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2025.06.03:メーカー住宅私考_203
ミサワホーム HYBRID-A

※1

南側立面開口部納り

2001年4月27日に発売されたモデル。 内外観共に、ユニット工法を用いているとは思えぬ仕上がり。 軸組み構法や壁式構法の住宅と何ら変わらぬ。

改めて外観を確認してみると、南側立面の外部開口は位置と形態を上下階で揃えている。 また、その天端レベルを屋根やバルコニーの軒裏と一致させて直上に中途半端な垂壁が生じない納まりとしている※1。 そして凹凸の表情豊かなコンクリート系の外壁と艶を落とした鋼製の平滑なバルコニー手摺との対比。 その手摺をサッシ障子や屋根材と共色にする措置等、意匠を端正且つ簡素に取り纏める配慮が見受けられる。

平面図

※2

HYBRID 地球人の家のリビングダイニングルーム。
双方のスペースを軽く間仕切る装置として構造柱をインテリア化している。

平面プランも、凡庸ながらソツ無く纏まっている。 しかし疑問もわく。 ユニット工法固有のラーメンフレームに基づく均質な構造グリッドが、平面図から見えてこない。 グリッドの交点に配される筈の柱が設けられていない箇所がある。

それまでのユニット構法の場合、一単位が規定する長辺スパンを超えて室の広さを計画すると、どうしても途上に構造柱が露呈する制約を伴った。
ために、例えば同社が2000年に発表した「HYBRID 地球人の家」では、リビングダイニングルームの途上に現れる柱をインテリアの一要素として処理している※2。 これは何も同社のユニット構法のみに固有の要件ではない。 同じくユニット構法を採用する積水化学工業のセキスイハイムにおいても然り。 リフォームによって間仕切りを取り払い大空間に改めた際に独立柱が室内に現しで屹立した事例が散見される。
ところが、HYBRID-Aにはそれが無い。 広々としたワンルームのリビングダイニングルームが、室内に柱を一本も露出させずに成立している。 一体、どの様なユニットの組み方をしているのか。

その答えは、2000年に同社が開発したスーパービーム構法にある。 ユニット同士が接する箇所の柱を除し、代わりに梁を強化して構造を成立させる構法。
下に引用した画像は、内観において実際には内装の裏に配され見え掛かりとならぬ柱梁フレームを表現したもの。 通常であれば室の中央に発生する柱を、概念図の様に界床の梁補強によって除外可能とする。 この技術により、柱梁フレームのグリッドの制約を抑えたプランニングが可能となる。
HYBRID-Aは、この構法を採用した最初のモデルであった。


構法イメージ図
構法概念図
構法特有の制約は個性でもある。 制約を逆手にとって如何に個性を引き出し商品性を獲得するか。 構法の特徴と商品性の両立がモデルの魅力となり評価の指標となる。
制約から解放されたモデルには、それが無い。 その構法を用いる必然性が大きく後退する。 構法の個性が喪失し、そこにあるのはそれ以外の構法と大差が認められぬ内外観。 それでもなおユニット構法にこだわる目的及びメリットは何か。
HYBRID-Aは、そんなことを考えさせられるモデルだ。
2025.05.26:タイパ・コスパ・スペパ

※1

住戸ベランダの一部を屋内化して設置された浴室。


※2

吹田市立博物館に展示されているバスオール。
のちに洗い場も組み込まれ、現在のユニットバスへと進化した。

左の画像※1は、中野駅近傍にかつて在った東京都住宅供給公社の中野住宅に設けられた浴室。
1952年7月に供用を開始した当該団地の各住戸には当初浴室が無かった。 ために後年、ベランダの一部を屋内化。 そこに浴室が設けられた。
画像は残余のベランダから捉えたもの。 手前に付けられていたベランダと浴室を仕切る扉が見学時はなぜか撤去されていて、半屋外の扱いになっていた。 浴槽の左手に腰窓と扉が並ぶ。 腰窓の向こう側はキッチン。 もともとベランダに面していたキッチンの外側に浴室を増設したがために、この様な変則的な状況が生じた。

外部空間の一部を屋内化し浴室を後付けする事例は、ほかにも多々見受けられる。 建築探訪のページで紹介している都営桐ケ丘団地E4棟もその一つ。 あるいは、「バスオール」※2と名付けられた室内に据え置く入浴スペース(というよりも背の高い覆い付きの浴槽)がヒット商品として流通していた時代もあった。
何としてでも確保したい内風呂。 その切実なニーズはあらゆる形式の住まいに取り入れられ、そしてより快適で豊かなものへと進化し続けて来た。

そんな流れに変化が生じている様だ。
一般財団法人ベターリビングが定める優良住宅部品認定基準に、「シャワールームユニット」が4月21日に追加された。 これは、浴槽を有しない、洗い場とシャワー設備のみで構成されたユニットバス。 同日付の財団のニュースリリースには制定の背景として

浴室内での溺水事故を防止するためのアイデアとして、浴槽を使用しない入浴方法が考えられることが提案された

とある。 適用範囲として、住宅のみならず宿泊施設や福祉・介護施設、病院なども想定しているそうだ。
この様なニーズが広まっているのだなと漠然と受け止めていたら、少し前の新聞に「浴槽レスが人気」との見出し。 浴槽に浸からずシャワーのみで済ませる入浴スタイルがタイパとコスパに優れる。 そして湯にゆっくりと浸かりたい時は近傍のスパや銭湯を利用するのだそうだ。
その割り切りは、メリハリのあるライフスタイルの選択肢としてアリなのかもしれない。 入浴行為にまでタイパを追求して得た余裕時間を一体何に消費すのかは良く判らぬが。
とはいえ、浴槽を設けなければ浴室の面積が節約でき、その分居室面積の拡張や延床面積の縮減等のスペパが得られる。 また、湯に浸かる行為の代替としてのシャワー設備も、例えば頭上から足元までノズルを複数配置しユニット化したもの等、機能を強化した製品が様々発表されている。

いままで、住戸内でサニタリーが占める面積は拡大の一途を辿ってきた。 一般的な戸建て住宅において、かつて浴室は0.75坪が主流だったが、それが1坪、更には1.25坪へと拡張。 ワンルームマンションも、以前は浴槽と洗面とトイレをコンパクトに一つに纏めた三点ユニットが当たり前だったが、いつの頃からかトイレが分離し、更に洗面室も分離。 それに合わせて相対的に居室面積が減少する傾向を、例えば2020年7月22日にも事例を挙げてこの場で言及した。
そんな変容の流れとやや趣きを異にする新たな価値判断の傾向。 それが間取りの在り姿に今後何らかの影響を及ぼすや否や。 少々関心が沸く。

そういえば、スペパを意識してキッチンと洗面化粧台を一体化した住設機器なんかも近年出回り始めているけれど、評判はどうなのだろう。 化粧をしながら、あるいは髭を剃りながら調理に勤しむって、それはそれで優れたタイパなんでしょうかね。

2025.05.19:小市民シリーズ第二期
※1

米澤穂信原作のTVアニメ。
昨年放映された第一期は何とも後味悪い結末。 従って、最終話終了直後の第二期制作決定の告知に対し、「視ないだろうな」と思ったものだった。
それでも4月に始まった第二期初回を視聴してしまったのは、少しは描写されるかもしれぬバッドエンドの後日談への関心。 そんな後向きな動機で眺める画面に描かれる岐阜市内のリアルな日常風景は、しかしあまりにも美しい。 その精緻な描写を視ているうちに不穏な事件が発生して終劇。 これではその後の展開が気になって仕方が無いではないか。
という訳で、原作では「秋期限定栗きんとん事件」と名付けられたエピソードを視聴し続けてしまった次第。

解決回である第17話(第二期7話)では、登場人物の一人、瓜野君の自宅二階の廊下が描かれる。
天井に勾配が生じているのは強いパースが掛かっているためであって、実際にはフラットなのだろう。 それよりも、階段正面に配された一本引戸の三方枠の見込みが深過ぎて気になる。 目視で250mm程度はあろうか。
考えられるのは、瓜野邸が壁式鉄筋コンクリート造で、廊下と居室の間仕切りもそれなりの厚みを必要とする構造壁であること。 そして件の建具がオフセット形式のためであろうか。 廊下途上の外部開口も、差し込む外光が強過ぎてディテールが飛んでいるが、同様に枠見込みの深い納りとなっている様だ。
廊下突き当りの瓜野君の兄の部屋の開き扉は、その三方枠と直交する廊下壁との取り合い箇所に枠見付よりやや幅広の小壁を挿入。 これは、施工精度上の逃げの確保と、その離隔部分に張る壁紙の接着強度確保のための措置か。 ある程度の接着幅が無いと経年で剥がれるリスクが高まりますからね・・・などと、第一期に関し昨年この場に幾度か書いた感想と同様、私が言及出来るのは建築に係る描写がせいぜい※1

そういえば、第13話には伊東豊雄設計の図書館複合施設「ぎふメディアコスモス」の内外観も描かれましたか。 17話でも、事件解明の視覚的演出に円形を多用した同施設の空間の特質がさりげなく活かされた。
しかしそこはそれ、第17話で語り得るを語った主人公の小鳩君も、

喋らせてくれてありがとう。やっぱりこっちの方が・・・体温が上がるよ。

と仰っておりました。
とは言っても、それでは芸が無いので一点だけ。
犯人特定のため小鳩君が仕掛けた情報操作は、如何なものかとは思いましたかね。 学内で話題のコラムへの細工は、異なるバージョンの文面に接した者同士で話題や憶測を呼ぶだろうし、それに起因して事件があらぬ方向に進展するリスク・・・何てことは、小市民ではない主人公にとっては些事なのか。

閑話休題。
第一期のバッドエンドを乗り越えて美しく纏まるかに思えたエピソードの締めは、これまた何とも"恐ろしい"オチ。 今クールの残りの枠で描かれる次のエピソード「冬期限定ボンボンショコラ事件」は、果たしてどの様な展開を見せてくれますやら。 結局、視聴継続となりそうだ。

2025.05.13:狸上るビル

※1
同誌は今年から季刊に移行。


※2
設計・施工:竹中工務店
竣工:2023年12月

連休は、いつもの通り北海道に帰省。 滞在中、観てみようと予め考えていた建物が一つだけあった。 月刊建設技術誌※1の2024年12月号にて紹介された札幌市内の「狸上るビル」※2。 名称に「狸」とあるのは、市街中心部に東西約900mにわたって形成された狸小路商店街の中に立地するためか。
全蓋アーケードに覆われた街路の両側に老舗から新進の店舗まで様々な商業施設が連なる一画に新たに建てられた複合用途ビル。 同号の表紙には、接道側の様子が捉えられている。
路面より建物を後退させ、半公共的な空間を確保。 吹抜けを介し、間口いっぱいに取られたハイサイドライトから自然光がたっぷり射し込むアトリウム空間となっている。 その両袖に立ち上がる壁面の表層仕上げが何とも柔らかいテクスチュア。 関心を持ち本文を確認すると、木毛セメント板を使用している旨、記述されている。 その採用が単に意匠ではなく、敷地与件に起因する施工性確保や室内の温熱環境確保、そして省co2対策である等、とても興味深く解説を読んだ。

木毛セメント板を初めて建材として意識して眺めたのはいつ頃だったか。 記憶の範囲では、高校の校舎。 階段の踊り場に面する倉庫内の天井に現しで使われていた。 何だか巨大な“たたみいわし”みたいで良い印象は持てぬまま今に至っている。
一般的には下地材として用いられる建材。 現しで使うのは意匠的な配慮を要さない部分や、敢えてそのテクスチュアを意匠として活かす場合。 果たして、当該建物においてそれがどの様に見えるのか。 また、どんな雰囲気でアーケード付き商店街の中に納まっているのか。 そんな興味から訪ねてみた。

実際に眺めた印象は意外と良い。 石や金属やタイル等の硬質な部材で埋め尽くされた都心部において、そのテクスチュアが何処か心地良い。 但し、近くに寄ってみると、躯体打設用の型枠として用いつつそのまま表層仕上げとするための現場管理の苦労が散見されもしましたか。 セパ穴補修も、意識して探さなければ殆ど判らぬ程に丁寧に処理されている。
吹抜けの上部には、アーケードの屋上への維持管理用階段。 ハイサイドライトに向かって伸びるその階段が、上へ上へと空間が抜けてゆく様な垂直性を強化する。 館名にある「狸上るビル」とは言い得て妙。

現況、アトリウムは建物内へのアプローチ及び一階店舗のディスプレイ空間。 喧騒からやや引いた無目的に滞留可能な場所としてのもっと積極的な活用方法があっても良い様に思う。
建築技術誌掲載の設計者の解説文には、

都市的街路空間に対し,襞状のポケットパークを設けることで,点的な賑わいを,街路空間を介して線的につなげ,面的な都心部の活性化へと発展させる開発の起点となることを目指した。

とある。 その意図に沿う供用の在り方は、今後様々試行されるのだろうか。
屋内出入口脇の壁に、プロジェクトに携わった人々の名前を記したステンレスプレートが棟札の如く設置されていた。 通常棟札は普段人の目に触れぬ小屋裏に安置される場合が多いが、こうして表に掲示されるのは関係者の勞をねぎらう、もしくは尊重する上で意義深いと思う。

2025.04.28:新建築2025年4月号

自然光の納骨堂
古森弘一建築設計事務所

お盆の寺参りは、炎天下にありながら本堂に入るといつも微かな涼を感じる。 深く張り出す軒が建物外周に落とす陰影。 あるいは豪放に葺かれた屋根瓦が苛烈な日射熱を遮蔽。 更には全て開け放たれた外部開口による通風・排熱の確保。 それらが、機械空調に一切頼らずに外気とは異なる温熱環境を屋内にもたらす。

恐らくは当該作品においても同質の体感を得られるのだろう。 そのための各種検証を積み重ねて作品が形づくられる過程が解り易く紙上に紹介されていて、とても興味深い。
今、国内の省エネ及び省co2施策は、外皮の断熱性能を徹底的に上げ、併せて高効率設備機器を導入する方向に著しく偏っている。 夏期や冬期等、気候が厳しい季節において快適性を確保しつつ環境配慮を推進する手段として、それは有効な面もある。 しかし、ホールライフカーボンの評価においてはもっと多様なエンジニアリングの併用が求められよう。

そんな多様であるべき環境技術の一つが、当該作品にて実現している。 そして技術だけでなく、トップライトの配列に家紋を参照するといった意匠上の演出や、それによってもたらされる厳粛で静謐な内部空間も建物の用途にしっかりと寄り添っている。
今後、更に境内に様々な施設の整備が計画されている旨、紙面に示されているが、同じ設計者が同じ方向性で手掛けるのか。 そうであるならば興味深い。

庄内町立図書館
堀場弘+工藤和美/シーラカンスK&H

周囲の景観に外観が程良く馴染んでいるネとか、木と鉄を組み合わせた屋根架構の内観見上げがちょっと騒々しいかもネ、などの漠然とした作品への印象とは別に、巻末のデータシート(建築概要)に小さく載せられた旧図書館の外観写真がとても気になった。
立地する余目は、羽越本線と陸羽西線の乗り換えで幾度か途中下車し駅前周辺を散策している。 しかし、旧図書館の方まで歩を向ける機会は無かった。 建て替えられる前に訪ねてみたかったな、などと掲載作品とは全く関係ないことを想う。

東京藝術大学 芸術未来研究場
高野洋平+森田祥子/MARU。architecture

学内福利厚生施設の庭石を平滑にスライスして法則に従いモルタル塗りの床面に埋め込む造作は、飛石か景石を配した庭が二次元平面に置換されたかの如し。 パッと見た目には面白いけれど、それぞれの石を起点にモルタル面に放射状にクラックが多数生じている様子が見開きの内観写真にしっかりと映り込んでいる。
美しくないし、時間を経ずしての発生が必然のデザイン。 誰一人懸念を述べる関係者はいなかったのか。 あるいは、モルタルへのクラック低減材の混和等の緩和措置は検討されていたのか。
加えて、紹介された部位は大開口のサッシを介して屋外テラスと一体的に扱われる空間ゆえに、天候によっては雨水の吹き込みが想定される。 床材としての安全評価に係る湿潤時の滑り抵抗について、画像目視の範囲では怪しそうな石材が散見されなくもない。
芸術のことは詳しくないけれど、素材の物性に対し無知では通用しまい。 芸術の未来を研究する場と称する建築空間の在り姿としては少々・・・。

2025.04.22:「滋賀の家展」の図録を読む

東海道新幹線から眺める風景の中で、米原駅界隈はいつも他とは異なる湿度を帯びている印象を受ける。 疾走する密閉空間の内側に居ながらも、それを容易に知覚出来る。 四季を通じて深く潤う大気の下に散在する家並みも、どこか風格を帯びた佇まい。 とても気になりながら、瞬く間に過ぎ去るその風景にいつも車窓を介して想いを寄せるのみ。

そんな同エリアからやや京都寄りに立地する滋賀県立美術館にて、「滋賀の家展」と題する企画展が昨年開催されていたことは知っていた。 展示の中にプレハブ住宅に関する内容が含まれる情報も掴んでいた。 もしかすると、その分野を御専門の一つとされているあの方がキュレーションに関わられるのかもしれないな・・・などと少々気になってもいたが、結局行けず仕舞いであった。
それから約半年が経過。 そのもしやの方からmailが届く。 企画展の図録に論文を載せているので送付しますとの内容。 やはり関わっていらっしゃった。 世間は何とも狭いものである。 否、最近別の知人が「世間が広かったためしなど無い」と話していた。 本当にその通りなのかもしれぬ。

図録が届き、当然ながらその方が書かれた文章が載るページをいの一番に開く。 怒涛の如く並ぶ見覚えのあるプレハブ住宅に関する固有名詞を追いながら読み進めるその視線が、徐々に熱を帯びてくる。 そして、「エー!そうだったのか!!」との驚嘆の連続のうちに一気に読み終える。
そう、それらの固有名詞がすべからく滋賀と密接に関わる事実。 私は今までその様な視点は一切持ち得なかった。 住宅産業に対する全く新しい捉え方。 未知の探求。 その論説を大いに堪能した。
図録の序盤には、氏が所蔵する膨大且つ極めて貴重なプレハブ住宅に関する資料の極々一部が出展された会場の様子も紹介されている。 それらが作品として扱われ美術館に展示されるのは、国内初の画期なのではないか。 やはり行くべきだったのだなと後悔するも、これはもう自業自得で今更どうしようもない。
私信になってしまうが、素晴らしい図録をお送り頂いた愛知産業大学の竹内孝治先生にこの場で感謝の意を表します。

滋賀の家、若しくはその佇まいというと、山口昌伴著の「和風の住まい術: 日本列島空間探索の旅から」が思い浮かぶ。 第10章の米原から関ヶ原にかけての記述は、同展の指向とは異なるものの、このエリアの住文化に対する関心を大いに深める。
久々に書棚から取り出し読んでみたら、僅か数行ながらも積水ハウスの滋賀工場への言及があるではないか。 購読した頃は住宅メーカーへの関心を完全に失っていたため、全く気に留めていなかった。 でも、文中の極々短い一節が、実は凄い事実へと繋がる手掛かりであったりする。

いつも通過するだけの滋賀を、ゆっくりと訪ねてみたくなった。

2025.04.14:メーカー住宅私考_203
ひとりの住まい ふたりの住まい

掲題は、ハウジングトリビューン誌の2025年6月号で組まれた特集記事。 サブタイトルを「動き出す単身・小世帯向け戸建て住宅市場」とし、国内の人口動態を踏まえた市場の流れを紹介している。
単身及び小世帯の増加は今に始まった傾向ではないし、以前からそれらの属性を対象としたモデルを商品体系の中に置いているハウスメーカーも少なくはない。 なので今さら感も無きにしも非ずだが、市場縮小の中、強化が図られる流れになりつつある様だ。

二人暮らし、ないしは独居。 前者は血縁に拠らぬ同居も含む。 それらをターゲットに供給者側が提案するモデルが幾つか掲載されているが、新味はない。 市場のスタンダードとして脈々と供給され続けて来た家族向けのプランを矮小化させただけの印象に留まる。
今まで、家の間取りを考える際には両親と子供が一つの屋根の下で暮らす条件が大前提となっていた。 家族だれもが快適に暮らすための諸室配置と動線の設定。 部屋数と各部屋の広さの確保。 子供部屋は、幼少期から就学期等、様々なフェーズに対応した空間の可変性もある程度求められる。
そんな諸条件の元、より豊かな暮らしを求めて多種多様な商品提案がなされ、あるいは次々と新たな要求品質が生じ、それらに対応した住まいが形作られてきた。

しかし独居の場合はどうだろう。 時折来訪者もあろうが、基本日常生活は一人なのだから上記諸条件は一切検証無用。 自分本位のプランが組み立て可能だ。 例えば、リビングルームは必須ではないのもしれぬ。 諸室の面積配分や居室と水廻りの関係も、慣例に縛られる必要はない。
果たして旧来の諸条件に替わる独居に共通のプラン生成の手掛かりとなる形式は何か。 その辺りを明確に提示し得た規格住宅がこれからの住宅市場を制す可能性は低くは無かろう。

ミサワホームが以前から掲げる理念に、「住まいは巣まい」がある。 住まいとは根源的には子育てのためにあるものだとする考え方。 その前提が無用の住み手にとって、住宅の在り姿は如何にあるべきか。
それ以前に、“巣まい”である必要を伴わぬターゲットの持ち家へのニーズは如何程なのか。 その時々のライフステージに合わせ気軽に賃貸マンションを住み替え続ける選択肢も十分ある訳で、戸建てのターゲットとしてその位置づけは非常に曖昧なのかもしれぬ。
確実に進行する人口動態に対し、市場はどう動くのだろう。

2025.04.08:メーカー住宅私考_202
規格住宅の現在地

西岸良平の作品「三丁目の夕日 夕焼けの詩」第6巻所収の「夕日台駅徒歩10分」は、一戸建て住宅の取得を夢見て倹約生活に勤しむ若い夫婦を描いたエピソード。 努力の甲斐あって資金の目途が立ち、候補の土地も見つけた。 傍らに落ちていた木の枝を拾い、二人でその敷地の地面に、建てたい家の間取りを原寸大で描き始める。 ここが居間、そしてこっちが寝室。 台所はこの辺りに・・・。
素人が家の設計図を仕立てるそのシーンを見て違和を感じる人はいまい。 そう、一戸建て住宅に限って言えば、全ての日本人が設計者になれる。 古来からの建築の基本モジュールが身体感覚として備わり、6畳や8畳などの空間認識も無意識のうちに共有出来ている。 だから間取りも描けるし、あるいは平面図を見れば概ねの空間の在り姿もイメージ出来てしまう。
そして巷に氾濫する住宅に関する情報。 それらによって内外観のみならずエクステリアに至るまで、自身が希求する住まいに向けたビジュアルを自由自在に想い描けもする。
しかし、そこから先はなかなか難しい。 予算、敷地条件、理想と生活習慣のギャップ、更には構法や法的な規制。 膨らんだ夢をそれらと整合すべく現実に落とし込む段階になると、専門家の出番となる。

そうして膨らむだけ膨らんだ住まいに対する様々な想いを専門家と相談しながら取捨選択し、個々に実現可能な最適解へと取り纏めてみると、結果として似た様なパターンが見い出せてくる。 それらを仔細に分析して体系化。 そして商品として魅力を強化するための能書き(一般的には「コンセプト」と呼ぶ)を添える。 更にはプランやインテリア、そして設備や外観パーツに至るまで、捻り出した能書きに沿ってバリエーションを様々設定して多岐にわたるニーズに応える体制を整えると、ハウスメーカーやパワービルダーが手掛ける規格住宅になる。
施主側は、膨大なバリエーションの中から自分たち好みの組合せを選定する過程に家づくりの楽しさを見い出しつつ、肥大する希望で収拾がつかなくなるリスクを回避できる。 メーカー側は、打合せ時間の短縮や決定後の各種手続きの効率化が図られ経費節減や業務省力化にも繋がるし、コストコントロールも容易になる。 無難なプランの提供が、アフタークレームの発生リスク低減にもなろう。 現場においても、規格化によって施工の合理化が可能となり、ひいてはそれが品質確保・向上にも繋がる。 そうして出来上がった住まいは、膨大な組み合わせの中の一例なのだから取り敢えずの個性も一応は確保される。
何だか誰にとっても良いことづくめの家づくりのプロセスの様に見えてしまわなくもない。

単純には、あまり肯定したいとは思わぬ。 果たしてそこに、かつての"企画"住宅に見受けられた生産技術及び商品性に纏わる先導的な提案がどの程度備わっているのか。 この場で何度も繰り返しているが、私のハウスメーカーへの関心は昭和50年代で途切れ停止・硬化してしまっているゆえ、良く判らぬ。
しかし昨今の物価上昇や人件費高騰によって自由設計は高嶺の花。 市場は規格住宅へと主流が移行しつつある旨、例えば日経アーキテクチュア誌の2025年2月27日号にも掲載されている。 あるいは建築知識誌の2009年10月号では、ハウスメーカーのプランや仕様は「生活者が望む最大公約数の姿」であり、「設計者や工務店が学べることが多くある」と評する記事が掲載されていた。
だから、規格住宅の昨今の動向を検証してみる価値は少なくは無いのかもしれぬ。

2025.04.01:休日の過ごし方

直前になっても、その日は会議や打合せ等の予定が一つも入らなかった。 ならばと休暇を取得する。
通常、休暇は土日や祝日と組み合わせる場合が多い。 そうではなく週の真ん中の一日だけ取るとなると、過ごし方はある程度限られる。 今回は、平日に観てみたいと前から思っていた建物を訪ねてみることにした。

その小振りな建物は、移動中の電車の窓越しに偶然目に留まったもの。 その時も、そして後日再訪した際も、エントランスの前に車が二台横付けされていた。 いずれも建物管理者の方々の所有で、休日は使用しないので駐車しているのだろう。 ならば平日は業務で車が出払った状態を拝めるかもしれぬ。 そんな淡い期待を込め電車を乗り継ぎ久々に訪ねたのだが、状況は休日と同じ。
まぁ、こんなものだよナと少々落胆しながらトボトボと最寄り駅に引き返すとちょうど昼時。 食事でもとろうと高架下商業施設内の店に入る。 注文した日替わりの鯖粕漬定食は副菜も含めとても繊細な味付け。 箸置きは猫の形。 添えられた大根おろしも猫型に成型され、予め掛けられた醤油のまだら模様も猫っぽさを補完している。 こじんまりとした店内を見渡せば、猫に関連した設えが多数。 個性的なこだわりを持つその店の名は「海鮮和食 お肴ぬこ」。 当地再訪の機会があればまた入店したい。

美味しい料理にすっかり気分を良くし、勢いで再び目当ての建物に向かう。 変わらず車が停まっていたら、もう諦めようと。
すると一台は出払っているではないか。 そしてもう一台も、まさに出発するところ。 これは何とも絶好のタイミングと、何にも遮られていない外観と対峙。 その意匠をゆっくりと堪能する。
撮影も試みるが、冬の晴天下の逆光。 なかなか思う様な画像が取れない。 恨めしく空を見上げれば、しかし雲がひと固まり、ゆっくり流れてくる。 少し待てば陰るタイミングがあるかもと、近傍に整備された児童公園のベンチに腰掛け待つこと数刻。 その瞬間が訪れた。

といったプロセスを経て撮った写真に文章を添えて、建築探訪のページに「大網白里市商工会館」を載せるに至った次第。

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