二択で問えば後者となろう※1


ミサワホームSIII型外観
それは、伝統的なディテールを踏襲するのではなく、それを工業化住宅としての生産性の枠組みの中で巧みに再構成しているため。 あるいはそれこそが、和風風とでもいえる意匠の手法なのかもしれぬ。
内観も、四間四方の狭隘な容積の中で、和室とリビングルームを続き間にしつつ双方にバラバラなインテリアを与えるのではなく、リビング側にも和風の仕上げを導入して統一感の獲得を図っている。 あるいはその和室も、壁一枚隔てて隣接する玄関側に床の間に寄り添う書院を配置。 書院と下足入れを縦に重ね、玄関側にも和の情緒を小さなスペースの中に巧みに造り出している。 そして極めつけは標準搭載が決まっていたソーラーシステムの形態処理に錣屋根を援用する発想の柔軟さ。
これらを踏まえ、当該モデルについて「直方体の和風住宅」とのサブタイトルを付けて取り上げてみた。

※2
発表当初の名称。 現在は、「CENTURY SUKIYA」と改称されている。


※3
it's MY STYLE「SUKIYA」施工事例外観。 和風のプロポーションとしてややいびつな印象。

例えば、いわゆる「入母屋御殿」にでもすれば違和の緩和が期待されるかもしれぬが、それでは数寄屋にはならぬ。

一方、同社がSIII型から約四半世紀後に発表した「it's MY STYLE「SUKIYA」」※2は、その名の通り数寄屋への意識が明白でありながら、実見した際の外観の印象は和風としてはややいびつなものであった。 当該モデルの販売資料に掲載されるモデルとほぼ同形の茨城県内に建つその施工事例は、伝統的な意匠に接近しつつもプロポーションが和風から遠ざかっていた※3
それは同社が売りにしている「蔵」と呼ばれる容積非算入を目的に天井高を抑えた大容量の収納空間をプランに組み込んだため。 上下階の層間及び小屋裏に「蔵」を配置したために生じた急勾配屋根と2.5層のボリュームが、あたかも洋風の住宅が和風の意匠を纏っているかの如き雰囲気を醸す。
「擬洋風」という言葉があるが、その対置として擬和風という言葉が浮かんだ。 何をもって和風とするのか。 一階に和室を三部屋矩折に連続させ、玄関ホールにも畳を敷き込み本格的な和風住宅を指向したその事例を前に軽く悩んでしまったのは、既に二十年以上前の出来事。

その「SUKIYA」に関し、冒頭の座談会で大和ハウス工業の方が興味深いコメントをしている。 果たしてその方が仰るように、「SUKIYA」は早過ぎたモデルなのか。 今だったら、どの様な商品化があり得るのか。
個人的にはSIII型の様に工業化住宅の枠組みで和の要素を改めて再構築できないものかと思う。 そこにこそ、暮らし方や居住まいをも含めた和室の継承の可能性がある様に思うのだが。

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