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建築の側面
新潟県物件No.05:実像と虚像の重奏
規模:3階建て

用途:事務所

写真1:外観
※1

写真2:
破風部分が食い込んだ状況が確認できる。 更には切妻屋根の痕跡の上部に小庇も見える。

※2
トマソン物件のひとつ。 隣接建物の側面に残された除却建物の側面のこと。 何とも不穏なネーミングだ。
「トマソン」については、「超芸術トマソン」(赤瀬川源平著:ちくま文庫)参照。 同書に「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物」と定義されている。

※3
蛇足だが、本文で言及した四つの要素に加えて、五番目の要素もこの備考欄で付け加えておこう。
それは、側面に当たっている光だ。
写真1では側面の殆どが影で覆われていて、左上の一部のみ光が射している。 この光の斜めのラインが、切妻屋根痕の傾斜角と揃うように狙ってみた。 もう一つの勾配屋根である。

三階建て鉄筋コンクリート造の建物の側面に、隣接して建てられていた切妻屋根の二階建て住居の痕跡が認められる。 北海道物件No.02に記載した分類を用いるならば、食い込み型と彩色型の複合体ということになろうか。
切妻屋根の破風板部分が、コンクリート壁面をえぐるような形で残されている(写真2※1)。 そして、屋根以外の除却建物全景は、彩色により元の形を認識することが可能であろう。

これだけでは良くある「原爆タイプ※2」である。
しかし、少々状況を異にするのは、この木造物件除却痕以外に複数の痕跡のように見えるモノが折り重なるように生成されていることだ。

まずは、一階の向かって右側半分。
彩度の高い白色にペイントされているエリアが確認できよう。 彩度が高めであるために、切妻屋根住居除却痕の手前にもう一つ、平屋の矩形の建物が付着しているように見える。 現存建物の側面そのものを第一のエリア、そして切妻屋根住居除却痕を第二のエリアとするならば、この平屋の矩形部分は第三のエリアということになる。
更に、この部分には扉が二カ所設けられている。 隣接木造物件除却後に設置された建具であろうが、第三エリアの中に調度良いバランスで設置されている。 ペイントという虚像の中に設けられた後補の建具という実像。 そんな関係が生成していると読みとれる。

そして切妻屋根住居の痕跡の左側に、それを覆うようにもう一つ大きな矩形のボリュームが存在することも確認出来よう。 第二,第三のエリアとは異なる彩度のペイントが施されることで、それらとは違う第四のエリアとして視認できる。 丁寧なことに、このエリアの頂部全体に出幅の少ない庇が配置されている(写真2※1)。 どういった理由で設けられた小庇であるかは判らないが、鉄筋コンクリート造の建物から突き出た実物の庇だ。
ここでもペイントという虚像と小庇という実像の組み合わせが生成されている。

実際の除却建物痕は、冒頭に述べた木造物件の痕跡のみだと思われる。 そして後者二つのエリアは、何らかの理由で側面に施された後補の仕上げであろう。
実像と虚像を織り交ぜつつ、複数の要素※3が微妙にズレながら重層しているという訳である。 単なる側面に、何やら一種の集落,あるいは都市の様相を描き出していると見立てることも可能ではないだろうか。



2007.11.02/記