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間取り逍遥
戸建住宅.06:縮小型SIII

物件データ

構造:
木質パネル造2F

築年:
1974年

延床面積:
63.76平米

戸建物件No.04の逆、ミサワホームSIII型のプランの基本構造を持ちながら、面積を縮小させた様な間取りだ。

その規模は、東西方向が3.5間、南北方向が2.75間。
増沢洵が1952年に建てた自邸「最小限住居」をほんの少し上回る程度の建築面積だ。 しかし、同じ最小限住居ながらも、その発想は大きく異なる。 増沢洵のそれは、あえて吹抜け空間を導入することで狭隘ながらも豊かな空間を造り出している。 しかしそこには、家族のプライバシーはほぼ望むべくもない。
一方で、今回提示した間取りは、限られた容積の中で可能な限り個室を確保することに主眼が置かれている。 替わりに、増沢自邸の様な空間の質的豊かさは求めるべくも無い。


一階平面図:

二階平面図:

これは、限られた同じ面積という条件を突きつけられた時に、その住居に何を求めるかという根本の問題になる。
現実には、家族間のプライバシー確保を第一与件とする場合が一般的なのではないか。 その様なニーズに対し、この容積で4DKというのは、極めて効率的だ。 これ以上の効率化はありえない、極限まで効率性を高めた間取りといえる。
それを可能にするのが、ミサワホームSIII型にも採用されている階段の設置位置だ。 北側中央に折り返し階段を設け、なおかつそれを北側に軒の出幅分程度に出っ張らせる。 それだけのことで、一階も二階も廊下の長さを抑えた効率的な諸室配置が可能になっている。

この間取りのもう一つの特徴として、窓の位置がある。 全ての窓が、上下階で同じ位置になるように整理されているのだ。 これは外観を構成する上で極めて重要なことだ。
乱暴に言い切ってしまうなら、外観デザインの良し悪しは、窓廻りのデザインによってその大半が確定していまう。 窓を、外観を構成する重要な要素としてレイアウトに配慮するのと、単に平面プランの要求に応じて穿つだけでは、その出来栄えに天と地の差が生じる。 そこに、退屈な建売住宅とそうで無いものとの圧倒的な佇まいの差異が生じるように思う。
ここでは、例えば一階北側の洗面室と浴室の半間幅の窓を、上階の洋室の1間幅の窓の位置に合わせるべく、並べて配置している。
更には、トイレの窓に合わせて、二階の納戸にも窓を設けているが、これは単にデザイン的な整合性のみにとどまらぬ。 本来少々大きめの物入れには、通風を確保することが求められる。 つまり、ここでは外観デザインと屋内の機能が美しく一致しているという訳だ。

玄関が設けられている東側の立面には、窓が一切設けられていない。 やや閉鎖的な印象であるが、道路からの視線に対するプライバシー確保への配慮であろうか。
玄関ドアと壁面だけでシンプルにまとめつつ、上下階和室の吊り押入れが造り出す凹凸の壁面によって表情が与えられているのであろう。
南東方向からこの住居を眺めた場合、この東側の立面と、南側に廻されたバルコニー、そして整理された開口部のエレメントの組み合わせで、小振りながらも端正な外観が形成されているであろうことが想像できる。

これらの設計手法から、もうお気づきになった方もいらっしゃるかもしれない。 これは、ミサワホーム設計施工の住宅である。
ミサワホームSIII型が発表される6年前に、既にその骨格を持つ間取りが提示されていたということが、興味深い。



2011.03.19/記