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住宅メーカーの住宅
コア内在八角住宅:ミサワホーム・エイト
1.概要
1985年5月1日にミサワホームから発表されたモデル。
正方形の四隅を45度に切り欠いた八角形の平面を採用。 その平面形状の特徴を、商品名称にそのまま表している。 初期広告に載せられたキャッチコピーは、「8角形が、暮らしをアメニティにする。」 また、「愉・快・適・空・間」という言葉も添えられた。


2.外観


写真1:外観*

八角形という平面上の特質が、そのまま外観に顕れている。
四隅に45度に振れた大開口を配置し、中央に大きなまとまった壁面とする構成を各立面に採用。 全ての方位が同質の意匠性を持つ外観を実現した。
この形態操作は、同社が各企画住宅において適用してきた四方の立面全てに正面性を与える「フォーファサードデザイン」と呼ぶ外観意匠の整え方の一つの到達点でもあろう。 と同時に、外観構成パーツの種類の集約が可能となり、工業化住宅としての生産性の追求にも大きく寄与する。

また、大胆なキャンチ形式のピロティが採用された。
接地階は、中央に設けられたRC造のエントランス部分を除き、その殆どを吹き放しの外部空間としている。 その直上に四方に張り出した同じくRC造のスラブを人工地盤として設置。 同社の独自工法である木質パネル接着工法を用いた小屋裏付き二階建てのボリュームが地上から切り離されて中空に積層する。
このピロティ部分は、駐車スペースとして活用することで敷地の有効利用を可能とするほか、屋根付きのアウトドアリビングという位置づけも想定。 当時同社が標榜していた「余暇の時代」に対応した豊かな住まい方を実現するための外部空間として、商品提案に盛り込まれた。



3.プラン
45度に切り欠かれた四隅の開口部の外側には、いずれも二等辺三角平面のバルコニーが設置されている。 そのバルコニーの外周を取り込むと正方形平面となる。 図面1では一辺が芯々9555mmとなっているが、他にも8645mm設定やピロティ無し等、18プラン480のバリエーションが用意された。
図面1:各階平面図*
※1

ミサワホーム・エイトのコアと居室の関係

※2

ミサワホームA型2階建てのコアと居室の関係

その平面の中央部に、居室以外に住宅に必要な諸室を納めたコアを配置。 つまり、階段や浴室や洗面室やトイレ等のスペースである。
そのコアを馬蹄形の居室ゾーンによって包み込む構成が、プランの基本骨格となっている※1

居室と居室外で、コア外とコアに区分けされる図式は、別項のミサワホームA型2階建てにも見受けられる。 違いは、コアの中にキッチンを含めるか否か。 A型2階建ての場合は、キッチンもコアの中に取り込むことで、コアと居室の分化の構図をより明瞭にしている。 対してミサワホーム・エイトでは、キッチンを居室の一部として扱っている。
また、コアと居室の接続方法にも違いが認められる。 ミサワホーム・エイトが前述の通りであるのに対し、A型2階建ての場合は中央に配置したコアの両翼に居室を接続する形式である※2

いずれの場合も、非居室部分がコアの中にまとめられているため、コア以外の部分は非居室用途の影響を受けることなく、自由な居室のレイアウトが可能になる。 家族構成や住まい方の変化に対し、フレキシブルに対応する住空間を可能にしている訳だ。 但し、A型2階建てがコアにより居室ゾーンが二分されているのに対し、ミサワホーム・エイトは馬蹄形に連続した一体空間を形成しているため、より自由度が高い。 従って、図面1に示した各階平面図も、居室の配置に関してはほんの一例に過ぎない。

写真2:リビングルーム*
写真3:キッチン*
写真4:和室*
内観は、建物隅角に45度の振れを持つ開口部が配置される特徴がそのまま顕れることとなる。 この角度の振れた開口は、より長い時間帯の室内への日射取得を可能にする。 あるいは建物四隅に配置されることで、プランニングによっては効率的な通風確保も期待され、屋内のアメニティ向上に寄与する。 更に、近隣建物との離隔が乏しい場合でも視線が直接交錯する状況を緩和し、プライバシーを確保することにも有効であろう。
約40帖の広さを持つ馬蹄形の居室ゾーンの範囲内でいかようの室配置も実現出来るため、例えば写真4の通り、45度の隅切りを手掛かりにやや変則的ながらも個性的な設えの和室を構えることも可能となる。


4.可変性と更新性

同モデルは、国土交通省(当時は建設省)が推進する「センチュリーハウジングシステム」の認定を戸建住宅では初めて受けている。
同制度は、耐久性や更新性の制約により短期にスクラップアンドビルドが繰り返される国内の住宅事情を是正し、長期にわたって優良な住環境を維持する住まいの定着を図ることを目的に創設されたもの。 その目的達成のために、様々な条件設定の下、優良と認められる住宅を認証する制度として1983年に発足した。
ミサワホーム・エイトが認定されるに至った項目は多岐に及ぶが、主だったものを三点挙げると以下の通り。

1.
馬蹄形のフレキシブルな空間によるライフスタイルの変化に対応した間取りの可変性
2.
水廻り等の設備を集約しコアに纏めたことによる各種機器や配線配管の維持・更新作業の容易性
3.
ピロティを活用した床下から壁面を介し小屋裏へと抜ける躯体内換気システムの導入による高耐久化
このうち、1.の可変性について、認定資料では増築の可能性を排除している。 ピロティ形式の構造架台に起因する制約を理由としているが、しかしそのピロティ自体を増築可能領域として設定することも可能であろう。
建物の形態的特徴が、長期にわたって快適に住み続けられる高耐久住宅の実現を可能とした。

発表からまもなくして行われた商品体系の改組により、このモデルは「センチュリーA8」に名前が改められた。 「パノラマリビングとピロティのある家」という副称も付記されている。
また、1985年7月21日から11月4日の期間、神戸総合運動公園で開催された「KOBEグリーンエキスポ85花と緑の博覧会」に企業パビリオンとして当該モデルを出展している。



 
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*:引用した図版の出典:ミサワホーム

2009.05.09/記
2020.12.05/改訂