日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです |
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建築外構造物
群別の蔵 |
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なかなか得がたい体験というのが幾つかあろう。
とりあえず二つ、ここで挙げてみる。 北海道の日本海沿岸を通る国道231号を往来する小旅行に出ることが、しばしばある。 目的は、ニシン番屋を見て廻ることが第一であるが、この国道を取り巻くロケーションがとても気に入っていることも、訪ねる理由となっている。 札幌市街地を抜け、石狩川を越えた辺りから更に北上する際に次々と展開する風景。 特に秋のそれは素晴らしい。
1990年の10月上旬。
晩秋のにおいを僅かに孕み始めた冷涼な大気に包まれつつ、いつもの様にこの国道を北上。
路線バスと徒歩を組み合わせつつ、幾つかの番屋を観て巡る。
そんな折、フと、何の変哲も無い集落に足が向く。
そこに取り付くガラス戸の桟や袋戸等、それぞれに意を凝らしたの繊細な意匠。 |
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※1:
ディーバイエイチ 景観の特徴を示す指標の一つ。 建物高さ(H)と、その前面道路の幅員(D)の比。 この値が低いと圧迫感や狭さを感じ、高いとその逆の印象となる。 |
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「こっちへ来てみないか」と、その蔵が静かに語りかけてくる。
「俺をここへ呼んだのは、アンタかい」と、私も心の中で言葉を返す。
何の迷いも無い。
その蔵の方へと歩を進め、そしてその前に立つ。
とは言っても、ここに掲載した写真を見て、美しいという印象を共有できる人は少ないかもしれない。
有り体に言ってしまえば、用途を失って放置され、朽ち果てなんとする過程の只中にある土蔵である。
こんなボロボロなモノのどこに、茫然自失するほどの美しさを感じたというのか、と思われるのが普通かも知れぬ。
ともあれ、お宝に招かれることと忘我の境地に至るという、得がたい二つの現象の同時体験。
それを、まだ多感さを辛うじて残し得ていた(?)二十代前半に経験できたことは、僥倖であった。
そんな愛すべき「建築」も、既にこの世には存在しない。
1995年の春先に訪ねた時には、跡形もなくなっていた。
だから、この極上の「建築」との戯れは、僅かな期間、しかも数回に留まる。 |
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2010.10.16/記 |