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2021.07−2021.09
2021.09.29:メーカー住宅私考_153
住まいの女性性、男性性
※1

ソーブルの広告に載せられたキッチン廻りの画像。 姑が料理の盛り付けを行っている左手の台が、食器棚に収容可能なスライドテーブル。

ハウスメーカーの80年代の動向として、主婦層へのアピールを念頭においた商品企画について前回述べた。
言及したクボタハウスや積水化学工業のモデル以外にも、例えば殖産住宅は1981年に企画住宅「ミセスピア」を発表。 キッチンの脇に二から三帖程度の主婦専用のパーソナルスペースが設けられた。 縦長窓とトップライトを組み合わせた独特な開口によって外観デザインのポイントにすると共に、当該室に北向きの安定した採光を確保。 そして机が設えられ、主婦の多彩な活用に資する空間が企図された。 その二年後、同社では「ミセスピア研究所」なる組織を立ち上げて主婦をターゲットとした商品企画の検証をより積極的に推進する。
ナショナル住宅産業が1983年4月に発売した「ソーブル」では、キッチンの造り付け食器棚にスライドテーブルを装備。 必要に応じて引き出し、調理や家事の作業台として、あるいは軽食をとるためのテーブルとして用いる等の多目的な活用を想定した。 当時の広告には、「ミセスからミセスへの提案。」と謳い、姑と嫁がこのスライドテーブルを中心にキッチンで和やかにホームパーティーの料理の盛り付けとフラワーアレンジメントに勤しむ様子が掲載された※1。 更にそこに添えられた文章には、

美しく、楽しく、知的にくらしたい、といったミセスの夢にお応えし、ナショナル住宅は、住まいそのものに提案をもたせました。

とある。 ソーブルというモデルそのものよりも、そのキッチンに搭載されたギミックを前面に押し出し主婦層にアピールしようとする広告戦略が容易に見て取れる。

これ以外にも、同時期の各メーカーのモデルについて類似の事例は枚挙に暇がない。 しかしその中で一社、ミサワホームに関しては意外とその手の方向性が各モデルから見えてこないという印象。 否、勿論キッチンセットの構成に繊細な配慮を尽くしたり、あるいは家事動線に効率性を求めるといった他社が主婦向けのアピール材料として用いている事項は当然の如く網羅している。 しかしそれを商品の差別化として殊更に強調している風では無い。
そこは、他社の動向とは一線を画そうとするミサワホームらしいところと言えるのかもしれぬ。 仮に他社と競合することとなり、顧客からミセスコーナー的な空間の有無を問われた場面があったとするならば、「ミセスコーナーでございますか。イエイエ奥様、弊社ではもっと素敵な「余暇室」を設けたプランを御用意しています。こちらのお部屋でしたら奥様の趣味をより多彩に展開できますよ。如何ですか、この余暇室を備えたM型2リビング。奥様にぴったりです。」といったアピールが可能。 他にもミセスコーナー代替のセールストークを展開可能なモデルに事欠かぬ※2。 それだけの強固な商品体系を当時の同社は備えていた。
あるいは、当時の同社の商品体系の礎となり、尚且つ業界全体の企画住宅路線の火付け役ともなったミサワホームO型が、どちらかというと家長たる父親の価値観を捉えていたことも影響しているのかもしれぬ。 その開発過程において、城郭のイメージが開発者の間で共有されていたことが、内橋克人著の「続々続々匠の時代」に詳述されている。 一部引用すると、

一家の主人というのは、外へ出て仕事をするわけですネ。それは、ま、戦場へ出ていくようなものですよ。で、一日が終わり、戦争が終わる。ホッとして戻ってくるのがマイホームです。マイホームは男にとって、お城でなければならないんです。お城でいきましょう。お城のイメージです・・・。

という創業者三沢千代治の言葉が載せられている。
その指示通りに石垣や千鳥破風が付けられた訳では無いけれど、空前絶後の大ヒットモデルとなったO型は壁式工法であるにも関わらず軸組構造の真壁造り風の外観意匠が与えられ、そして屋内には大黒柱が屹立した。 更にそのパンフレットにおいて、二階の個室の一つは父親専用の書斎を想定した設えが施され、更にオプション設定の半地下室※3も、男が趣味に興じる空間という位置づけが演出された。 そんなO型に続くMII型の広告には、

男盛り働き盛りの壮年世代向けに企画されたこの家。お住みになる方々も社会の主流です。

という文言。 そして、家父長制主義的とも受け取れる内観が徹底されたことは、「住宅メーカーの週宅」の当該モデルのページでも言及した。
以降の企画モデルにおいても、同様のテイストが通奏低音の如く反映されていた面があったのかもしれぬ。 そんな同社の商品体系は、その後主婦向けではなく子育てを中心に据えた提案へと変化してゆく。

※2
M型2リビング以外でも、当時の同社の商品体系の中であれば、例えばO型の二階ホールに浮かぶロフト直下の窓際のスペースも該当しよう。 実際、O型の販売資料には、そこにミシンを据えた机を配している。 それは残余の空間では無く、居心地の良さそうな溜まりのスペースだ。
あるいは、GII型の二階主寝室北側のコーナー出窓が穿たれた続き間も同様の空間として位置づけることが可能。 MII型やMIII型の二階四畳の部屋もそれにあてがうことが出来るだろう。
ということで、空間は目的に応じて様々に定義付け出来るものである。

※3
当該シリーズの第114回(2020年4月26日)参照。
2021.09.23:メーカー住宅私考_152
クボタハウス GXシリーズ・フレクセル

外観


玄関廻り

1984年7月7日に発表されたモデル。 その初期広告には「ミセスが自分らしさを描ける住まい」とある。
70年代半ば以降、いわゆる商品化住宅が台頭してくると、住宅購入の決定権が主婦層にある場合が多いことを念頭においた商品企画が主流化する。 その先駆例を辿るのはなかなか難しそうだが、例えば積水化学工業が1979年に発表したセキスイハイムM3-NEWのキャッチコピーとして用いた「お前がいいと言うならば」などはその典型例。 この文句を歌詞に取り入れたCMソングも制作され、大々的な広告展開が図られた。
当該モデルもそんな時代の流れの中に位置づけられる。

では、このモデルが具体的にどの様な空間的な仕掛けをもって主婦層へのアピールを図ろうとしたのか。 広告に載せられたプラン事例を眺めてみる。
例えば矩折に配したLDKの隅角部に設定したミセスコーナー。 あるいはキッチン脇に広めにとられたユーティリティ。 そのユーティリティに面して設けられたパントリー。 ユーティリティと水廻りが上下階に分散するため階段を介すが、それでも距離の短絡に少しでも配慮したと思われる家事動線等々。


一階平面図

二階平面図

それらは、同時期に同様の意図で企画された他社モデルにも見受けられる措置。 つまりそれだけでは凡庸なモデルに終わってしまうところだが、ここでは玄関廻りに個性が顕れている。 即ち、土間とホールを拡張し、接客スペースとした点。 家族の中で在宅時間が最も長くなるであろう主婦が、部屋の中まで招き入れる程でもない近隣の友人知人との軽いコミュニケーションの場として活用可能なスペース。 更にその背後に控える和室と組み合わせて、様々な住まい方の展開が可能となろう。
この頃、住宅専門月刊誌「ニューハウス」に松田妙子が「苦言提言」というコラムを連載していた。 1984年8月号のタイトルは、「今こそ「玄関再考」を」。 単に靴を着脱するだけの場に堕した近年の玄関の在り姿に苦言を呈し、もっと日本固有の空間として積極的に捉えるべきだといったことを述べている。 その言説とフレクセルのこの玄関部分が自身の中で強く重なることとなった。

ところで、空間の読み解き方やその表現方法は如何様にもあり得る。
例えば接客スペースとして成立させるためのホール側からの座位確保のため、上がり框は通常よりも随分高いこととなろう。 その段差をどの様に処理していたのかは画像からは判別できぬが、日本古来の封建的な佇まいを想わせる高低差だ。 重厚な沓脱石でも置いてみたくなる。 であるならばこの玄関ホールも、背後に控える和室の前室若しくは次の間としての位置付けが浮かんでくる。 今風のインテリアを装いながらも古風な空間の組み立てを踏襲したそれらの設えに続く和室に、床の間を背に主人がどっしりと鎮座ましましているの図。 封建的な日本の家屋の構え。 ミセスコーナーとは別に主寝室に書斎を確保している点も含め、この住宅を家父長制の復活と強化を企図したモデルとする真逆の見立てが可能なところも面白いということにしておこう。

2021.09.16:メーカー住宅私考_151
積水ハウス イズ・フラット

イズ・フラット外観
積水ハウスは自由設計が基本なので、ここに引用したのは同商品の一事例。 最初期の広告に用いられたもの。
陸屋根の総二階に一部北側斜線に対応した勾配屋根を組み合わせた全体ボリュームや、レンガ積みの様な凹凸パターンを施した外表等、同モデルの三年後に発売されたCHYLDER・MX2にもこれらの要素が見い出せる。

※1
一時期、同社ではユニット工法ではなく現場施工の鉄骨軸組にPALCを外表として張る工法を用いた商品体系を組んでいた。 即ち、イズ・フラットと同じ工法。 1985年に発表したセラミックエイブル(センチュリーフリーサイズ)が該当する。
この系統で、THE CENTURY NEW CERAMIC(当シリーズ第113回(2020年3月23日)参照)の様なイズ・フラットに劣らぬ意匠性を持つモデルも発表された。

前回、ミサワホームのCHYLDER・MX2の外観が類似性を持つと述べた流れで、積水ハウスのイズ・フラットについても言及してみる。 CHYLDER・MX2の発売より三年遡る1984年7月に発表された当該モデルは、鉄骨軸組を主要構造体とし、「ダインコンクリート」と称する独自開発のプレキャストコンクリートパネルを外装材として用いた。
同社は、軽量鉄骨軸組造に鋼製乾式外装パネルを張る工法に端を発し、以降木造軸組みやツーバイフォー、そしてプレハブ鉄筋を用いたRC造等、工法のバリエーションを多彩に展開。 その時々の多用なニーズにきめ細かく応じ、高品質な住宅を提供するという方針に基づき、いずれの工法においても同社商品として遜色のない意匠や性能そして仕様を満たしてきた。
そこに新たに加えられたイズ・フラットの工法も然り。 そして同工法はイズ・シリーズと銘打ち以降様々な商品展開を図り今日に至っている。

「ダインコンクリート」と同系統の部材として、ALCや、あるいはミサワホームが開発したPALCなどが挙げられる。 物性に違いは有れど、建材として求められる様々な性能を向上させたプレキャストコンクリートパネルである点は同じ。
ALCを用いた住宅というと旭化成ホームズのヘーベルハウスが即思い浮かぶが、当時のデザインは優れているとは思えなかった。 ALCパネルを用いて陸屋根と外壁を組み立てた、いかにもコンクリート系プレハブ住宅といった趣き。 寄棟屋根を載せた「本棟」やALCパネルの外表面に化粧目地を施した「キュービック」等の意匠性に配慮した事例が漸く出始めつつあったという状況。
ミサワホームが1981年以降、PALCを外装に用いて商品化を進めていたユニット工法系列の各モデルも同様※1。 木質パネル工法で工業化住宅の傑作を怒涛の如く発表し続けて来た会社のモノとは思えぬ凡そ感心出来ぬ事例が多々世に送り出されていた。 一例として、ミサワホーム555について「住宅メーカーの住宅」の「不可解なモデル」の項で言及を試みている。
そんな中にあって、イズ・フラットは同社の他工法による商品群に劣らぬ質の高い内外観を獲得していた。


一階平面図

二階平面図

コンクリートの物性を活かした外表面への繊細な凹凸模様の転写成形が施された美しい外装。 そして建物の中央に設けた折返し階段の中踊り場部分に「ステージ」と称する溜まりのスペースを設け、二層吹抜けのリビングと二階のロフトスタジオやギャラリーとを有機的に連携させた大胆な内観構成。 あるいは、それだけでは取り留めのない大空間となってしまいそうなところを、ベイウィンドに面するソファ設置想定箇所は通常の天井高に収めて空間の中に拠り所を創り出す配慮も読み取れる。
家事動線にやや難があったり、あるいは子供室に個別の収納が無いといった気になる点も無くは無いが、これはあくまでも一事例。 他メーカーがいびつな様相を纏うモデルに手をこまねく中で、積水ハウスは同系の工法を用いた最初期モデルでいきなり高い完成度を誇った。

但し、往時その完成度に高い感銘を受けていたかと言えば、否。 少々矛盾を帯びた表現となるが、当時私が抱いた印象は「質の高い凡庸な住宅」。 むしろ関心は、例えば意匠的には残念ながらも先進性が強く指向されたミサワホーム555の様なモデルの方に向いていた。

2021.09.08:メーカー住宅私考_150
ミサワホーム・CHYLDER・MX2
※1

外観
この事例は、本文中に引用した平面プランの二階部分にバルコニーを追加したもの。 これ以外にも、屋上庭園を設けたフラットルーフに替わり切妻屋根を載せるパターンが用意される等、オプションパーツを充実させ商品性が高められた。

既に何度もこの場に書いているが、住宅メーカーに対する個人的な関心は、80年代半ばに一旦途絶えている。 今世紀に入って暫くしてから復活するまでの間、各社の動向についてリアルタイムに接した情報は極々僅かなものに留まる。
だから、このモデルのことを知ったのも近年になってから。 1987年に発売されているから、私が興味を失ってから然程経過せぬタイミングで世に出たことになる。 にも関わらず、その名前や内外観に至るまで、その当時全く知ることもなかった。 それはつまり、如何に急速に興味を失い、そして失った後は徹底的に無関心であったかということを端的に示すことでもあろう。 否、別に示す必要など無いのだが、70年代後半から80年代半ばまでの間、どっぷりとメーカー住宅にハマり、ミサワホームを中心に熱狂的に各社のモデルを追跡していた時期のことを鑑みれば、その落差はあまりにも激しい。

近年、当該モデルの外観写真※1を初めて目にした際の印象は、積水ハウスが1984年7月に発表したコンクリート系住宅「イズ・フラット」みたいだナといったところ。 特にこれといって関心を抱くような目新しい要素を見い出すことは無かった。 内観についても然り。 強いて言及するならば、1983年2月5日に発売されたミサワホームAIII型のプランを彷彿とさせる。 他社からも類似製品が乱造され、もう十分手垢にまみれた構成。
これらのことが、住宅メーカーに対する興味を急速に失った要因の一つ。 既視感、そしてメーカーの個性の喪失。 だから、興味が復活したといってもその対象は現在の動向にはない。 かつて熱狂的に追及していた時期、そしてそれ以前の時代が未だに関心の範囲に留まる。


一階平面図

二階平面図

但し、当該モデルのプランを改めて眺めてみると、凡庸ながらも様々な配慮事項が見えてくる。
例えば一階和室の設え。 AIII型と共通項の多いO型の一階和室に関し、床の間の位置に纏わる規範からのズレについて以前このシリーズで何回かに分けて言及した※2。 その矛盾が、やや変則的な造り込みながらも取り敢えずは改善されている。 規範との整合に意を払ったことは、量から質、更に味わいへと居住性能に係る価値判断指標を転換※3させてきた同社の設計思想の流れの表れなのかもしれぬ。 そしてLDKの配置をワンルームでの処理に割り切ったAIII型に対し、キッチンをややLDから区分けした配置も良い。 但し、今であればLDとの対面化が更に求められる。 そのキッチンは、玄関ホールを介さず他の水廻りと往来する家事動線が確保された。 あるいは玄関ホールと水廻りの出入り口との関係も改良されている。

木質パネル工法のAIII型をユニット工法に置き換え、更に四年分の月日の経過を踏まえた商品的微調整を加えた結果がMX2と言えようか。 過去の売れ筋モデルの改善を図りながら、更に「パコカライン※4」という同社が提唱する住宅生産の進化論に則ってユニット工法を強力に推し進めようとする姿勢。 そのことが当該モデルの内外観に顕れている様にも読み取れる。

※2
第132回(2020年12月28日)から第135回(2021年1月15日)にかけて書いてみた。

※3
同社では、「QUALITY21計画」を1975年に策定。 量から質への価値観の変化を念頭においた商品開発の推進を発表。 更に1984年に「アメニティ計画」を発表。 質から味を問う商品開発への移行を提唱した。

※4
「住宅メーカーの住宅」に登録している「NEAT INNOVATOR」のページ参照。
2021.09.01:飲食店の構え

「異世界居酒屋「げん」」の店舗ファサードについて前々回この場に書いた。 看板建築を基本骨格としながら、一階の店回りにはちょっと安直な和風の意匠がへばりつく。
しかし、ここで基本的なディテールの規範との整合はあまり意味をなさぬ。 通りすがりの人の目に留まり、あるいは印象に十分留まる意匠であること。 飲食店のみならず商業建築の構えに普遍的に求められる課題だ。 その課題に応えるべく意が払われ、そしてそんな店先が連なることで飲食店街の風景は活気を醸す。
あるいはそれが漫画の中の設定となると、より高度な課題が生じる。 即ち、小さなコマの中や、あるいは遠望として小さく店舗を描かざるを得ない場合でも、読者にそれが「げん」であることを瞬時に視認させ得ること。 そういった意味で、「げん」のファサードの設定はしっかりと考えられている。

一方で、そういったことにあまり拘っていないと受け止められる店もある。 例えば、最近BSテレ東で再放送された孤独のグルメSeason4第十話で取り上げられた東京都江東区枝川のレストラン「アトム」。
昭和40年代のプレハブ建築草創期の様態を保持する総二階建ての建物。 個人的には大いにそそられるが、出入口扉もまるで事務所のよう。 辛うじてテント看板が、そこが飲食店であることを示唆するのみ。 そんな外観を眺めて、ドラマの主人公も「何なんだ、この佇まい」と少々戸惑う。
内観も然り。 暗めの色彩の木調プリント合板を壁全体に張ったインテリアは、竣工この方一度も手を入れることなく年月が経過したかの如く。 そんな店内で、主人公は定食屋のメニューはかくあるべきという料理の数々に舌鼓を打つこととなる。 店の設定は、現実と合わせてタクシーやトラックの運転手が主だった客。 常連客相手が主だから、設えに特段の意を払う必要も無いということなのかもしれぬ。

そういえば、同様の店、というよりももっと露骨な店を見掛けたことを思い出した。 少し前に建築探訪のページに登録した目黒自動車交通本社ビルにテナント(?)としてかつて入っていた「タカハシ食堂」。 公道に面するその店構えは、まるで裏口の如く。 掲げられた営業時間を示す手書きのボードが、食堂であることを辛うじて視認させるのみ。 もしかすると、テナントというよりも、同タクシー会社の社員食堂を一般にも開放しているという営業形態だったのかもしれぬ。 ために、最低限の設えで成立していた可能性もあろう。 アトムと同様、奇をてらわぬ素直な定食を堪能できたのかもしれぬが、私は入店する勇気が無かった。 というよりも、営業していたのか否かも定かではない状況。 のれんを掛ける等、営業中はもう少し店構えについて何らかの措置がとられていたのかもしれぬ。 しかし建物亡き今となってはそのことも確認しようがない。
現況、googleストリートビューでは除却されてしまった当該建物の様子を見ることが可能。 それによると、当該店舗部分は近年別の店に変わっていた様だ。 画面に映る店名「セレンディピティタクシーカフェ」を手掛かりに調べてみると、なぜかボクサーパンツの販売も行うお洒落なカフェ。 壁一面に派手なボクサーパンツを並べてインテリアの要としているところが何とも個性的。 その店構えは、表通りから奥まった立地を鑑みつつカフェとしての用途に則り整えられたもので旧態から大幅に様変わり。
同じ立地でも、集客の在りようによってその体裁は大きく変わる。

2021.08.26:メーカー住宅私考_149
ミサワホーム・HYBRID地球人の家

外観


玄関廻り

2000年8月1日に発表されたモデル。 初見は新聞の見開き広告であった。 緑量豊かな、まるでゴルフ場の様なロケーションの中にデンと構える堂々とした外観が紙面にたっぷりと写し込まれた、確かそんな広告であったように記憶している。
この場に何度も書いているが、その頃はハウスメーカーへの興味を失っていた。 しかし関心が無いながらも、その派手な広告戦略に時折接することで当時の同社の動向はいくばくか知るに及んでいた。 従って、外観写真で確認可能な各種パーツに当時の同社の様々な先進技術が用いられていることも理解できた。 例えば、外装に顕れる木調の部材は、同社が開発したM-Woodと称する木粉入り樹脂成型材。 外壁は同社が開発したPALCと呼ばれるセラミック系の多機能素材。 屋根に乗る太陽電池パネルは、それ以前のモデルから採用実績がある屋根葺き材一体型のもの、等々。
巨大広告にて確認されるそれらの要素を漫然と眺めながら、どこか従来の住まいの定式からは大きく逸脱した超然とした佇まいが妙に印象に強く残った。 それはラーメンフレームに基づくユニット工法ならではのデザインと、延床面積74坪というスケールによってもたらされるものであった。



二階平面図
一階平面図

改めてその平面図を眺めてみると、1970年代の同社のフラッグシップモデルであるミサワホームG型の諸室配置との類似性が見えてくる。
勿論、全てが単純に踏襲されている訳ではない。 玄関から屋内に入ると正面に通り庭的な廊下状の土間が奥へと伸びる。 G型の場合は奥行の浅い坪庭がアイキャッチとして玄関正面に設えられた。 坪庭も通り庭も日本古来の民家の形式に見受けられる要素。 伝統が現代住宅の中に違和無く溶け込んでいる。 そして吹き抜けを伴う階段の設置。 G型は南面するウェルカムホールに配された。 一方、地球人の家は北側の通り土間に沿う。 そのことによって、玄関廻りに豊かな奥行が演出された。 あるいは奥行を伴うその設えは、G型の縮小版として後年発表されたGII型的でもある。

G型は、80年代半ばに同社が行った商品体系の改編に伴い、センチュリーG5に改称。 少なくとも1988年頃迄は同社のラインアップに留まっていたことが当時の住宅関連書籍から確認できる。 しかし、1990年9月にGOMAS Gタイプとして再ブランディングされた際は、全く異なる内外観に変容した。
一方、1986年に同社から発表されたTHE CENTURY CERAMICとG型の類似性について、このシリーズの第113回(2020年3月23日)にて言及している。 そして今回取り上げたHYBRID地球人の家。 いずれも同社のセラミック系のモデル。 とすると、G型的な商品志向は、木質系からセラミック系に移行し暫くの間姿かたちを緩やかに変容させながら継承されたという解釈が可能なのかもしれない。

2021.08.18:異世界居酒屋「げん」における看板建築の考察

この場に「異世界居酒屋のぶ(以下、「のぶ」)」のコミカライズの感想を幾度か書いている。 掲題の漫画(以下、「げん」)は、その原作の公式スピンアウト作品。
以前から知ってはいたけれども、特に食指は動かなかった。 興味が湧かないという訳では無いが、何せ「のぶ」は様々な派生作品が多種媒体で発表されている。 漫然と接しているとキリが無い。 ところが、いつも利用している居住地近傍のコンビニの書籍コーナーにて「げん」の既刊全巻が目に留まってしまう。 折しも不要不急の外出自粛が求められる夏季休暇。 では、家の中で静かに過ごすためにと、ついつい購入することと相成った。
原作者は「のぶ」と同じだが、作画者は異なる。 内容は、「のぶ」と被らぬよう各種設定に配慮しつつ、しかしスピンアウト作品として本家を意識した演出も散見される。 「のぶ」と同じ異世界に繋がり、しかも時代も一緒。 しかし場所が異なる。 隣り合いながらも敵対する国にそれぞれ立地する。 そんな情勢下、互いの店主が相まみえる機会があると面白いなと思ったりもする。 醤油が縁でそれが実現しそうな気配も無きにしも非ずではあるが、その辺りは今後の愉しみ。

作画者が違うから当然ではあるが、作品の印象は全く異なる。 「げん」が繋がった街は、その異世界におけるその時代の中心地。 王宮ないしは貴族文化が華々しく咲き誇る。 だから、来店客の服装も貴族から平民まで皆華やか。 その辺りの描写を比較すると、「のぶ」が繋がっている街が時代からやや取り残された古都という設定とも抗わぬ様に見えて来る。 街の風景についても同様。 個々のディテールはともかくとして、「のぶ」のそれと比較して華やいだ雰囲気が見て取れる。
しかし、当の「居酒屋げん」のファサードについては、何とも不可思議。 一巻の末尾にその設定が描かれているが、有り体に言うならば和様折衷の看板建築。 洋館を取り繕うとした二階部分は悪くはない。 奇をてらわず、そしてあまりゴテゴテと飾り立てずに洋風の印象を整えている。 一方、平面的にへばり付く一階廻りの和風を狙った設えは何とも胡散臭い。 なまこ壁風を装った腰壁。 あるいは文字通り取って付けた意匠の玄関庇。 更には下屋も無いのに壁面に張り付く急勾配の瓦葺きの下屋庇もどき。 いずれも意図的に如何物を狙っているとしか思えぬ。
しかしながら、そのフェイク感こそが看板建築の魅力。 あるいは、看板建築のみに許される融通無碍の遊びの境地でもある。 規範からの離反がもたらす微笑ましさやぎこちなさ。 そこまで意図して看板建築としての当該居酒屋の店構えを設定したのなら凄いけれど、どうなのか。

物語自体は、異世界もの特有の面白さを持つ。 その辺りは、「のぶ」と変わらぬ。 例えば、「のぶ」においてスパゲッティナポリタンで宇宙の理を感得した徴税請負人と同様、「げん」においてもカレーうどんで天下国家を熱く語り出す貴族が登場する。 ありふれた料理が異世界人に与える衝撃と滑稽な反応。 それこそが、異世界グルメものの楽しさであろう。
来月上旬に最新刊が発売されるらしいが、結局購読することになってしまうのだろうな。

2021.08.05:コアを巡る思索
※1

旧館林市庁舎外観

「建築探訪」のページに「沼津市芹沢光治良記念館」を新規登録した。
最近、「建築探訪」に関しては、既設ページの改訂が相次いでいる。 建築やインフラ施設と同様、新しく作るだけでなく、既存のものを適宜メンテンナンスすることの大切さは個人サイトとて変わらぬ。 登録からある程度年数が経っているページについて改めて内容を顧みる対応は今後も継続せねばと思っている。
しかしそれだけというのも偏っている。 ならば、と思い今回更新ではなく新規に登録した建物を訪ねたのは6年前。 その時のことは、この場にも書いた(2015年2月10日)。 目的が、芹沢光治良という作家に纏わる展示物ではなく建物そのものであったにも関わらず、そのことを瞬時に察した上で快く館内を案内して頂いた建物管理者の方々には大感謝。 おかげ様で存分に建築の魅力を堪能できました。

作製したページでは、当該作品についてコアの観点から内外観について言及を試みた。 建築物におけるコアといえば、中央コアや片寄せコア、両端コア等が一般的には用いられる。 これらに比して、同記念館の特徴である建物四隅に分散配置するコアとなると、採用頻度は低くなろう。
同じ菊竹清訓の作品で即座に思い付くのは、旧館林市庁舎※1。 現在も公民館として活用されているこの建物を訪ねたのは、外気温が40度に迫ろうとする盛夏であった。 眩暈を覚えそうな灼熱の中にあって、それでもなおその苛烈な外部環境を撥ね返すが如く凛と屹立する力強い佇まいがとても印象に残った。
あるいは、大阪ミナミの戎橋のたもとにかつて在った高松伸設計のキリンプラザ大阪も、四隅コアの範疇に属そうか。 こちらも、周囲の喧噪をものともせぬ圧倒的な存在感をもって、コアを基壇とする四本の光の塔によって繁華街の夜空を幽玄に彩っていた。
こうして見てみると、四隅コアというのは、その外観に強い記念碑性や存在感を与える平面形式なのだろうかとも思えてくる。

このコアという概念を巡っては、住宅においてもかつて積極的な検討・開発が進められた。
ミサワホームが60年代に商品化したホームコアなどはその一つの例。 中心軸に非居室用途をコアとして集約。 その両翼に居室群を接続する形式は、その後2000年代半ば頃まで、姿形を様々に変え、あるいは進展させつつ多彩なモデルが世に送り出された。 勿論、コア化は中央コア形式のみに留まらぬ。 2000年代初頭には、片寄せや両端コアとフリープラン設定が可能なユニバーサルスペースを組み合わせた商品も多々発表された。
そして当然のことながら、コア化の探求を進めていたのは同社だけではない。 特に60年代は、キッチンやサニタリー等の水廻りの設備を集約しコア化する構想が他社においても数多く公表され、あるいは商品化された。
しかし近年はどうだろう。 その手の開発ないしは商品提案はすっかりなりを潜めてしまった感が無きにしも非ず。 それは恐らく、コア化の対象としていたサニタリー部分のアメニティ追求のニーズが少なからず影響しているのではないか。 それらをコンパクトに集約するコア化という概念は、ニーズを満たすには少々窮屈になってしまったのかもしれぬ。

住宅用途におけるコア化の終極形は、ミサワホームが1989年に発表したNEAT INNOVATORに搭載したハイテクバスロボ※2ということになろう。 完全にユニット化されたその姿は、かつてメタボリスト達が夢見たカプセルの唯一の商品化実現形態でもあった。 果たして今後、ハイテクバスロボを超える設備コアが再登板する機会が巡ってくることはあり得るのだろうか。

※2

ハイテクバスロボ内観。
サニタリー設備がコアとして一つのユニットに集約された。
2021.07.28:メーカー住宅私考_148
ハウスメーカーとホームビルダーの差

ハウスメーカーではなくホームビルダーに属する工務店が設計施工した分譲住宅の内覧に誘われた。 「昨今の住宅にはあまり興味ないのだけれども・・・」と思いつつ、知人から送信されてきた販売資料のファイルを見ると、御多分に漏れずよくあるパターン。 数種のサイディングを張り分けてアルミサッシを嵌め込み、屋根を金属葺きとしたどこにでもありそうな退屈な外観を持つ建物が密集して7棟建つ。
グーグルマップの航空画像で確認すると、最近まで畑であった様子が覗える。 周囲を戸建て住宅等で囲われているから、生産緑地だったのであろう。 何らかの事情でその指定を解除し宅地に転用。 業者が取得し、分筆。 肩を寄せ合うように家が建ち並んだといったところか。
生産緑地については、いわゆる2022年問題に絡み、今後宅地化が一気に進む可能性がある。 今回の分譲住宅群と同じような風景が、大量生産されることとなるのだろうか。

ともあれ、あまり関心は湧かぬものの、たまには市場調査も悪くはないだろうということで、約束していた現地最寄り駅に向かい知人と合流。 目的地である建売分譲地に赴いたが、アポを入れていたにも関わらずなぜか販売員は不在。 知人が担当者に電話を入れると、急用で一時間ほど遅れるという情けない返答。 更にあろうことか、分譲中の一棟の裏手にキーボックスが括り付けてあるから、今から言う暗証番号を入力してマスターキーを取り出し、勝手に各棟を見て回って構わないとのこと。 余りにもぞんざいな応対に驚いたけれど、聞けば知人とその担当者は知り合いらしい。 ならば心おきなく内覧出来て却って好都合と気を取り直して、各棟を見て回ることにした。

そんな経緯で巡ってみると、これが意外となかなか面白い。 それは、棟ごとに異なる趣向で商品企画が施されていること。
例えば移動型収納で間取りの可変性を高めた棟。 昨今の二ーズに対応したテレワークスペースを確保した棟。 ミサワホームの「蔵」の様な容積非算入の収納スペースを設けた棟。 更には、スタディコーナーと名付けた小上がりを階段と組み合わせてLDKと連携させた棟は、なかなかに楽し気な生活シーンが容易に想定され、興味深かった(下図)。
そしてインテリアコーディネイトも、一棟毎に異なるテイストで纏め上げられている。 それでありながら、各棟の外観やエントランス廻りのエクステリアの演出には共通性を持たせ、町並みとしての整った景観づくりに取り敢えず配慮されていることも読み取れる。
こうして実際に見学してみると、ホームビルダーの建売戸建ても決して侮れぬ。 というよりも、ハウスメーカーの住宅との差異は一体何だろう、などと少々考えてしまうこととなった。
知人も私も特に購入する予定は無いけれど、商品企画の在り方について多々勉強させて頂く有意義なひと時となった。

2021.07.21:横浜駅SF

そのあらすじを読書中の知人から聞き、即図書館に向かった。 自己増殖する横浜駅に本州の殆どが飲み込まれ支配されてしまった世界の話。
本編と全国編の二冊が書籍化されている。

読む前に想像したのは、既存の建築物やインフラ施設が次々と「駅状化」し異形の構造体へと変容してゆく過程が、人々の葛藤や絶望を絡めながら緻密に描写されるのだろうということ。 ならば、その経緯や異形っぷりをどのように言語化するのか。 そんなことに勝手に期待を膨らませながら読み進めたのだけれども、予想が外れた。 内容はプロセスにあらず。 有り体に言うならば、増殖が十分進行した後の世界におけるアウトローたちの冒険譚。
やや肩透かしを食らいつつ、しかしそれは私が建築や都市に個人的に関心を持つが故の先入観。 例えば政治学に強い関心と知識を持つならば、そこに「シン・ゴジラ」の様な未曽有の事態への対処に纏わる政治ドラマを期待する人だっているかもしれない。 あるいはそういったスピンオフへの展開の可能性も十分に持つ作品であるが、著者は生物学の研究者ということなので、自己増殖に関する深い知見に基づき子細な描写を展開。 変わってしまった世界におけるさまざまな事象を破綻することなく丁寧に描写し作品として纏め上げている。

読んでいる間、時折J・G・バラードの短編小説「大建設」が想い浮かんだ。 地表を埋め尽くす建築によって分厚い地層が形成された世界を舞台にした物語。 かつて作品に接した際、そのあまりにも壮大な虚構が織り成す風景を子細に想い描くだけのイマジネーションを私は持ち得ていなかった。
今回も同様。 恐らくは意匠性の獲得への意思や配慮の感覚を持たず、自己模倣や既築物の包摂等によってただひたすら増殖するだけの現象が造り出す風景の映像化はなかなかに難しそうだ。
否、参照モデルは案外身近にあるのかもしれぬ。 人の欲動の表象媒体としてスクラップアンドビルドを前提に執行される大小さまざまな不動産事業によって変容し続ける都市の様態と、物語の中の横浜駅との間の差異は果たして如何程か。 総体としての統制機構を持たぬグロテスクな増殖体といった点で、両者は何ら変わらないのかもしれぬ。

ちなみに、コミカライズも出されているそうだが、未読。 そこに描かれている風景に接する前にもう少し原作を読み込んで、貧相なイマジネーションを働かせてみたい。 そのために、作中に登場するハイクンテレケの様に「内容を反芻させて、主記憶装置に定着させる」作業に勤しまなければならぬ。

2021.07.14:メーカー住宅私考_147
ミサワホーム・蔵のある家
※1

蔵のある家の初期広告に載せられた断面モデル。
一階と二階の間に設けられた天井高の低い箇所が、「蔵」と称する大型収納空間。

ミサワホームが提案する大型収納空間「蔵」。 その概念を端的に示した断面モデル※1を載せた広告を初めて見た際、大して関心は沸かなかった。 理由は大きく三点。

1.
当時、住宅メーカーへの興味をほぼ完全に失っていた
2.
天井高を抑えて容積非算入の収納空間を確保するという手法自体は目新しいものではなく、ロフト等、既に一般的に広く実施されているものであったこと
3.
収納空間を広くとれば家の中が片付くわけではないこと

三点目については、例えば宮脇檀がその著「いい家の本」の中で判りやすい言葉で諭している。

収納を増やしても、家が綺麗にならないこと、道路を広くしても渋滞が減らぬことと同じ。安心してものを増やしているだけのいたちごっこなのだ。

※2

中央に置かれたソファの左手に見える床面から腰までの高さの引き戸が、「蔵」への出入り口。 この建具の高さとほぼ同じ天井高の「蔵」が背後に広がる。
その直上に、「蔵」の天井高を活かしたスキップフロアの居室を積層し、リビングと吹抜けで連携させた空間構成が面白い。

更にそれを天井高1.4m(若しくは1.2m)に抑えた空間として計画すれば何が起こるだろう。 身を屈めるどころか、四つん這いで夥しい収納物の間を往来せざるを得ぬ空間。 加えて、一階と二階の間に挿入されるから、階段の中間踊り場からアクセスすることとなる。 そんな条件では、収容したら最後、二度と取り出すこともないモノが累々と堆積するだけの場所と化しはしないか。 つまりは巨大なごみ箱。 ごみ屋敷を金をかけて作ってどうする、と思ったものだった。

1993年の発表以降、この空間提案アイテムを内在したモデルが同社から陸続と発表され今日に至っている。 その過程については、住宅メーカーへの関心を失っていた時期と重なる期間が長いためにあまり把握できていない。 しかし、もはや売れる商品作りの必須アイテムと化した感が無きにしも非ず。 それだけ収納の充実がニーズとして根強いことの現われではあろう。 けれども上記理由により、いずれに対しても冷めた目で眺めるに留まっていた。

ところがある日、広告に載せられた左の画像※2がふと目に留まり、「これだったら悪くはないかも」と思った。 リビングに直接面して「蔵」への出入り口を設け、「蔵」の直上に居室を積層。 スキップフロアとなったその居室を勾配天井による吹抜けを介してリビングと連携させた空間構成。 この「蔵」の配置であれば、リビングを様々に設えるための収納空間として有効活用が可能だし、そもそもその空間自体が、天井高を抑えた「蔵」を取り込むことによって可能となるプランでもある。 「蔵」と同時期に同社が製品化したM-Woodと称する木粉入り樹脂成型材を用いた木質感たっぷりのインテリアも、落ち着いた雰囲気を醸成している。
以降、様々な位置に「蔵」を配置することでスキップフロアが複雑に絡む変化に富んだ屋内空間が様々提案され、単なる容積非算入の収納空間ということ以上の機能を帯びることとなる。 その空間構成には、興味をひく事例も散見される。

私がこの「蔵」を初めて体感したのは、その発表から11年を経た2004年5月。 札幌市近郊の同社の住宅分譲地で販売中の「it's MY STYLE 庭のある家」というモデルを内覧した時であった。 長いブランクを経てメーカー住宅への関心が復活して約一年半。 久々の同社施工事例の内覧であったが、天井が低く抑えられた「蔵」の内部はやはり圧迫感が強くとても大いに活用しようという気になるものではなかった。
加えて、写真では美しく見えたM-Woodも、あまり感心出来る質感では無かった。 そのことについては、このシリーズの第56回(2015年8月17日)で述べている。

2021.07.06:プラタナスの実
※1
但し、物語の舞台である「北広島市総合医療センター」は、少なくとも外観は札幌市西部に立地する病院がモデルになっている。

※2
広報北広島2021年3月1日号「人の森」

東元俊哉原作の漫画。 昨年10月から週刊漫画雑誌で連載が始まっていたらしいが、最近になってその存在を知った。
きっかけは、当該作品に描き込まれている風景。 札幌市の隣に位置する北広島市の日常的な風景が、繊細に叙情豊かに描かれている。
それらをみて、少しホロリとしてしまった。 時間と金を少し消費すればいつでも気軽に帰ることが出来た北海道。 それが今は叶わぬ。 たかが一年半のブランクでしかないのだけれども、それでも何やらしみじみと懐かしさを感じてしまう。
そんな北の街の風景描写に魅かれて、既刊の単行本購読と相成った。

作品のテーマは小児医療。 ちょっとばかり"不思議ちゃん"ながらも有能な小児科医である主人公を中心にストーリーが展開する。 といっても、医療行為そのものよりも、それに纏わる医師や患者やその家族をめぐる物語に軸足が置かれている印象。 小児医療の現実に対し、なかなかに考えさせられる内容も多い。 そしてそれらのエピソードを、穏やかな風景がゆったりと包み込む。

連載に着手する間際、作者は物語の舞台となっている同市※1に札幌市から居を移したのだそうだ。 WEB上に公開されている市の広報誌に載せられた記事※2には、

北広島はボールパークの建設や駅西口の開発などで変わりつつある。この作品の設定は現在(令和3年)。変わる前の街の様子を漫画に残したい、多くの方に北広島の良さを知ってもらいたいと考えているのだそう。

とある。 地元愛ということだろう。 実在する街並みが肯定的に捉えられ、そして美しく描かれるというのはなんだか単純にうれしい。

ところで、広報の記事にある通り、北海道日本ハムファイターズの同市への本拠地移転に絡み、この街は最近なにやら動きが慌ただしい。 今迄はどちらかというと札幌市のベッドタウンとしてのんびりおおらかに、大きな変化を伴わずに静かに推移してきた街という印象であった。 そこに突如湧いた野球場及び関連するアミューズメント施設の大規模開発事業。 そしてそれに連動した事業地周辺及び駅前の再開発。
多くの自治体が、進行する少子高齢化に対してスマート・シュリンクを念頭に身の丈に合わせた都市構造の再編を模索し始めているのに対し、この街は旧態の地域活性を推し進めつつある。 市勢の維持に唯一絶対の解法など有りはせぬが、今の動向が近い将来この街にどのような影響を及ぼすこととなるのか。 少々気に掛かる。

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