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直方体の和風住宅:ミサワホームSIII型
1.概要
「提案。「かしこい家」」と銘打ったSIII型の広告が、1980年1月4日付けの主要新聞紙上に掲載された。
広告では更に「先見の住まいの条件「3つのS」を備えて。」と謳われている。 3つのSとは以下の通り。
1.
SPACE WIDE:同じ予算で二部屋多い家
2.
SAVE ENERG:ソーラーシステム搭載の省エネ住宅
3.
SENSITIVE DESIGN:内外装に木の質感を積極採用
この3つのSと、当時のミサワホームの企画商品群の一系列であるS型の3番目のモデルという意味からSIII型と命名された。


2.外観:直方体に込められた和風のイメージ
※1
SIII型に施された隅木は構造材ではなく化粧材。 内部に呼樋を通し、更に外壁四隅に施した隅柱風の外装材内部に内蔵された縦樋に接続して雨水排水機能を担うと共に、雨水排水管を外部に露出させない外観を実現している。
※2

写真3:屋根部分詳細*

※3

写真4:建物隅角部詳細
骨太な胴差どうしを「組む」ことをイメージしたデザイン処理が施されている。


写真1:外観*

正方形平面の総二階建て、すなわち直方体というのはデザイン処理が難しいプロポーションである。 その上、屋根にはソーラーシステムを搭載するという条件も課せられた。
この与件をクリアするために、敢えて和風でまとめるという方向性が選択された。 和風を実現した手法として、以下が挙げられる

1.
鼻隠しや胴差等の外表に取り付く線形化粧材、及び隅木※1に力強い木調の表現を採用
2.
窓廻りのシャッターケースやフラワーボックスにも1.と同様の木調の表現を採用
3.
方形の頂部に三角形のソーラーシステムを組み合わせることで、錣(しころ)風にデザインした屋根形態 ※2
1.と2.の形態処理により、壁面に木造の軸組的なイメージ※3が形成され、規模の割には重厚感のある堂々とした和風の外観が作り出された。 3.の操作は、伝統的な屋根形態を引用することにより、それまで屋根面に異物のように載せられていたソーラーパネルのイメージを一新すると同時に、和のイメージの付与も実現した画期的なデザインと言える。


3.間取り:階段位置が可能にした効率的プラン
33坪の東西反転2タイプの規格プランのみが発表されていた。 この限られたスペースに、居室の広さが全て6畳以上の5LDKを確保した効率的な間取りを実現している(図面1)。 ポイントは階段の配置にある。 4間×4間の正方形の中央北側に折り返し型の階段を設けることにより、中途半端な広さの空間や長くて無駄な廊下の発生を回避しているのだ。
※4

図面2:
MIII型33坪タイプ
2階平面図*

図面1:
各階平面図*
(SIII33-2W-Bタイプ)

実は、限られた面積の正方形に無駄のないプランを納めるのは意外に難しい。 例えば、図面2※4は同じ時期にミサワホームから発表されていたMIII型の規格プランのうち、SIII型と同じ33坪タイプの2階部分になる。 このプランでは、階段が建物の隅に設置されている。 このため、階段脇に2畳ほどの中途半端な空間(吹抜け)が生じ、また面積に比して長い廊下も発生。 結果として1,2階合わせた部屋数がSIII型よりも一つ少ない4LDKとなっている。

もちろん比較にあたっては、吹抜けの効果や収納面積や水廻りのゆとり等を含めて評価する必要がある。 しかし居室数確保の効率性という点では、階段位置を巧みに配したSIII型の方が秀でているということになろう。



4.インテリア:限られた空間に実現した和の佇まい

写真3:玄関ホール*
写真4:リビング*

外観と同様、屋内も和風のイメージで統一された。 玄関を入ると背の低い下足入れの上部に障子窓が付き、この裏側は和室の書院になっている(写真3)。 限られたスペースに和のゆとりを与える巧みな扱いだ。

リビングダイニングは、床を白木,壁を聚楽塗り風ビニールクロス,天井に杉の木目の化粧合板,開口部に障子戸をあしらった和風のデザインでまとめ、隣接する和室との連続性を確保(写真4)。 もしもこの限られたスペースで、リビングダイニングを洋風のデザインにしていたら、統一感の欠如した落ち着きのない空間となっただろう。

この和風のカラースキームはキッチンや浴室にも踏襲され、全てに調和のとれた和風空間を実現している。



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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2006.07.08/記