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住宅メーカーの住宅
不可解なモデル.02:ミサワホームMII型
※1

写真2:*
玄関ホール内観。
下足入れや居室出入口の建具を同じ意匠で統一。
この建具デザインは和室を除く全ての居室扉に採用され、インテリアに風格を与えている。

※2
平面図を見ると、下足入れの奥行きとリビングやダイニングへの出入口扉の枠見込みが同一であることが判る。 その寸法は、壁厚よりもやや深い程度。
出入口扉には重厚感が与えられる一方、下足入れの方は極めて奥行きが浅い。 そのため、前面に向けて急勾配に傾斜した棚に立てかけるように靴を収納する変則的な仕様が採用された。


写真1:*外観

1978年に発売。
外観は、先行して発表され大ヒットとなったミサワホームO型に比べると、いくばくか落ち着いた雰囲気。 おおらかな大屋根や白壁がどことなく土蔵をイメージさせるその外観を眺めつつ玄関扉を開けて屋内に入ると、片側の壁面に幅二間にわたって床から天井まで目一杯の建具が四枚連なる(写真2※1)。

その意匠は鏡板に板目のケヤキの突板を張った重厚な唐戸。 写真2の向って右側の二枚は下足入れ、左側の一枚がリビングルームへの出入口扉。 写真には写っていないが、更にその左手に同じ形状のダイニングルームへの出入口扉が並ぶ※2
木質感たっぷりの設えは、例えばやや時代がかった貴賓室や重役室といった類いの雰囲気を軽めに再現した印象。 住人はそこにステータスを覚えるだろうし、来訪者は気品を感得するのかもしれぬ。

同モデルに関する当時の広告には、“「主流」になる家”というキャッチコピーのもと、以下の文言が掲載されている。

“男盛り働き盛りの壮年世代向けに企画されたこの家。お住みになる方々も社会の主流です。”
つまりは、社会的あるいは自身が所属する組織の中でそれなりの地位にある男性が、プライベートにおいて家長としての威厳を持って立ち居振舞うための空間の在り方を追求したモデルということになろうか。 そんな家父長制主義的な観点のもとに屋内の各部位を眺めてみると、成る程その商品開発主旨が露骨に顕然する。

図面1:*各階平面図(MII-38-2Wタイプ)
※3
この独立キッチンに関し、前述の広告の中には、「食事が落着いて楽しめるダイニング独立型。キッチン完全分離でホテル並みの豪華なゆとり空間です。」という記述がある。
例えば外観も玄関ホールも、このモデルに住む家長の“格”を表象しようとしたもの。 あるいは、リビングルームと続き間となったダイニングルームからキッチンが完全に隔離されているのも、リビングダイニングルームをかつての表座敷の様に家長による接客の場に供する等、パブリックな性格を強めようという意図が見えてくる※3。 一階の洗面室が玄関ホールと建具で間仕切られていないのも、そこが家族の普段使いの場所では無くパブリックなエリアに絡むサービス用途という位置付けのためと解釈出来そうだ。 それ故に住居全体の規模に比べて余裕のある面積が確保され、約一間半幅という破格の洗面化粧台が設えられた。 そしてそれとは別に、二階に日常用の水廻りを設けている。
別項のミサワホームMIII型のページで言及した「ハレ」と「ケ」の概念を当てはめるならば、当該モデルの一階部分の大半は家長と共にある「ハレ」の場ということになる。 「ケ」の部分は、僅かにキッチンと階段踊り場下部の裏玄関のみに限定される。
そんな家長中心の間取りを、家長以外の家族の視点、あるいは「ケ」の立場から眺めるとどうなるか。
例えば玄関から二階に至る動線。 いちいち「ハレ」の空間としてのリビングダイニングルームを通らなければ階段に辿り着けない。 もしもリビングダイニングを通りたくない、あるいは通れない場面(家長の接客中等)においては、階段の中踊り場下部に設置された裏玄関からアクセスせざるを得ぬ。 これは、玄関ホールと階段の間に間仕切り壁を立てて双方を分断したことに拠るもの。 玄関ホールから「ケ」に関わる要素を徹底的に排除しようという空間操作であろう。 結果として、階段は一階の大半を占める「ハレ」と僅かな「ケ」の空間(=キッチン及び裏玄関)の緩衝帯ないしは分水嶺となる(写真4)。
そしてこの空間操作により、キッチンから一階洗面室及びトイレに至る動線も遠回りなものとなっている。 更に、「ハレ」の領域のサービス用途として位置付けたために、一階洗面室は余裕があるにも関わらず洗濯機置場を排除。 そのスペースは裏玄関廻りにあてがわれ、それによって「ハレ」の場所である筈のダイニングルームに洗濯機置場が近接するという矛盾が生じている。


写真3:*
リビングダイニングルーム
「ハレ」の空間としての性格を強化した設え。
写真4:*
ダイニングルームと階段室
背後の「ケ」の空間としてのキッチンとの間に階段が挿入され、「ハレ」の空間としてのダイニングと領域を厳格に分ける。
限られた床面積の中で、あらゆる要件を満たすプランを策定することはなかなか難しい。 しかし同時期における同社の他の企画住宅は、そこを巧みにバランスさせて商品価値を高め市場に広く受け入れられた。 比して、MII型は家父長制という原理原則に拘って構成を貫徹させたがために歪なものとなってしまった感が否めない。 商品として短命に終わったのも、そんなところに要因があったのではないか。
後継モデルとして翌年発売されたミサワホームMIII型は、当該モデルの意志を引き継ぎ“家長、健在なり”というキャッチコピーを掲げた。 そして家長の威厳を表象する住まいの在り姿を提案してはいるが、その手法はMII型とは切り離されている。 と同時に、家長を含めた家族全員が快適に過ごせる住まいの在り方が巧みに構成されている。 結果、M型NEWというマイナーチェンジモデルを含めたロングセラー商品として、当時の同社の主力モデルになった。


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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2010.09.04/一部加筆・修正のうえ、雑記帳より移設
2017.01.21/改訂