日本の佇まい
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JR赤羽駅の西口に降り立って暫し歩を進めると、正面に立ちはだかる崖線の上にスターハウスが見えてくる。
Y字型平面を持つ住棟形式。 規格化された板状箱型住棟が連なる団地内に変化をもたらす存在として、あるいは箱型住棟をレイアウト出来ぬ剰余の敷地を利用するアイテムとして、一時期この形式の住棟は全国の様々な公営住宅に採用された。
駅からアクセスした際のアイキャッチとして、そのスターハウスがもたらす効果は絶大。 その背後に広範に展開する赤羽台団地の存在を確実に表徴する。 もしも団地の計画策定時にその意図が込められていたとするならば、心憎い計らいだ。
ともあれ、そのスターハウスに引き寄せられる様に崖線の上下を連絡する階段を昇ると、日本住宅公団が1962年に造成した総戸数3373戸からなる大団地の風景が一気に眼前に広がることとなる。

そんな大規模団地群の狭間のところどころに児童公園が配置されている。 そこに置かれている遊具は、殆どがコンクリート製品。


写真1:

写真2:
ひとえにコンクリート製遊具といっても、それらは以下の通り概ね三種に分類することが出来そうだ。
具象系:動物や植物等具体的事物の形を再現したもの
具体的なモチーフを持たぬ、彫刻的な要素が強いもの
折衷系:両者の中間的な位置づけに在るもの

例えば、写真1は団地内の「くらげ公園」。その中央に置かれた遊具はクラゲをモチーフにしつつ具象性を排した折衷系であろう。 その抽象化に向けた形態処理が極めて秀逸。 その左手に巡らされた、丸型の開口を穿ったコンクリートウォールは抽象系。
同じく団地内の別の場所に設けられている「8の字公園(写真2)」内の三日月形をした築山風の遊具も抽象系。 その手前に置かれた動物型の遊具は、勿論具象系だ。

この様な多彩な展開が可能なのは、コンクリートが持つ彫塑性の強み。 そんな遊具の中で子供達は歓声をあげ、そして思う存分遊びまわったことであろう・・・、かつては。
今、これらの公園に人影を見ることは殆ど無い。 かつての喧騒を懐かしむように、遊具達がひっそりとその場に佇む。
そしてそんな寂寞感に満ちた公園と遊具は、団地内の大掛かりな再開発と共に消え去ろうとしている。

時代の流れ・・・。そんな無常観を想いつつ、しかし記憶は穏やかに継承されているのかもしれぬ。
団地内に新たに整備された住棟「ヌーヴェル赤羽台」の北側に設けられた広大な公園の中には、どことなくクラゲを思わせる巨大なプレイスカラプチャーが鎮座(写真3)。 その周りに、建替えられた住棟に新たに入居した住人の子供達が集う。
そんな公園の外周に設けられた緑地帯の中には、動物型の遊具が幾つか確認できる(写真4)。 建替え前の団地内に在った公園に置かれていたものを移設したのかもしれぬ。 もしもそうであるならば、とっても粋な計らい。


写真3:

写真4:
所与の役目を終えた遊具達は、新たな公園の片隅でこれからも子供達を静かに見守り続ける・・・なんて物語を妄想したけれども、サテ、実際はどうなのか。


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