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住宅メーカーの住宅
プロトタイプモデル:ミサワホーム・フューチャーホーム2001
1.概要

1987年5月1日から6日までの期間、東京国際見本市会場で開催された国際居住博覧会にミサワホームが出展したモデル。 といっても、それはいわゆるモデルハウスというよりも、住宅の(ような)外観を纏ったパビリオンと捉えた方が良さそうだ。 今後発売を予定している新モデルの御披露目ではなく、当時同社が構想ないしは実用化していた住宅に纏わる各種新技術をプレゼンテーションする場。
その外観は先進性に富む。 いかにもミサワホームらしい出来栄えであるのと同時に、同社にしか発想し得ぬデザインでもあろう。


外観*

※1
三階俯瞰画像(夜景)*

左手の階段を三段昇った奥にはジェットバスを配備。 手前には天体観測に興じる家人の姿。 リラクゼーションや余暇の充実に係る住まい方提案がそこに演出された。


※2
この技術は遡ること十年前、1977年に同社総合研究所内に試作されたパッシブソーラ−ハウスのサンルームに組み込まれ既に開発が進められていた。


※3
即ち一辺は概ね5間幅。 しかし立面構成は尺モジュールには則っていない。 コーナーサッシこそ一辺が1820mmだが、中央の開口部は1980mm。 間に挟まれた壁面は1740mmで各立面を統一。
モジューラーコーディネートよりも意匠性に係るプロポーションに配慮された。

屋内は、各フロアとも基本的にワンルーム空間。 これからの住まいに求められる機能として同社が当時提唱していた「医・職・住」に纏わる多岐に及ぶ先進技術及び住まい方提案の紹介の場として個々のフロアが使用された。
一階は「職」。 在宅ビジネスの展開を指向した空間提案の場として設えられた。 二階は「住」。 豊かで快適な暮らしの実現に向けた各種提案技術の紹介の場として組み立てられた。 そして方形屋根内に設けられた三階は「医」をテーマに健康維持のための各種提案を展開※1
ピラミッド型のガラス屋根は二重構造とし、空隙に空気圧を利用してプラスチック系ペレットを充填及び回収する機構※2を導入。 室内の温熱及び光視環境を制御する技術が紹介された。

2.四面等価の外観意匠

東西南北四面、いずれも共通の意匠。 これは、同社が1976年9月に発表したミサワホームO型で提示した「フォーファサードデザイン」、即ち、四方いずれの立面もメインファサードとなり得る同質の意匠性付与を念頭に置いた外観構成を、より鮮明に実現したものと読み取れる。
一辺9100mmの正方形平面※3の各隅角部に床から天井までの大開口のコーナーサッシを嵌め込む。 また、立面中央にも上下通しの開口を穿つ。 後者は上下の層間にキャンチスラブを設けてバルコニーを設置。 四面とも基本、この構成に則る。 その上部に載冠する屋根は、上記1.にも書いた通りガラス面を大きくとった方形形式。 これも、建物から方向性を消し去り、四面等価の意匠性獲得に寄与する。
唯一の違いは、画像1のアングルの向かって左手側の立面。 そちら側には、二階中央開口部に外部から挿入したかの如くカプセルが一部オーバーハングして装着された。 そのカプセルは「ハイテクコア」と呼ばれ、内部は住宅用途に必要な水廻りの設備一式を集約。 パソコンの筐体に各種デバイスを着脱するかの如くそのカプセルを住宅本体に挿入することで、設備の施工に関わる省人化と更新性の獲得が企てられた。 同社創業期からのテーマであった、設備のコア化という技術開発テーマが、ここにラディカルに結実している。

3.四面等価と回転機構

※4
回転機構については、省エネ性能の獲得以外の目的への活用も考えられる。 仮に当該モデルが商品化された場合、本文中で言及したハイテクコアは、通常であれば建物の裏手、即ち公道に面さぬ立面に取り付けられる場合が多いと考えられる。 その換装には重機の使用が想定されるため、公道に面さぬと作業に手間取る。 そこで、換装時に建物を回転。カプセル装着立面を公道側に向けることで作業が容易になる。 これは個人的な思い付きだが、回転機構にはその様なメリットも見い出せそうだ。


※5
古建築の話と絡めると、神社の本殿や付随する祠等が建立後に自律的に向きを変えたという伝説が各地に残る。 例えば北海道南部に位置する矢不来天満宮は、御遷宮を控えた前日、道路に向いていた筈のお堂が、御神体ゆかりの地の方位へ回転し道路に背を向ける配棟になったという伝説が残る。 不動である筈の建物が動くという言い伝えは、人々の心に強い印象として流布し、変節し、そして伝説と化す。


※6

ミサワホーム・エイト*
詳細は、この「住宅メーカーの住宅」に別途登録している当該モデルのページ参照。

当該モデルの最大の特徴として、建物そのものが回転する機構が挙げられる。 180度を最短40分、あるいは半日かけて回転させる。 それは例えば、太陽の動きを追尾して各季節各時間帯における最適な日照を取得する、あるいは風向に応じて屋内に適切な風の流れをもたらす機能と説明された。 更に、それらによって高い省エネ性能を実現するとも謳われた。
但しこれは、パビリオンならではの現実性を欠いた突飛なアイデアの強引な具現化と言えそうだ。 四面同質のデザインなのだから、回転機構を有しなくても外部環境に応じて建物各所から適切な日照と通風を屋内に取り込むことは容易い。 あるいは、建物を回転させる動力に係るエネルギー消費が、その作動によって得られる日照や通風による省エネ効果と相殺され得るものなのか。 それ以前に、建築に纏わる各種法規への適合や、上下水道や電気等の都市インフラとの接続性等、クリアすべき課題は多い。 従ってここでは、パビリオンとしての話題性獲得に特化した取り組みと見るべきなのであろう※4
但し、全ての立面に等価の正面性が付与されることで、このモデルに回転体としての意匠性が備わり、回転機構の導入と強く連関する。 アイデアと機構と意匠の一致が、当該モデルの優れた特質でもあった。

一方、内観に目を向けると、一,二階には正方形平面の中央からやや偏芯して大断面の柱が屹立。 それは単に構造のみならず、屋内環境制御のための各種装置を内蔵した現代の大黒柱。 柱の表層には、ホームオートメーションに係る多種操作パネルや情報端末が取り付けられ、内部は地熱利用のヒートポンプエアコン用配管等の設備系シャフトも兼ねた。 その柱を拠り所に一階及び二階はワンルーム空間が広がり、来訪者は柱の周りを巡りながら同社の先進技術のプレゼンテーションに見入る訳である。
屋内を周回しながら同社の技術に対する知見を深める。 やや飛躍するが、それはあたかも阿弥陀如来像の周りを巡りながら念仏を唱え真理を探求する常行三昧堂の在り姿と重なりはしないか。 フューチャーホーム2001を未来の仏堂とする見立て※5。 ちなみに、常行三昧堂も基本は方形屋根を載せた正方形平面を成す。

建物そのものの物理的回転と、建物内部で回転する人の流れ。 回転に纏わるダブルミーニングが、古建築の形式と未来住宅のあわいで美しく折り重なる。

4.四面等価と完全プレハブ

当該モデルの外観は、1985年に同社から発売されたミサワホーム・エイトとの類似性を強く持つ。 左記に引用した外観画像※6と上記1.の画像を比較して頂ければ一目瞭然であろう。
正方形平面の四隅を隅切りして開口部にあて、それ以外の各方位立面の外壁中央にも開口部を設けた四面共通の構成。 更に方形屋根を載せる組み立てはフューチャーホーム2001にも相通ずる。 ミサワホーム・エイトの更なる先進系。 フューチャーホーム2001はその様な位置付けに置かれる。

ミサワホーム・エイトは同社創業以来の木質系パネル工法が用いられた。 モノコック構造を持つこのパネルは、各プランの条件に合わせ工場であらかじめ必要な形状を加工・生産。 現地に輸送し接着剤と釘併用でパネル同士を組み合わせて構造体を成す。 その工程を鑑みるならば、制作するパネルの種類は少ない方が、高い生産性を獲得できる。
四面同質ファサードは、その点で有意。 ミサワホーム・エイトは、プレファブリケーションに関わるそんな生産性を鑑みて全体を構成したモデルであったのかもしれぬ。
同様の外観構成要素にて成立するフューチャーホーム2001も、外装部材について同等の高い生産性が期待される。 更に、先述の設備集約カプセルの装着。 斬新なデザインは、同社が創業期より標榜する“完全プレハブ”を強く志向した住宅の工業化に向けた未来住宅への夢が詰め込まれた。

東京都内のとある住宅地の一画に、当該モデルを二棟並列配置した様な住宅が建つ(右画像)。 同社に深く関係するその住まいは、回転機構こそ実現されてはいないものの、前述のペレットシステムを組み込んだ二連のガラスのピラミッドが異彩を放つ。
前世紀に夢見られた各種技術は姿かたちをやや変えて移設され、開発当時未来として捉えられていた今現在に至る。



 
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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2022.02.05/記