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ニシン漁家建築
田中家番屋
所在地:
増毛郡増毛町阿分

竣工:
1878年頃

規模:
1階;468.6平米
2階;73.9平米

現況:
海外へ移築

写真1:外観


※1
勾配が2段(あるいはそれ以上の複数)になった屋根。
寄棟形式のものをマンサード、切妻形式のものをギャンブレルと呼ぶ。
つまり、この旧田中家番屋はギャンブレル屋根である。

※2
初めて訪ねたのは、1992年1月1日。
ちなみに、写真1は同じ年の8月に撮ったもの。

※3
ケムリダシの代わりに、石造の煙突が設けられている。

※4
妻壁の状況。
二階部分にオーバーハングした部分が確認できる。


※5
下記参考文献.1参照。

鰊漁家建築の形態にも地域性がある。
例えば北海道の南部地方の場合は、いわゆる番屋建築が成立する以前の妻入り形式のものが多く分布する。 北陸や東北地方の漁家建築形態の流れを組むものだ。 そして積丹半島付近で番屋建築の形式が発生し、浜益方面に至る広い範囲で、時代を追うごとにダイドコロ部分の機能性の進化と全体の建築としての洗練と豪壮化が進む。 更に増毛(ましけ)を越える辺りになると、もうひとつの形式である「腰折れ屋根※1」が登場する。

この旧田中家番屋もその一つになる。
残念なことに、この番屋も長期に渡って無人の状態にあり、私が訪ねた時点※2においても既に開口部が板で塞がれていた。 旧態の意匠を確認することは困難な状況である。
しかし、この腰折れ形式の屋根の他に、従来のケムリダシではなく三角形のトップライトが設けられている※3ことや、妻壁にオーバーハングが施されている(写真2※4)こと等に特徴がある。

資料※5によると、内部のダイドコロ部分も、ネダイの設置方法が通常とは逆になっている点が異色である。
通常、ネダイは建物中央のニワ側に開放される形で、L型もしくはコの字型に設置される。 ところが、この田中家の場合は、ニワに背を向ける形でコの型に配置されているのだ。 つまり、ニワからダイドコロに至るには、ネダイ下をくぐることになる。
また、ネダイと漁夫溜まりという単純な構成ではなく、座敷も設置されており、複雑な空間構成となっている。

1977年、この建物は解体されスペインのバレンシアへ移築された。 日本文化を紹介する施設として使用されているということであるが、どのような施設であるのかは未確認である。
内外観のみならず、その転進ぶりも異色な番屋といえよう。



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参考文献:
1.建造物緊急保存調査報告書第13集<北海道教育委員会>
2.鰊 失われた群来の記録<高橋明雄>
2007.03.10/記