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建築外構造物
新潟駅万代口バスターミナル
所在地:
新潟県新潟市
中央区花園1-1

建築年:
1958年6月

2024年3月30日深夜。 JR新潟駅万代口広場に位置するバスターミナルから最終便が出発する時刻を迎えようとする頃、近辺に人々が集まり始めた。
いつもであれば乗り場の一番隅に一台、そのバスが静かに停留するのみなのであろう。 しかしその日は違った。 最終便を含め、乗り場に平行して並ぶ12の乗降バース全てにバスが入線。 それぞれの車両の前に運転手が降り立ち、向かいの歩道上に集う人々と対面する。
普段見ることのないその光景は、当該バスターミナルが駅の再整備事業の一環で移設されるためにその日をもって閉鎖されることに伴い催されたセレモニーの一幕。 最終便以外の車両前方の行き先掲示には、今までの施設の利用に謝意を示す電光表示。 そして群衆の拍手と歓声の中、最終バスがゆっくり出発。 それに続いて他のバスも次々とターミナルを後にし、65年間使用されたその施設は役目を終えた。

その時、私は現地にいた訳ではない。 ネット配信される地元の報道やSNSでの紹介を通じて当日の様子を知った。 そこには、馴染み深い都市施設が無くなることへの惜別のコメントに交じって、当該ターミナルで採用されていた乗降バースの配置に関する言及も多数見受けられた。
公道からターミナル内に入ったバスは、並列する乗降バースの手前で一旦やや斜めに角度を振って横付けに停止。 そこから誘導係の笛の合図と共に所定のバースに向かってカーブを描きながらバックで入場する光景が、永らく駅前の風物詩となっていた。

※1

旧長岡駅大手口広場俯瞰画像
スイッチバック式と呼ばれるこの入線方法は、以前は多くの駅前バスターミナルで採用されていた。
同じ県内の長岡駅大手口広場に設けられていたかつてのバス乗り場もその一例※1。 乗降バース背後の待合いスペースはアーケードで覆われているため、バスが発着するたびに排気ガスがモウモウと立ち込めた記憶が朧気ながら残っている。 そんなバス乗り場も、上越新幹線開業に伴う駅舎及び駅前広場の再整備に伴い廃止。 現在は、島式の乗り場に改められている。
スイッチバック式は、敷地の効率利用の点ではメリットがある。 そしてダイナミックな軌跡を伴う大型車両の入場方法も、見た目には楽しいものとして映る面もあろう。 しかし運転手の技量に依拠するところも大きく、安全面では必ずしも好ましいとは言えぬ。 ために徐々に島式やロータリー式等に改められ、新潟駅万代口のそれは稀少な残存事例となっていた。
※2

翌日から運用が開始された新しいバスターミナル。
その上屋の構造体は樹形を想わせる。 新旧それぞれの意匠性の有無が、都市施設に対する価値観の変容を物語る。


乗降バース部分
待合い内観

そのターミナルに設置されている上屋は、降雨時にも傘を差すことなくバスを待ち、且つ乗降が出来るように屋根が架けられている。 すなわち、並列する乗降バースの大部分とその背後に直交して帯状に連なる待合いスペース双方の上部を覆っている。 果たしてその屋根を、鉄骨造で如何に架構するか。 乗降バース内に柱を配すとバスが発着する際の邪魔になる。 従って待合いスぺース内に柱を並べ、そこからバースに向かって片持ち形式で大きく屋根を張り出す必要がある。
そのことを念頭に、もっとも合理的な柱梁形状を策定し、そのフレームを乗降バースの短辺寸法の倍数をモジュールとする間隔で並列配置。 そして桁方向にトラス梁とブレースを架けてそれぞれを緊結し構造体を成す。 屋根は、木毛セメント版を下地としたバタフライ形式。 降り注いだ雨を谷部分に集め、待合いスペースに二列平行に並ぶ柱の一方に沿わせた竪樋を介し排水する。

機能的要請を直截に形に置換しただけの上屋。 スイッチバック式であるがゆえに編み出された形態。 そこには意匠的な意図は皆無※2。 与条件に対する合理的な解法のみで成立した意匠不在のその姿が、しかし却って意匠としての固有性を成す。
そしてひっきりなしにバスが発着し群衆が往来する喧騒に満ちたその場所と力強く対峙して駅前の風情を永きに亘ってかたち作ってきた。 フィナーレセレモニーに市民が多数集まったのは、稀有となったスイッチバック式の事例が失われることを惜しむ気持ちだけではない。 上屋が織り成す佇まいへの想いも少なからずあったのではないか。



 
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2024.04.06/記