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住宅メーカーの住宅
カジュアルな和風:セキスイハウス・入り母屋の家
1.概要
※1
高品質で低廉な住宅を供給することを目的に、旧通産・建設両省共同のプロジェクトとして1976年に発足。 提案競技を経て3企業グループに研究・開発が委嘱された。

※2
建物名称として、BK−430型という記号も用いられていた。
1982年4月に発表されたモデル。
1981年から82年にかけて、別項に記載したミサワホーム55を筆頭に、ハウス55プロジェクト※1の選定3社が個々に開発した低廉で高品質な住宅が相継いで製品化された。 このことが住宅産業界に与えた影響は大きく、幾つかの住宅メーカーから対抗モデルと目される住宅が次々と発表された。 その多くは、洋風を基調としたもの。 積水ハウスからも、ハウス55を意識したと思われるモデルとして、1981年10月に「フェトーのある家」が発表されている。 同じく、洋風のモデルだ。
「入り母屋の家※2」は、そんな市場動向の空白を狙って開発されたという位置づけが可能かもしれぬ。 洋風志向のライフスタイルに呼応しつつも、和のテイストを全面に押し出した低廉モデルである。


2.外観
※3
写真2*
鋼板製の屋根仕上げを施したパターンもあった。


写真1:外観*

モデルの名称にある通り、二階部分に入母屋形式の瓦屋根を載せている※3。 しかし、それだけでは和風の外観を創り出すことはできない。 一般的な和風イメージの構成は、水平方向の安定した広がりと深い軒による陰影の美しさが求められることになる。 一方で、商品として成立させるために、敷地利用の効率性に配慮した総二階建て、ないしは総二階に近いボリュームの設定も与条件となる。
相反するこの二つの条件を両立させるため、様々な工夫が施された。

一つには、総二階のボリュームとなる部位にも、1階と2階の間に庇を廻したこと。 水平性を出すと共に、総二階に近いプロポーションがもたらす単調さを緩和している。
また、水平ラインを強調した雨戸の戸袋や、上端に一本通した笠木によりデザインを引き締めるフラワーボックスの意匠により、和のイメージを醸し出している。



3.プラン
積水ハウスは自由設計を基本としているが、このモデルに関しては29種類の基本プランが設定されていた。
その多くは、別項で紹介している同社のグルニエのある家の基本プランと類似した形式を採用している。 つまり、玄関を挟んで一方に独立した和室の平屋部分を設け、逆側に、玄関を含む総二階のボリュームを配置する形式だ。 そしてその総二階部分の一階は、和室−リビング−ダイニング−キッチンがL字にレイアウトされ、残りのスペースにサニタリー等が設けられるパターンである。

図面1:1階プラン事例*

図面2:2階プラン事例*

プラン構成におけるグルニエのある家との類似性が外観にも現われている。 写真1を見ると、全体のボリューム構成に別項のグルニエのある家に掲載した外観写真との共通性を見出すことが出来よう。

プランのバリエーションとしては、平屋部分を省いた総二階型や、玄関の位置を北側に反転させるタイプ等が用意されていた。



4.内観
狭い空間の中に和室と洋室を続き間として配置する場合、それぞれの部屋に個別の仕上げを施してしまうと、落ち着きが無くて狭い印象の空間になってしまう恐れがある。 別項のミサワホームSIII型では、和室のデザイン要素をリビングダイニングに持ち込むことで統一感を確保している。 具体的には、隣接する和室と同様に壁に聚楽塗り風ビニールクロス,天井に杉板調の化粧合板,開口部に障子戸をあしらうことで和室との一体感を高め、空間の広がり感を演出している。 もしもリビング部分を、例えば当時流行っていた茶褐色のフローリングに壁天井を白系統のビニールクロスを採用し、和室とは全く異なる要素で仕上げていたら、まとまりのない雑然とした空間になってしまっただろう。

写真3:リビングルーム*

写真4:和室*
入り母屋の家も同様に、限られた面積の中に和室とリビングが続き間で構成されているが、SIII型とは異なる両者の統合を試みている。 SIII型が洋間の和風化による統一感の演出を行ったのに対し、入り母屋の家では、和室に洋風の、そしてリビングに和風の要素を取り込むことによる統一感の演出を図っているのだ。
例えば、和室には淡い色調のビニールクロスを張り、床の間廻りのディテールも過度に造り込まず簡素に仕上げている。 そしてリビングダイニングの方は、和紙調のビニールクロスに木目調の天井材を用いることで、和の感覚を醸し出している。
このように、SIII型に見受けられる厳格な統合ではなく、柔らかな和洋の統一化が図られている訳だ。


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*引用した図版の出典:積水ハウス

2008.08.23/記