日本の佇まい
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建築外構造物
まいまいひめ
所在地:
新潟県長岡市表町2

設置:
1958年7月

制作:
廣井吉之助
※1

長岡駅前航空画像

左に載せたのは、新潟県長岡市の市街中心部を西に向かって捉えた航空画像※1。 同市がかつて発行した冊子「新長岡発展計画」に見開きで掲載されたものの一部になる。 その発行年や、画像に写る市内の様子から、撮影されたのは1980年代半ば頃と思われる。
下に見える黒い建物がJR長岡駅。 そこから画像の上の方向に伸びる幅広の道路は、「大手通」と名付けられた目抜き通り。 この画像が撮影された頃は大規模小売店舗が道路の両側に連なる商業の中心地であった。 その駅前通りを少々進んだ先に、鍵の手状にクランクした交差点が確認できる。 このクランクのため、駅舎を背に通り越しに交差点の方を眺めた際、正面に建物が立ち塞がりあたかもそこが行き止まりの様に見えたものだった。
実際には、航空画像で判る様にその先にも道は続く。 しかし同市に住んでいた幼少のみぎり、そこに強い結界を感じていた。 交差点より向こう側を異質な領域と捉える意識。

それは何も、道路の敷設状況のみに影響を受けた印象ではなかったのかもしれぬ。
その交差点が、駅前通り商店街の取り敢えずの末端。 手前は大いに賑わう商店街。 向こう側は個人経営の店舗や戸建て住宅が並ぶ少々落ち着いた雰囲気のエリア。 交差点を境界とした明らかな街並みの差異。 往時のそんな状況も、結界性を補完していたのではないか。 あるいはその異相自体も、鍵の手の道路形状に起因し生成されたものであったのかもしれぬ。

その交差点の傍らに、「まいまいひめ」と名付けられた当該パブリックアートが配されている。
上体を起こして周囲を凝視しているかの如き巨大化したカタツムリと、その上に臆することなく腰を下ろし無表情のまま横笛(の様なもの)を構えた少女。 白一色に塗り込まれたその像が、背丈の高い台座に鎮座する。
子供の頃、結界の手前から眺めるその像はアート作品として素直に受け留められるものではなかった。 漠然と、どこか不穏なもの、禁忌的なものと思い込んでいた。

近年、交差点は周辺の区画整理と共に緩やかな曲線を伴って接続する形状に改良。 通りの正面を塞いでいた建物も移設を伴う建て替えが実施され、その向こう側へと開放的に視線が抜けるようになった。 駅前の商業エリアとしてのポテンシャルも変容。 交差点を介した街並みの差異もほぼ無くなった様に見える。
もはやそこに、結界を意識させる要素は見い出せぬ。 線形改良によって滑らかになった車の往来の只中で、まいまいひめはどこか所在なさげに交通島の内側に取り残されている様に見えなくもない。 そんな状況を眺める視線に、かつての違和の感情は起きぬ。

鍵の手状の街路に感じた強い結界性と、スケールアウトしたカタツムリへの畏怖を含む意識。 その混成若しくは相補関係のうちに、このパブリックアートを捉えていたのかもしれない。



 
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2024.11.16/記