日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築探訪
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家

間取り逍遥
 
INDEXに戻る
住宅メーカーの住宅
ハレとケと吹抜け:ミサワホームMIII型
0.ミサワホームMIII型以前
0-1:断面モデル

昭和40年代半ばのミサワホームの資料に接していると、以下の断面模型の画像が時折目に留まる。 室内に人がいるので、実物大で造られたものだ。


居住性実験断面モデル*

何れの資料にも、これは人間工学に関する居住実験の様子である旨、記述されている。 その様に説かれると、何やら凄い検証を試みているのだなと思えてくる。
とはいえ、何だか良く分からない。 この実験によって人間工学に係るどの様な知見が得られ、そしてそれらが同時期の個々の商品にどの様に反映されたのか。 そういった説明は特に見当たらぬ。

人間工学に纏わる各種データ取得のみが目的ならば、断面を露わにした模型である必然は無かろう。 棟全体を切断した通常とは異なる状態よりも、例えば既存のモデルハウス等、実際の住宅で各種生活行為の再現実験を行う方が、心理面も含めより正確なデータ取りが可能な筈。
むしろここでは、実験そのものよりも、その状況の撮影が主目的だったのではないか。 背景に青空、そして周囲に芝生や植栽をわざわざ配した演出が、その可能性を補強する。 住まいに纏わる研究・開発に対する他社には無い積極的な取り組みを印象づける広報戦略の一環。 加えて断面を見せることで、空間構成に係る同社の優位性を強く打ち出す。
例えばピロティ状のインナーガレージ。 直上の和室は船底天井。 中央のリビングは、片流れの屋根形状に合わせた勾配天井を用いた大らかな吹抜け空間とし、二階の和室と連携。 更に左手に隣接する寝室にも一部折り上げ天井を造り込んでいる。
それらの設えが、画像一枚で視認可能だ。

※1

「片流れ屋根」外観*


※2

同リビングルーム*
屋根形態に合わせた勾配天井を持つ吹抜け空間を介し、左手に配された階段を昇って至る二階居室と障子戸で繋がる。
また、右手上部に穿たれた高窓は外観も特徴付ける。

左の画像※1は、1966年6月11日〜9月12日の間、二子玉川で開催された「第二回プレハブ建築・建材・設備機器総合展」に同社が出展した「片流れ屋根」と名付けられたモデル。 断面模型とほぼ同じ空間構成を持つが、外観画像だけではその特徴を認識しにくい。 両者の相補によって、モデルの魅力をより効果的に強くアピール出来よう。

業界全体が漸くぎこちない二階建てモデルを発表し始めた、未だその様な状況下にあって二子玉川モデルの出来栄えは明らかに群を抜いている。 他社に先駆けた二階建ての実現のみならず、そこに展開された自由で斬新な造形及び空間構成※2
以降、招き屋根等のバリエーションを加えながら、昭和40年代における同社の意匠を特徴づける主力モデルの一翼を担った。


0-2:空間構成の継承
1978年7月に同社が発表したミサワホームMII型については、別途「不可解なモデル」の項に掲載している。
大ヒットモデルとして先行するミサワホームO型にて具現化された「企画住宅」の組み立てを踏襲しつつ、O型とは異なる方向性を付与して商品体系の充実を図る。 そのために導入された家父長主義的とも受け止められる内観構成について、そこで言及を試みた。
これは何も平面プランや内外観に対する個人的な印象のみに依拠したものでは無い。 当該モデルの広告にも、『「主流」になる家。』のキャッチコピーのもと、以下の説明文が載せられている。
男盛り働き盛りの壮年世帯向けに企画されたこの家。お住みになる方々も社会の主流です。
しかし当該モデルには、同ページで追求したその様な思想とは異なるもう一つの要素がある。
※3

ミサワホームMII型増設プラン*
それが、増設プラン。 左はその外観※3になる。 「不可解なモデル」の項に載せた外観画像と比較すれば、基本プランからの増設箇所は明白だ。 右手に間口を拡張し、屋根を勾配なりに葺き下ろした部分がそれに該当する。
そのボリュームの形成に、0-1で取り上げた二子玉川モデルと同様の措置が認められよう。 即ち、屋根形状に合わせた勾配天井を伴う吹抜けを介して上下階の連携を図る空間構成の組み込み。 会社創設以降昭和40年代を通して展開したその手法を、50年代になって新たに提唱した企画住宅の商品群の一翼に継承する。
O型との差異化の目論見が、増設プランによって提示された可能性。 MII型にはそんな読み解き方もあり得る。
但し、その増設プランには後付けの強引さが散見される。 その是正は、後続モデルとして本稿で取り上げるミサワホームMIII型の登場を待つこととなった。


1.ミサワホームMIII型の概要
1-1:内外観
1979年6月発表。
大らかに葺かれた招き屋根を特徴とする外観を構成する各部材には、同時期に発表されていたミサワホームOII型と共通のパーツが用いられている。 例えばフラワーボックスや破風板。 そして開口廻りの雨戸シャッターケースを兼ねた木調化粧軸材等々。
商品体系の中の一モデルとして意匠構成手法の統制を図ると共に、採用部材の統一化による生産性も確保。 更には、その屋根形状やボリュームによってO型には無い商品性も獲得している。


外観及びリビングルーム内観*
南側外観からは、MII型の増設プランや「片流れの家」等と同質の内部空間処理が容易に窺い知れよう。 即ち、屋根形状に沿った吹抜けを介した上下階の連携による豪放な断面構成。
外観から受ける印象通りの内観が、実際にリビングルームに広がる。 その面積の半分に及ぶ天井を吹抜けとし、二階に配された和室と二枚引き違いの障子戸を介して連携。 更に一階部分にも、規範に則った正統な床の間を備える和室を続き間として奥に配置している。
これらによって、豪放な空間が造り出された。

1-2:ハレとケ、そして吹抜け

日本の文化や慣習を考える上で、「ハレ」と「ケ」の概念がある。 端的に述べるなら、「ハレ(晴れ)」とは非日常性を、そして「ケ(褻)」は日常生活を指す。 例えば祝宴や祭りなどは「ハレ」に属す。 「晴れの舞台」とか「晴れ着」等の言葉は、この「ハレ」とつながる。

住宅の中にも、「ハレ」と「ケ」が有る。 これも端的に言ってしまえば、それぞれ「パブリック空間」と「プライベート空間」に置換され得る。
明治後期から大正、そして昭和初期にかけて、空間構成において「ハレ」と「ケ」を厳格に区分けする間取りが主流化した。 その使い分けを明確にするために用いられた手法の一つが「中廊下形式」である。

中廊下型のプランは、概ね以下の形式をとる。

1.
南面して続き間の和室を設け、主に接客空間(=ハレ)として機能
2.
北側に、茶の間や台所等の家族が日常を過ごす部屋(=ケ)を配置
3.
南北に配置された諸室を分断する形で家の中央に中廊下が通り、動線的・性格的にハレとケを分割

MIII型の平面プランにも、この組み立てが見て取れる。


各階平面図*(MIII43-2W-Bタイプ)

一階部分は、玄関に入ると正面に半間幅の「中廊下」が奥へと延びている。 そしてその廊下の南側にリビングルームと和室、北側に水廻りが配置され、更に廊下の奥はダイニングルームに接続。
これらはいずれも、上記の中廊下形式の特徴に合致する。

中廊下型の間取りは、家父長制度を建築の側から支える形式であった。
「父権」が意識されたMII型の後継モデルとして、中廊下形式を用いて商品の方向性とプランとの整合を強化する。 加えて昭和40年代に「片流れ屋根」等のモデルを中心に同社が展開した豪放な空間構成を踏襲・洗練させ、「ハレ」の空間に組み込む。
過去からの二つの取り組みが見事に統合された当該モデルのキャッチコピーは、『家長、健在なり。』であった。



※4

玄関見上げ*
直上の1.5層弱の吹抜けと、その先に接続する廊下部分の天井高との段差箇所に鋼製化粧格子を嵌め込んだ開口が設けられ、二階へと視線が抜ける。 左手の木製建具が下足入れの扉。
吹抜けの直上は、小屋裏収納。


※5

ダイニングルーム*
北面の最奥部に配置。 ハレの領域を介さず、中廊下にて直接アクセス可能。 左手のハッチ付きの水屋を介し、キッチンと連携する。 南面するハレの領域の和室とは二枚引違い襖で間仕切られ、続き間として使用できる。

2.領域の分化と連携
2-1:「ハレ」の領域
内観をもう少し見てみる。
屋外から玄関に入ると、その直上にも1.5層弱の天井高を持つ吹抜け。 片面に床から天井まで目いっぱい使った背の高い下足入れが造り付けられている※4。 欅調の鏡板を張った桟唐戸の扉を用いているのはMII型と同様。 これらの設えによって、住まいの顔に当たる玄関廻りに“格”を形成。 そして、その先の廊下に面して配された下足入れと同一意匠の間仕切り扉を開けると、1-1に書いた豪放なリビングルームが視界に広がり、当該モデル内の「ハレ」の空間が一気に視認される。
住人はその空間展開にステータスを覚えるだろうし、来訪者にも気品を感得させよう。

2-2:「ケ」の領域
「ハレ」と「ケ」。 対比される二つの空間の並置を強化したプランを商品性に据える場合、相互に干渉を来さぬ動線計画が求められる。
その点で、先行モデルのMII型は未消化の印象を拭えぬ。 詳細は前述の「不可解なモデル」の項にて言及したが、玄関ホール正面に隔壁を設けて「ハレ」と「ケ」を明確に分割。 玄関から隔壁背後の階段を介して「ケ」の領域である二階に至る動線が、「ハレ」の場としてのリビングダイニングルームに侵食してしまっていた。
MIII型では、階段の位置を玄関脇に移動し、「ハレ」の領域に関与せぬ玄関から二階への動線を確保。 更に玄関正面に中廊下を奥へと伸ばし、「ケ」の空間として北側に配されたダイニングルーム※5及びキッチンへの動線も、南面する「ハレ」の場と干渉せずに成立させた。

2-3:領域の連携
動線が整えられつつ、二つの領域は完全に分離せず有機的に連携する。
例えば一階において、「ハレ」の領域の奥座敷として扱われた南面和室は、「ケ」の領域の北側ダイニングと襖戸を介し続き間として扱える。 あるいは二階の和室も、先述の通り、吹抜けを介して一階のリビングルームと繋がり、吹抜けの中に浮かぶ様な独特な空間性と水平及び見下げ方向の視覚的な広がりを。 ハレの領域のリビングルームにも鉛直方向の豊かな広がりを与え、商品の特徴付けに強く寄与している。


3.ミサワホームMIII型以降
3-1:M型NEW
1982年4月に発表。
MII型からMIII型へのモデルチェンジが内外観を全て刷新するものであったのに対し、MIII型からM型NEWへの移行は最小限。

ミサワホームM型NEW外観*

各階平面図*(MNEW43-2W-Bタイプ)
例えば玄関の下足入れを腰高のものに改め使い勝手を向上。 加えて、設置位置を階段側からリビングルームとの間仕切り壁側に移設。 玄関と階段を一体的に扱い、屋根形状に合わせた勾配天井を伴う吹抜けと共に空間の広がりが演出された。 あるいは対面キッチンが導入され、MIIIではハッチ式の水屋で区切られていたダイニングルームとの一体感も確保。 加えて全般的なカラースキームの調整が図られる等、言わばマイナーチェンジに留まった。
それは、先行しながら僅か一年でフルモデルチェンジを余儀なくされたMII型に比べてMIII型の完成度及び商品としての評価が極めて高かったことを示す。

3-2:M型2リビング

ミサワホームM型2リビング外観*

上記M型NEWに先行し、1980年8月に発表。 但し、MIII型の後継モデルでは無く、MIII型若しくはそのマイナーチェンジモデルであるM型NEWと併売される形で往時の同社の企画住宅群にラインアップされた。
その平面プランは、MIII型に取って代わられたMII型の形式が色濃く継承されている様に見て取れる。 詳細は別途纏めている同モデルのページに拠るが、MII型に見受けられた「ハレ」と「ケ」の二分法に対する動線処理に係る未消化な部分を解決。 更には、空間を二分する目的を、家父長主義的な思想の空間化ではなく、余暇時代における暮らしの充実に向けた住居内のメリハリの確保に置かれ、MII型とは異なる商品性が付与された。

思想を継承しながら空間構成を全面的に刷新したMIII型とその後継のM型NEW。 一方、空間構成を継承しつつ思想を刷新したM型2リビング。
併売は、商品性に係り双方のモデルに見受けられるこの様な差異に拠るものであったのかもしれぬ。



 
INDEXに戻る
*引用した図版の出典:ミサワホーム

2006.07.08/記
2026.06.20/改訂