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戸建住宅.03:House with the Cross

物件データ

構造:
木造2F

築年:
1971年

敷地面積:
96.05平米

延床面積:
105.80平米
四間×三間半のほぼ総二階の造り。 そのボリュームの中に、とても効率的に諸室が配置されている。
結果として5LDKを実現しているが、これはミサワホームSIII型に匹敵する効率性だ。 ポイントは、やはり階段の配置。 といっても、SIII型とは異なる手法だ。 昇り口は玄関の直近に。 降り口は、二階の中央に位置するように計画。 このことで、とりわけ二階は最小限の廊下の設置で四室が効率的に接続している。

一階平面図:

二階平面図:

一階は、廊下から直接リビングに至る動線を諦めて、ダイニングキッチンを介してアクセスするように割り切っても良かったかもしれない。 そうすることによって、ダイニングキッチンをもっと整形に出来た。
和室の押入れは、その半分近くが階段によって欠き込まれているから、正味の収納量は少ない。 また、床の間の類も無いから、少し潤いには欠けようか。 しかし、面積を考えればやむを得ないことかもしれない。

ここまでの説明では、70年台初頭の平準的な建売住宅の間取りの一例ということに留まる。 しかし、このページにこの間取りを挙げたのは、二階部分の独特な構造からだ。
二階部分は、十文字の非居室部分によって居室が分離配置されるという構成だ。 ここで言う非居室部分とは、廊下や物入れや階段が該当する。 その十字形という「図」によって切り取られた「地」の余白としての居室。 そんな関係性が美しい。

もとより十字形は、アドルフ・ロースが「装飾と犯罪」の中で初原的な装飾と位置づけ、ミース・ファン・デル・ローエがその断面形状の柱に拘泥し、安藤忠雄が壁に穿った十字型のスリットで象徴的な光の空間を創り上げた。 高松伸も、「House with the Cross」と題する十字架を内在させた住宅(というにはあまりにも彫刻的で、おおよそ住宅とは視認し得ぬのだが・・・)の緻密なドローイングを80年代に幾つか発表している。
かように、十字形は建築と切っても切れない関係・・・などと書くと話を飛躍させ過ぎということにはなる。 ともあれ、ここではもう少し卑近なレベルで、十字架を内在させた住宅が形作られている。 しかもそれが、平準的な建売住宅のプランの中にさりげなく実現されているところが面白い。

さて、このプラン形式に関し、もう一つの特徴を述べておこう。 それは、プランバリエーションの展開性だ。
昭和50年代のハウスメーカーでは、企画住宅という形式を多く採用していた。 そこでは、基本プランを縦横半間程度ずつ伸縮させることで、同じ間取りの骨格を持ちつつ床面積の違う幾つかのバリエーションを用意し、敷地や予算への対応性を確保していた。 その場合、基本プランによっては、破綻したバリエーションが出来てしまう場合も散見された。
しかし、当該物件にはそれが無い。 実際に、プランバリエーションを幾つか考えてみよう。


図面1:
南側に半間拡大したバリエーション。 一階二階双方の和室とも単純に畳数を増やすだけの処理としたが、面積が広がった分、押入れの追加や床の間や広縁のレイアウトも可能だ。

図面2:
東側の壁面を半間分縮めたパターン。 少々タイトになる部分もあるが、基本を崩さずに概ね無理なく納めることが出来る。

例えば一階二階両方の南側を半間拡大しても、プランに全く破綻は生じない(図面1)。 同様に、西側の壁を左側に半間拡大して横長のプランにする分にも、何の問題も無い。
東側の壁を半間縮めて面積を縮小したプランにした場合はどうだろう(図面2)。
玄関廻りに余裕が無くなるが、階段の昇り口部分を廊下側に曲げれば納まらなくはない。 また、廊下から直接和室へ出入りすることをあきらめる必要が生じるし、水廻りがDK側にずれる。 しかし、大して無理なく全体を調整することが可能だ。 二階などはかえって整形な十字形状の美しい間取りになる。
ということで、これだけでもプランバリエーションが四種類になる。
半間程度の伸縮であれば、どんな間取りでも出来なくはなかろう。 しかしここでは、とりわけ二階の対応性に着目したい。 四室という条件の下、形式的にはいくらでも拡大縮小が可能。 しかも、一階の制約を排除すれば、理屈上は各部屋ごとの任意の調整すら出来てしまう。
そんな展開を可能にするのは、クロスを内在する構造を持つプランの特徴といえそうだ。

実際にはこの物件は電鉄系デベロッパーによる建売住宅であったのだが、企画型住宅の間取りとしても成り立ちそうなところが、もう一つの面白さである。 もっとも、企画住宅と言えるプランにするためには、そこに新たな住まい方の提案を付与する必要がある。 それが無いと、プランは単なる「規格型」であり「企画型」とは呼べない。



2009.03.07/記