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ニシン漁家建築
群別の蔵
所在地:
北海道石狩市浜益区群別

現況:
現存せず

関連サイト:
建築外構造物のページにおいても、この蔵について掲載。

建築外構造物群別の蔵


写真1:外観


集落の海沿いに並ぶ漁労用倉庫から少し外れて、この蔵が建つ。
海を背にして撮った写真1のロケーションは、まるで山の中のよう。 それは、北海道の西部日本海沿岸の立地的特性によるものだ。 つまり、海と山が迫る狭隘な平地に集落が形成される場合が多いこと。 そのため、海を背にすると山並みが迫る風景が広がり、そこに佇む蔵はあたかも山小屋のようでもある。
しかしこの立面は紛れも無く日本海を向いて建っている。 存在この方、海からの風と雪を常に受けつつ、そこに屹立し続けてきた。 そんな苛烈な外部環境に伴う経年変化によって、表層を覆っていた下見板は大部分が剥がれ落ち、その下の土壁が露わになっている。
出入り口は、力強い門型をコンクリートで構成した堂々とした設え。 門構えの上部には、「ヤマシメ」の屋号が大きく掲げられている。 この浜益一帯に勢力を誇っていたニシン漁家の屋号だ。
つまり、この建物もニシン漁労の用途に供した蔵。 周囲には、同様の付属建築物が沢山建てられていたのかもしれない。 あるいは、そんな建築群に囲まれて番屋が建っていた可能性もある。
蔵のみが残され、かつての栄華を今に伝えるというのは、寿都の旧岡田家煉瓦蔵と同じ。


写真2:

写真3:

蔵の出入り口から内部を覗いてみると、傭漁夫達が書き綴ったのであろう短い詩篇が所々に残されていた。 有り体に言えば落書きであるが、望郷の念を謳ったものが多い。 そこからは、書いた本人達の様々な想いや境遇が読み取れる。
漁の期間のみの遠隔地からの出稼ぎであったり、あるいはそんな期間限定の出稼ぎのはずが、そのままこの地に留まることになったり・・・。 厳しい漁労の合間にでも書いたのだろうか。
何気ない落書きが、往時の実態や習俗を知る貴重な手掛かりとなる場合がある。 しかしそんな貴重な記録も、この蔵の取り壊しと共に消え去ってしまった。



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2010.10.02/記