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中廊下形式の再考:ミサワホームMIII型/M型NEW
1.「ハレ」と「ケ」

MIII型とM型NEWは、内外観ともほぼ同型。 MIII型が先行して1979年に発表され、インテリア等に関しマイナーチェンジを図ったのが1982年発表のM型NEWである。

※1
現代の住宅の中では「ハレ」と「ケ」の使い分けや性格付けが、かつてに比べ希薄になっている。 例えば「パブリック空間」としてのリビングルームも、その用途が曖昧になっているのが現状ではないだろうか。


写真1:外観*

日本の文化や慣習を考える上で、「ハレ」と「ケ」という二項対立的な概念がある。 端的に述べるなら、「ハレ(晴れ)」とは非日常性を、そして「ケ(=褻)」は日常生活を指す。
例えば祝宴や祭りなどは「ハレ」に属する。 「晴れの舞台」とか「晴れ着」いう言葉は、この「ハレ」とつながる。

住宅の中にも、「ハレ」と「ケ」が有る。 これも端的に言ってしまえば、それぞれ「パブリック空間」と「プライベート空間」に置換され得る。
昭和初期以前までは、この「ハレ」と「ケ」が空間構成において厳格に区分けされることが一般的であった※1。 その使い分けを明確にするために用いられた手法の一つが「中廊下形式」である。 中廊下型プランとは、概ね左表※2のような特徴を持つ。

※2
1.
南に面して続き間の和室があり、主に接客空間(=ハレ)として機能

2.
北側に、茶の間や台所といった家族が日常を過ごす部屋(=ケ)を配置

3.
南北に配置された諸室を分断する形で家の中央に中廊下が通り、動線的・性格的にハレとケを分割


2.間取り:中廊下形式の再構成

リビング部分内観*
リビングの半分は、屋根勾配なりに吹抜けが設けられている。
この吹抜けに面して2階の和室の障子戸の開口が設けられており、垂直方向への豊かな広がりを演出した空間構成となっている。

※3
「サザエさん」のアニメで設定されている磯野家のプランも、中廊下形式の要素が入っている。
例えば、床の間がある南面の和室は家長である波平の居場所として設定されている。 そしてカツオとワカメの部屋は中廊下を介して北側に設けられているし、茶の間も北側に設定されている。

ここでMIII型の代表プランを見てみたい(図面1)。


図面1:各階平面図*(MIII43-2W-Bタイプ)

1階部分は、玄関に入ると正面に半間幅の「中廊下」が延びている。 そしてその廊下の南側にリビングルームと和室、北側に水廻りが配置され、更に廊下の奥はダイニングルームに接続している。
つまり、「中廊下」によって公私の用途が区分けされているのであるが、これは前述の中廊下型住宅のプラン構造そのものといえる。

中廊下型住宅は、家長制度を建築の側から補完するシステムであった。 つまりは、南側の条件の良い座敷は主に接客等の用途に供する家長のテリトリーであり、他の家族の日常は北側の茶の間を基本とする生活構造である※3。 勿論、MIII型の開発にあたっては、そのような一昔前の封建的で厳格な用途分けや暮らし方が想定された訳ではないだろう。 しかし、その形式をプランの中に再構築した設計思想の中には、「父権」がある程度意識されたと推測される。
実際、このモデルのキャッチコピーは、「家長、健在なり」であった。



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*:引用した図版の出典:ミサワホーム

2006.07.08/記
2007.01.20/レイアウト変更
2013.10.20/構成調整