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建築探訪
雪氷防災研究センター
所在地:
新潟県長岡市
栖吉町前山187−16

竣工:
965年3月

敷地面積:46,837平米

物面積:
1,206平米(竣工当時)

旧名称:
科学技術庁国立防災科学技術センター雪害実験研究所

写真1:
庁舎外観。L字を横に倒したような太いラインが、左手袖壁から頂部パラペットへと廻り、外観を特徴付ける。
右手の植栽背後に、後に増築された別棟が並ぶ。


1.雪害という問題
「我が越後のごとく年ごとに幾丈の雪を視ば何の楽しき事かあらん。雪の為に力を尽くし財を費やし千辛万苦する事、下に説く所を視っておもひはかるべし。」

これは、越後の文人鈴木牧之が1836年9月に発刊(実際の発売は、大飢饉の影響もあって翌年)した、「北越雪譜」の冒頭の一節。 「辺郷の寒国に生まれたる不幸といふべし」という想いを根底に書き綴られたその作品は、国内初の雪国の紀行文学として記録的なベストセラーとなった。
その後、「雪害」という言葉が成立したのは昭和初期。庄内地方でのこと。 自然の理として仕方の無いことと受け留められていた積雪の問題に対し、それを災害と位置づけ、乗り越えるべき課題であるという概念が定着。 これをきっかけに山形県新庄市に設置されたのが、積雪地方農村家材調査所。 積雪地方の農業振興や雪害対策に係る研究や啓発活動が積極的に展開された。
しかし、それ以前も、そしてこれ以降も、降雪地の冬期において、雪は日常生活に重くのしかかる問題であることに変わりは無かった。
そして1963年、北陸地方は記録的な豪雪となり、甚大な被害を各地にもたらした。 これをきっかけに翌年の12月16日、科学技術庁所管の部署として、国立防災科学技術センター雪害実験研究所が設立。 その翌年、この研究機関の業務遂行を目的に完成したのが、当施設である。



2.耐雪の意思表示
冒頭の写真1は、主要施設である庁舎の外観。 向かって右手の植栽の背後に部分的に見える棟は、1993年に増築された別棟。 写真2の庁舎と外来研究者宿泊施設棟(以下、宿泊施設)の間に建てられた。
写真2*1 1976年発行の同施設のリーフレット掲載画像。
左が庁舎。右側は宿泊施設。 現在は、この二棟の間に別棟が増築されている。

※1

写真3*2
改修される前の庁舎外観。
パラペットや車寄せ廻りのキャノピーがコンクリート打放しであることが確認できる。
この増築された別棟の竣工に伴い、元々建っていた庁舎の方も翌1994年に改修を実施。 増築棟と同じシルキーホワイト一色の外観となったが、竣工当時は異なっていた。
左手袖壁とパラペットが形成するL字型の外形部分は、コンクリート打ち放し。 塔屋や車寄せのキャノピー部分もコンクリート打ち放しであった。 L字のアウトラインに囲われた二階の外壁面や、一階の柱型は白色。 といっても、現行のものより少々くすんだホワイトであった。 そして一階の柱型を除く外壁面もコンクリート打ち放し※1
これらの構成により、改修前の外観は今現在よりも頑強なイメージであった。 これは、雪害に関する研究の拠点として、どんな豪雪にも耐え得る建築というデザイン意図が込められていたのかもしれない。


3.未完の形が意味するもの
※2
この塔屋部分は「かまくら」の様なデザインにも見える。
庭先等に雪を積み上げ、内部を刳り貫いてDENの様なスペースを設ける、雪国の冬期における伝統的外構アイテム。
雪を扱う機関の建物として、雪にまつわる形象を取り入れることが意図されたのかもしれない。 あるいは、台形状のシェルターの構想は、この「かまくら」のデザインに端を発していたという推察も可能であろう。

※3

写真4
右手奥に見える車寄せキャノピーは、片側端部が切断された様な庁舎のシルエットと相似したL字型。
旧庁舎左手側面を見ると、このL字型部分は二枚の板によって構成されたようなデザインになっていることが判る。 その形も車寄せキャノピーに踏襲されていることが、冒頭の写真1で確認できよう。
車寄せキャノピーの奥に見えるのは、後に増築された別棟。

写真2を観ると、庁舎の右手妻側は、すっぱりと切断された様に途切れている。 これは当初から増築を見込んでのことだったのだろう。
後年の増築では、結局異なる外観の別棟を建てることになった。 しかし当初は、この切断面の更に右側に、ちょうど塔屋やエントランスキャノピーを中心軸に左右対称な外観となるような増築が構想されていたのではないか。
そうすることで、L字が倒立した外形ラインは、台形の完結したシルエットを持つ分厚いシェルターの様なデザインになり得た。 そしてそのことにより、耐雪への意思表示が更に明確になったのではないか。
台形の安定したイメージは、塔屋の側面のデザインのみに想いを残したと見立てることも可能であろう※2

一方で、切断状態のまま未完に終わったデザインとしての唐突感が生じないのは、そんな倒立L字の構成が、エントランスキャノピーにも相似形で採用されているためだ。
斜めの壁と分厚い庇による、L字型を90度転倒させた様な形態が相互に組み合わさるデザイン※3。 このことが、未完でもデザインを成立させる形態操作となっている。

塔屋やエントランスキャノピーを中心軸とした左右対称なデザインという増築の構想は、宿泊施設との位置関係からも読み取れそうだ。
この施設は、庁舎の竣工から少し遅れて同年に完成したが、俯瞰画像(写真2)や遠景(写真6)からは、その微妙な離隔が確認できる。 そしてその離隔は、旧庁舎の左右対称型増築が調度成立する按配だ。
上記推察を補完する理由として都合よく解釈することは、とりあえず可能であろう。


写真5:宿泊施設外観
写真6*1:背後からの遠景


4.降雪への二種の対処

宿泊施設は、庁舎とは異なり、落雪型の急勾配の屋根形状が採用されている。 旧庁舎が積雪に毅然と対抗する意思を感じさせるのに対し、こちらは柔軟に受け流そうとするデザイン。
硬軟の違いはあれど、両者とも雪への対処手段としては基本的なもの。 雪を扱う研究機関に相異なる二つの建築形態が取り入れられていたこと。 そんなところも、この施設のデザインを読み解く面白さといえるのではないか。

二つの施設の背後には広大な実験場がある。 そこでは、人工的に雪崩を発生させる装置や道路の除雪方法の検証を行う設備、あるいは融解式屋根雪処理実験施設等々が設置され、雪にまつわる様々な試験や研究が実施されてきた。
また、庁舎内部は、氷点下50度に設定された保温室をはじめとした幾つかの低温室が一階に配置され、二階は研究室となっている。



INDEXに戻る *引用した図版の出典:雪害実験研究所1976年リーフレット
<科学技術庁国立防災科学技術センター>

2008.11.08/記