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北海道のミサワホーム
昭和50年代のミサワホームが、G型,O型,M型,A型,S型という五種の系列で構成される企画型モデルを主力に事業展開を図っていたことは、既に幾つかのページで述べている。
全国津々浦々に同じ内外観を持つ住宅が建つことの是非は、考える余地は有ろう。 しかし、一定の品質と良質なデザインの住宅を安定的に供給することが求められていた時代背景を鑑みれば、当時のその手法は安易に批判できるものではない。 そして、圧倒的なセールスを記録したことも、市場ニーズに対応し得ていたことの証左でもある。
同じ規格といっても、地域によって若干の違いはあった。 例えば、私が当時住んでいた新潟県の場合、多雪地帯という地理的与件から、積雪荷重への対応として壁量がやや増やされていた。 しかし、その違いは微々たる範囲に留まった。
そんな中で、北海道の商品体系の動向は興味深い。 ラインアップはG型を除く4系統であったが、いずれも本州以南のものとは異なる独自性を有していた。
以下に、その事例を幾つか挙げる。



ミサワホームO型NEW

写真1:*1
O型NEW外観
まずは、O型。
越屋根の替わりに片流れ屋根を載せたO型に引き続き、O型NEWというモデルが発表された。
屋根を切妻とし、棟の方向を本州以南の様に南北方向ではなく、90度振って東西方向に改めている。 これは、玄関への屋根からの落雪を避けることを意図したのであろう。
また、二階南面の室外機置場は、M型2リビングと同じパーツが用いられ洋風のイメージが強められている。 和洋を巧みに折衷させて大いにヒットした本州以南のものと敢えて異なる設えを施したのは、風土を考慮してのことなのだろうか。
これとは別に、無落雪タイプのフラットルーフ屋根モデルも発売されていた。
いずれも、平面プランについては本州以南のものとほぼ同じ。 違いは、玄関扉とは別に上り框部分に引き違いのガラス戸をもう一枚設けて厳冬期における屋内への外気の流入低減に配慮していることと、ユーティリティにボイラー室を設けていること程度に留まっていた。


ミサワホームMII型

写真2:*1
MII型外観

次に、M型。
私が把握する範囲では、MII型が発表されていた。 その外観は本州以南のものとほぼ同じであるが、切妻の屋根の架け方がO型NEWと同様90度振れていた。 これも、玄関側への落雪回避を考慮したものであろう。 一方で、平面プランは大きく異なっている。
図面1を見れば明白であろう。 以降は、ミサワホームMII型のページ掲載の各階平面図と見比べて頂きたい。


図面1:各階平面図*1

二階のサニタリースペースが1階に降り、本州以南モデルでは和室にあてがわれていたスペースにキッチンと共に集中配置される。 キッチン部分の広さに余裕が出来たことで、ダイニングキッチンを形成。 孤立キッチンという特異な状況を改めた。 ダイニングスペースの北側への移動によって、南側に和室を設置。 本州以南のタイプの様な強引な畳の敷き方が解消された。
また、階段も素直に玄関ホールに直接面する形になった。 階段がもたらす二重の垂れ壁によって、リビングとダイニングキッチンが柔らかく仕切られる。 そんな素直な空間構成も作り出された。
二階は、サニタリースペースがなくなることで、中途半端な広さの部屋が無くなった。 まとまた広さを持つ個室が効率的に4部屋確保された。
こうやって書き綴ると、本州以南型よりも優れているように思われるかもしれない。 実際、北海道版MII型は、新興住宅地を中心にO型以上によく見かける。 売れ筋であったということだろう。
しかし、本州以南型のような個性はそこには無い。 モデルに込められた設計思想の様なものが見えてこないのだ。



ミサワホームAII型/A型NEW

写真3:*1
AII型外観

※1
ミサワホームMIII型のページに掲載した図面は43坪タイプなので、形式が異なる。 ミサワホームSIII型のページにMIII型33坪タイプの二階部分のプランを載せているので、参照願いたい。


写真4:*1
A型NEW外観

写真3はAII型。 本州以南において、AII型という名称のモデルは存在しない。 北海道独自のモデルだ。 凹凸の多い外観が、本州以南のA型二階建てと唯一の共通点と言えなくも無いが、全く異なるデザインだ。
ちなみに、私が実際に見たAII型は、いずれも南側二階のオーバーハング部分の外壁を、屋根と同じ色に仕上げている。 だから屋根が赤色なら、オーバーハング部分も赤。屋根が緑なら、ここも緑というように、他の箇所の白い外壁とのコントラストが結構カラフルな構成となっている。 そしてそれが雪景色になかなか似合うのだ。 北の風土ないしは風情を考慮したデザインといえそうだ。


図面2:各階平面図*1

平面プランは、本州以南のミサワホームMIII型の37坪以下のタイプのプランに類似する※1。 一階と二階に分散するMIII型のサニタリースペースを1階に集約すれば、ほぼこのAII型の間取りになる。

更に、写真4はA型NEW・寒冷地タイプ。 1983年頃発表。
この呼称のモデルは、本州以南の場合は平屋建てであるが、北海道のものは二階建てである。 といっても、本州以南のA型NEWに単純に二階を追加した訳ではない。 むしろ構成は、本州以南のS型ないしはSW型の系統である。
外観デザインのポイントとなっている寄棟の端部に配置されたドーマは、小屋裏換気の機能を持つ。



ミサワホームSIII型

写真5:*1
SIII型外観
発表されたのは、本州以南のモデルから一年遅れた1981年。
その外観は、和風を基調とした本州以南のものとは大きく異なり、瀟洒な洋風の趣き。 北の風情に合ったデザインだ。
本州以南モデルにおいてこのモデルの一番の特長として設置されていたソーラーパネルユニットが採用されなかったのは、地域性の問題か。 そのため、キャッチコピーも太陽熱利用を前面に押し出した本州以南のものとは異なり、「床暖房と風見鶏の家」としている。
平面プランは、本州以南のものとほぼ同じ。 また、インテリアデザインも同じく和風を基調としたもので、外観に合わせた調整は行われていなかった様だ。


写真6の建物概要:
建築年:1980年5月
敷地面積:678平米
延床面積:313.78平米

以上、4系統の各モデルについて紹介したが、本州以南とは異なるラインアップが構成された背景は何か。 単なる気候風土の違いなのか、それ以外の理由があったのか。
写真6は、札幌市内にて同社が手掛けた自由設計の豪邸。 このような秀逸なデザインの邸宅を実現するなど、当時の同社の北海道における展開はなかなか興味深いものがある。


写真6:札幌市に建つ自由設計の邸宅*1



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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2015.07.04/記