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建築探訪
北海製罐株式会社小樽工場第3倉庫
所在地:
北海道小樽市港町4-6

竣工:
1923年3月

規模:
7247平米

写真1:外観


※1
埋め立て前の小樽運河。 1981年頃に撮影したもの。
現在は、向かって左手半分が埋め立てられて幹線道路が通され、その幅を半減。 併せて5.5m幅の散策路も整備された。
北海製罐小樽工場第3倉庫はこの写真には映っていないが、奥の方に見える二本の高木の更に向こう側に立地する。

大正期、市内の臨海部に南北方向に約1.1kmにわたって幅40mの小樽運河が整備された。 80年代半ば、6車線の幹線道路敷設のため、曲折を経てその幅の半分が埋め立てられた歴史は既に忘却に付されつつある。 残余の河道に沿って念入りな修景を伴い整備された散策路は、時代に取り残された雰囲気を呈していた当該都市インフラ※1を有数の観光スポットへと仕立て上げた。
絶え間無い交通騒音と押し寄せる観光客の喧噪にまみれた散策路を暫し北進すると、途中でその様相は大きく変わる。 並走する幹線道路がカーブを描いて西に向かって90度方向を変え、運河から離れていく。 そこから先の「北運河」と呼ばれる界隈は以前の運河の幅が遺り、そして周囲の景観も作り込まれた観光地ではなく過去から引き継がれてきた今現在の自然な街の姿となる。 そんな風景の変曲点に、当該倉庫が位置する。

運河に面して各階に片持ちスラブが張り出し、そこに鉄骨階段やスパイラルシュート、荷揚げ用エレベーター等が取り付く。 更には、鋼製の大きな引き分け扉や換気用のガラリ、そして小窓等も確認できる。
別ページで取り上げている同社の函館工場とは異なり、構成要素の多い外観であるが、ここでも機能のみに忠実で、装飾性は存在しない。 これらのパーツの配備は、運河に面する倉庫という立地条件において、舟運との連繋を最大限効率化すべく企図されたものであろう。

運河沿い固有の景観構成要素として今も散在する木骨石造倉庫とは明らかに異質な外観だ。 竣工したばかりの頃の周囲との異化ぶりは相当のものだったのではないか。
しかし、運河に対峙した機能性に素直に従うその外観は、石蔵以上に往時の運河の興隆を雄弁に語っているのかもしれぬ。 あるいは運河と共に歩んできた時間の堆積が、風景に馴染む作用をもたらしたのであろうか。 こんにちにおいては、運河沿いの雰囲気を醸成する重要な要素として無くてはならぬ存在となっている。

この倉庫棟の更に北側に、運河に沿って事務所棟や工場棟が連なる。 それぞれの用途の応じた異なった外観意匠が施されているが、いずれも第3倉庫と同時期に当たる1920年代から30年代にかけて建てられた。 近代建築の特徴である合理性や機能性に基づく外観を成し、運河北部の風景の形成に寄与している。



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2020.10.17/記