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住宅メーカーの住宅
継承される草創期:ミサワホームS型/SII型
1.S型系列
1970年代半ばから1980年代半ばにかけて同社が発表した企画型商品群は5系統に分かれていた。 各系統に用いたアルファベットを用いて「GOMASシリーズ」と名づけられた商品群の一部のモデルについては、個別に紹介している。
これらの商品群の中でも、このS型系列は比較的長い歴史を持ち、そのモデルチェンジの数も多い。 否、モデルチェンジというよりも、根底に共通した設計思想を持ちながらも、個々に独自性を持った商品が連なっていたと言った方が適切かも知れない。 それは例えば、基本的にマイナーチェンジのみでロングセラーの金字塔を打ちたてたO型系列とは対照的だ。
2.ミサワホームS型
2-1:昭和半ばの中庸形
※1
「ミサワホーム・コア350」のページに掲載のホームコア75の図面参照。

※2

写真2*
廊下部分。 ホームコア350におけるジョントスペースの名残と解釈できる。
手前の左手に下足入れ。 途中に、幅を活かした作り付け収納(オプション)。


写真1:外観*

緩勾配の切妻屋根が載る。
一階と二階の面積が異なる構成は、総二階を基本とした「GOMASシリーズ」の中では珍しい。 しかも、その外観構成パーツに、他のモデルに共通して見受けられるディテールは一切無い。 新進的な内外装を特徴とした当時の同社の商品群にあっては、どちらかといえば保守的な傾向が見受けられる。 このモデルが発売された時期の平準的な戸建住宅の形態が与えられているといったところか。
「GOMASシリーズ」にはそれぞれに明確な性格付けがなされていた。 そこでS型は、「実質的な生活を楽しむ方に」となっている。 穏やかな保守性を有した形態は、こんな設計思想に基づいているのであろう。

発表時期は1976年。
もともと1975年に「ホームコア切妻」という名称で発表したモデルをそのまま名称変更した様だ。 そして「ホームコア切妻」は、別のページで紹介している「ホームコア75」、そしてその原型である「パイロットハウス技術考案協議」の当選モデル「ミサワホーム・コア350」まで遡ることが、その内外観から読み取れよう。 つまり「ミサワホームS型」は、同社発足時からの歴史の一部を受け継いだモデルと位置づけて良い。

2-2:原理の踏襲と緩和

そのことが、平面プランにも色濃く顕れている。 諸室の配置が「ホームコア75」とほぼ同様であることが、図面1からも読み取れよう。


図面1:平面図*

異なる点として注目されるのは、ダイニングキッチンの扱いだ。 ここでは、リビングルームの北側に連続する6畳の広さを持つ一つの部屋としてダイニングキッチンが計画されている。 しかし「ホームコア75」のこの部分は、水平方向に等分割された二種の空間の連成体であった※1。 一方はキッチンコアユニット、そしてもう一方は、横方向に連続する廊下と共に、一階平面の東西を貫通するジョイントスペースという扱いだ。 その空間構成原理が、本来ダイニングキッチンという一つの部屋であるはずの空間に、二重の袖壁と垂壁を生じさせていた。
S型ではその原理を少々緩め、素直な一つの部屋としてのダイニングキッチンが計画された。

原理の緩和は、コアシステムの破棄も伴った。
サニタリー廻りについても、ここではコアシステムは採用されていない。 南側の居室と同様のパネル工法で間仕切りを形成し、その中に設備機器を納めている。

パネルとコアをジョイントスペースを介して併置させるという型式は、プランからは消えた。 しかしながら、かつてのジョイントスペースを南北に横断する要素が、ここでも全て建具のみである。 壁によって仕切られること無く東西を貫ぬき、その一部がキッチンセットと融合してダイニングキッチンを形成しているという訳だ。 だから、構成原理は形としては踏襲されたことになる。
そしてジョントスペースの名残として、このモデルでも4.5尺という少々幅広の廊下が設置された。 一見無駄な様に見えるが、奥行き方向の長さを鑑みれば、視覚的には適切なプロポーションだ(写真2※2)。 この余裕のある幅を活かして造り付けの家具を配置する提案もなされている。

3.ミサワホームSII型

1977年、ミサワホームS型の後継モデルとして発表された。
全体的な構成はS型を踏襲するが、屋根が切妻から寄棟へと変えられている。 また、玄関の位置を北側に移動させている。


写真3:外観*

図2:平面図*(SII28-2W-Dタイプ)

この玄関の移動によって、玄関の外廻りの設えに潤いが付与された。 また内部も、玄関を入ると真正面に廊下が伸びてダイニングキッチンまでが見通せてしまう状況が改善された。
ホームコア350で開発した空間構成原理を、現実の暮らしに合わせてより一層調律したといったところか。 実際、このモデルのキャッチコピーは、「実質本位、住みやすさに徹した家」となっている。
この「実質本位」という言葉は、単に表層的な特徴を表現しただけではなく、同社が開発・進展させてきた一つの空間構成手法の原理主義からの離脱という意図も込められていたのかも知れない。
ともあれ、それによって、S型系列の特徴としての保守性がより一層深化した。 一階の二つの個室を和室の続き間に変更したことも、その指向性を補完する。


写真4:リビング内観*

このミサワホームSII型は、後続モデルであるミサワホームSIII型の発表後も継続して企画型商品群の中にラインアップされていた。
それは、SIII型がSII型の継承形ではないためだ。 冒頭にも述べたように、同一の商品系列にありながら、単なる仕様調整の範囲を超えた独立モデル群という位置づけが、商品構成の中に顕れている。
S型系列は、草創期の継承形であるS型と、突然変異とも言えるSIII型との折衷が繰り広げられつつ、振幅の大きい変遷を辿ることとなった。 その辺については、別途記載したい。

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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2009.09.19/記