今年も何度か読書感想文めいたものをこの場に書いた。
それ以外に目を通した書籍の中から今年印象に残ったものを以下に5冊。
メタル建築史 もうひとつの近代建築史
難波和彦 著
金属の観点から建築の歴史を読み解いた本。
建築を四種の層に分けて捉える試みは、「建築とは何か」という哲学的命題に対するあまりにも明晰な解答。
その諸相から近現代の鋼構造建築に迫る言説はとても刺激的だ。
でも、その四種の層って、建築のみならずあらゆる事々の価値判断基準として応用、適用が可能な気もする。
現代の生活にマッチした新しい小住宅間取り集
住まいとプレハブ建築会
ヨシモトホーム設計部 共著
1972年に発刊された間取り図集。
掲載されているプランや内外観写真を見ていると、当時のミサワホームの印象と被る。
さもありなん。
著者のヨシモトホームは当時ミサワホームのディラーをやっていた※1。
ところが業務提携によって得た技術やデザイン手法を用いて、自分達のオリジナルとして事業を展開。
程なくして両社は工業所有権を巡って揉めることとなる。
類似事例は国内のプレハブ住宅草創期において幾つかあったが、そんな歴史の一つの物的証拠としてこの古書を購入した。
私は、出版時の書価の二倍弱の価格で入手したが、同じ時期に二十倍以上の値段でも出回っていた。
これだから古書の購入は気をつけねばならぬ。
君の名は。 Another Side:Earthbound
加納新太 著
かの「君の名は。」のスピンオフ短編集。
本作からこぼれ落ちた4つのエピソードから構成される。
そのうちの第四話「あなたが結んだもの」は、民俗学的あるいは神話的見地まで踏み込んだ怪作。
そして、本作ではその構成上バッサリ削ぎ落とされた重要なストーリーが綿密に描かれている※2。
この本を読むならばまず映画を観るべきだし、映画を観たならばこの単行本にも目を通すべき。
ネット上で本作の解釈を巡る様々な議論が交わされているが、その解答の多くがここに在る。
異形建築巡礼
石山修武
毛綱毅曠 共著
かつて中外出版から刊行されていた建築専門誌、その名もずばり「建築」にて1970年代初頭に連載されていた「異形の建築」の採録。
私は当該連載が載せられたバックナンバーを三冊所持しているが、それ以外の号の内容は未見。
従って、その書籍化はとっても意義深い。
そして何よりも、当時未だ新進気鋭という位置にいらっしゃった御両人の硬質で尖がった文体がとっても味わい深い。
勿論、取り上げられている「建築」の異形っぷりも魅惑的な訳だけれども、最近私が目にした異形建築は、知人が小学生の頃に描いた住宅の間取り図であったりする。
そこに展開するとてつもなく肥大化した戸建住宅(?)が映し出す幻影に少々囚われてしまっているところ、無きにしも非ず。
日本古建築細部語彙 社寺編
綜芸舎編集部 著
近所のブックオフ店内を徘徊中、偶然この書籍を見つけた。
社寺建築を構成する各部位の名称に関する解説書。
全てのディテールにいちいち名前が付いていることに驚く。
社寺建築を観に出かけた際に同行者にコメントを求められたら、適当に「和様(わよう)の要素が強い折衷様(せっちゅうよう)ですな。」とでも答えておけば取り敢えずはその場を取り繕える・・・などと浅はかなことを考えているのだけれども、それでは日本人として少々寂しい。
だから、時折この本を開いて細部の名称とその意味について思いを巡らせつつ知識を深めるのも良いかなと思っている。