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北方圏型規格住宅:三角屋根
1.概要
※1
公営住宅や金融公庫融資住宅は簡易耐火構造であることや防寒性に優れていることが義務づけられた。

※2
写真2
群をなす三角屋根建築事例


写真1:外観

急勾配の屋根と集合煙突。 そして無機的に配置された窓と装飾を排した壁面。 ただそれだけの要素で構成される極めてシンプルな外観の住宅(写真1)。
通称「三角屋根」。 北海道住宅供給公社が1960年代を中心に、積立分譲住宅として供給した規格型コンクリートブロック造の家だ。
1953年制定の「北海道防寒住宅建設等促進法(寒住法)」により、コンクリートブロック造住宅が法的に推奨された※1ことを背景に、当時各地で造成が進められたニュータウン内を中心に大量に建てられた。 そして、いたるところで三角屋根住宅が群をなして建つ光景が形成※2され、高度経済成長期における北海道の景観の一つとなった。

2.外観
※3
写真3

基礎部分の床下換気口に設けられた鋼製の両開き扉。 季節により開閉が可能。 これも防寒対策の一つ。
扉表面には北海道の地形が成型されている。
景観形成を為し得た理由は建設戸数のみではない。 寒冷降雪地域という気候風土に対する素直な意匠上の処理も、その要因に挙げられよう。
例えば、急勾配の屋根は、降雪期における雪の処理を配慮してのものだ。 また、凹凸の無い単純な構成は、表面積を小さくすることによる外壁面からの熱損失を低減させることを意図したものであるし、コンクリートブロック造の採用も防寒への配慮※3
窓をあまり大きく設けないのも、防寒対策であろう。 側面方向が小開口の高窓に限定されているのは、降雪期における屋根からの雪の自然落下による堆積に配慮したものだ。 更に、灯油を熱源とする暖房設備への対応から集合煙突が設けられている。
気候風土から生じる機能的要求に素直に応答した結果が、地域性に対して違和感を生じさせない佇まいを形成した。
3.プラン
※4
概念図

※5
1966年以降に区切っても、48種類のプランが供給された。 平面図として掲載している2N63Uタイプは、1968年以降13年間にわたって供給され続けた、最もポピュラーなタイプ。 このほか、南面2マスにLDKを配置したものや、東か西いずれかの1列にLDKを配置したもの等があった。
※6
「住まいの履歴」の項に掲載している5番目の家も急勾配屋根の住宅であった。 そのため、2階部分の居室に設けられた押入れも、屋根裏を利用した扱い。 間取りは「三角屋根」のものとは全く異なる形式であったが、屋根の扱いについて共通性が見受けられる。 あるいは、「三角屋根」の影響を受けたのかもしれない。
ちなみにこの屋根裏押入れは、表から見ると収納量が豊富に見えるが、襖を開けると屋根勾配なりに天井が傾斜しており、使い勝手は制限された。

※7
「住まいの履歴」の項に掲載している2.5番目の家の1階部分の間取りも、この中央LDK型だ。 民間業者の設計施工による木造住宅であったが、三角屋根の間取りの1階部分の構成に類似している。
いわば、公社の標準型が一般に波及した事例の一つということになろう。

南北に2列、東西に3列、つまり2行3列のグリッドが三角屋根の平面プランにおける基本構造であり、全てのプランバリエーションに共通する※4
例えば、図1に示したタイプの場合、南面3列の中央のマスにリビングが配置され、その左右のマスに和室1と和室2を配置。 そしてリビングの北側のマスにダイニングキッチンが配置され、通常はリビングと一体空間として扱う。 そのダイニングキッチンの左右に、それぞれ水廻りと玄関等のスペースが配置されている。


図1:一階平面図(2N63Uタイプ)

このプランの他に、玄関等のスペースと和室1を反転させたものや平屋建て等、数十種類の間取りが供給されていた
当時の住宅供給公社の広告を見ると、二階建てのプランに関しては、いずれも二階の間取りが掲載されていない。 そして、二階部分については「中二階」という表示がなされ、造作は別途扱いになっている。 つまり二階はスケルトン渡しで、インフィルは個別に必要に応じて設定するという仕組みであったようだ。
そのため、三角屋根に関する文献を調べても、二階平面の図版が無いか、あるいは載せられていてもそのプランは様々。 但し、概ね中央の2マスのみに居室が設けられ、左右の列は屋根裏という扱いが一般的であったようだ。 そして屋根裏の一部は、居室の収納部の用途に充てられているようである

1階の左右の和室はリビングと2枚引き違いの建具で仕切られているため、プライバシー性を確保しつつも、リビングと一体となった使用も可能である。 また、このことにより、リビングに暖房器具を一つ設置すれば1階の殆どを暖房することが可能になる。
防寒への配慮は、プランニングにおいても実現されている訳だ。

この中央LDK型ともいえる間取りは、この三角屋根以降しばらくの時期、北海道におけるスタンダードプランとして公営住宅以外の戸建住宅にも広く普及する

4.経年変化

原型概念図


※8
下屋追加型概念図


※9
屋根裏拡張型概念図


※10
大規模増築型概念図
三角屋根の多くは、既に数十年の築年数を経過している。 従って、その殆どにおいて何らかの形で改修が行われている。 外観上確認が可能な改修パターンを以下に何点か示す。
1.
外装更新型
屋根の塗り替えもしくは葺き替え、外壁の塗り替え、あるいはアルミサッシの交換や樹脂サッシへの変更等、一般的な軽微な改修に留めているもの。 旧態を良く維持している。
2.
外装部材付加型
外壁に乾式外装材(サイディング等)を付加したものや、玄関前に風除室を設置したもの等
3.
下屋追加型※8
一階の一部に部屋を増築した形式。 原型が視認出来る程度の増設に留まっている。
4.
屋根裏拡張型※9
二階居室の両脇にある屋根裏を居住スペースにしたもの。 それに伴い屋根面にグルニエやトップライトを付加する場合もある。
5.
大規模増築型※10
原型が判別しにくい程に増築が行われた事例。
多いのは主に1.と2.で、5.の例は少数だ。 つまり、最小限の改修に留められた事例が意外に多いということになる。 短期間でスクラップアンドビルドが繰り返される日本の住宅事情からすると特異な状況だ。
これは、コンクリートブロックという構造形式が、改修に制約を課しているという面もあろう。 しかしそれ以上に、無理や無駄のないシンプルなプランが、旧態を維持しやすいという面もあるのではないか。
5.三角屋根のその後
※11
例えば、リビング部分が諸室への動線が交錯する場になっていて、落ち着きのない空間になってしまっていることが図1からも読み取れる。 間取りの効率化のしわ寄せといえよう。
※12
写真4

空家になって久しい三角屋根。 実は冒頭の写真1の三角屋根も、撮影時点では空家。

三角屋根は1970年代以降、急激に建設数が減少した。 要因の一つには、1969年に寒住法が改正されて住宅金融公庫融資の適用範囲が木造や鉄骨造にも広がったことが挙げられる。 また、コンクリートブロック造の欠点となりやすい湿気の問題や、前述した間取りの可変性の低さもあると考えられる。 更にはコンパクトにまとめられた間取りも、効率性から余裕へと変化した住文化のニーズに対応できなかった点もあろう※11

しかしながら開拓期以降、本州の住宅様式のコピーや応用に留まっていた北海道の住宅史の中で、防寒や耐雪といった地域固有の事情に抜本的に取り組んだ意味は大きい。 三角屋根は、北海道が初めて獲得した固有の住宅形式という位置づけが可能であろう。 また、豊かに育った植栽の中に、同じ規格ながらも修繕や改修によってささやかな個性をまとった住宅が並ぶ光景は、様々なデザインが混在する昨今の住宅団地にはない端正な佇まいを醸成している。

道内各地に建つ三角屋根を観て廻ると、空家となっているものが散見される※12。 これは単に三角屋根の問題だけではなく、それらが多く建てられたかつてのニュータウンのオールドタウン化も影響しているのであろう。 このようなストックをどのように取り扱うかということが、今後の課題であろうか。



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参考文献:
北海道住宅供給公社によるコンクリートブロック造住宅の平面構成に関する研究/片山めぐみ,八代克彦,村上ひとみ,菅原正則
<日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)1998年9月>

2007.12.15/記
2008.08.30/写真1,2差替え