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建築外構造物
阪急電鉄神戸市内線高架橋−原田拱橋
※1

柱梁接合部にRが用いられた高架橋。 フレーム内は、建築用途として有効活用されている。

※2
上記画像のラーメンフレームに連続して右手奥の方に見えるアーチが原田拱橋。 この拱橋の更に奥に王子公園駅が位置する。

※3
同様に大径間のアーチによって幹線道路を跨ぐ箇所が、この原田拱橋を含め同区間内に三箇所存する。

阪急電鉄神戸線の神戸三宮駅から王子公園の区間の軌道は、ラーメンフレームを用いた鉄筋コンクリート造の高架となっている。 柱梁接合部に円弧を取り入れたのは、視覚的にアーチ橋を模すことで既成市街地の中を通る与件に対し景観的配慮として施されたもの※1。 但し、幹線道路と交差する箇所は、疑似では無く実際にアーチ構造が用いられている。

同線の王子公園駅改札を出ると、ラーメン構造とアーチ構造が接続する箇所が正面に見える。


アーチ構造の方は「原田拱橋」と名付けられ、3径間で構成※2。 上の画像に映っている向かって右側のアーチ橋は、そのうちの駅側のスパン。 その支点間距離は9m弱。 手前に隣り合うラーメンフレームの1スパン分と共に、軌道によって分断される駅前広場の東西を繋ぐ。
写真には映っていないが、この右手に更に続くアーチ橋の支点間距離は約34m。 6車線を擁する山手幹線を途上に柱による支持を用いずに跨ぐ。 絶え間なく行き交う通過車両と対峙しながらその上空に優美な円弧を描き出す光景※3は、都市のダイナミズムやスピード感を美しく可視化していてとても魅力的だ。 しかし個人的には、そちらのスパンではなく隣に連続する上記画像の様態に興味が向いた。

所在地:
兵庫県神戸市
灘区王子町1〜灘区城内通4

構造:
鉄筋コンクリート造

竣工:
1936年

設計:
阿部美樹志

用途:
鉄道高架橋

備考:
土木学会選奨土木遺産
(2020年選奨)

異なる二つの構造形式の間の柱型には化粧目地が水平方向に多層切られ、石造を模している。 そして高欄には上下弦材と支柱が表現され、更にアーチ橋側には直下に支柱と同期したピッチで持ち送りが並ぶ。 クラシカルな表現への接近も、景観配慮であろう。
しかし、スパンの内部に視線を移すと、奇異な状況に戸惑うこととなる。 以下の二枚の画像はアーチ橋側の内部を撮ったもの。



軌道に対し山手幹線が斜めに交差するため、アーチも堤体を斜めに削孔したかの様に造られている。 つまり、平面形態は平行四辺形を成し、アーチそのものが捩れた形態を持つ。 その一方に、斜めのボリュームが床から立ち上がる。 それが幹線道路を跨ぐ隣の大径間のアーチを形成する構造体の一部が貫入したものであることは、相互の取り合いから判る。 しかし、通路としての有効幅を狭めており、やや強引な措置。 更に、この斜体と対面する側の円弧も、なぜにこの様なと思える様々な曲率が取り合う。
二枚の画像はそれぞれ拱橋の北側及び南側双方から撮ったものであるが、多様な要素が複雑に絡むことによって、視点の移動に伴いその表情を大きく変化させる。

もう一方のラーメンフレーム内も、複雑な状況は同じ。 右の画像は、冒頭の画像の逆側(南側)から撮ったもの。 柱脚部分に、フーチングが地上に露呈したかの様な、しかし構造的には意図を測りかねる斜形のボリューム。 壁面も、屏風の様に複雑に折れ曲がる。 更にラーメンフレーム自体も、前述した隣接アーチの斜交の影響で三角平面を成す。 これらの取り合わせが、構造体に求められる合理性からの距離を生む。 加えて二色の塗分けが、要素の錯綜状態を視覚的に一層強化する。

両スパンに見受けられる様態は、国内での鉄筋コンクリート橋の実績がまだ浅い時代における設計及び施工上の試行錯誤の顕れか。 それとも、供用が開始された後に必要に応じて施された構造補強に拠るものなのか。 戦災や震災を乗り越え長年に亘って所与の用途に供し続けてきた都市基盤なので、その経緯は様々推察され得る。
周囲に建ち並ぶ建築物が耐久消費財の如くスクラップアンドビルドを繰り返し絶え間なく変容する渦中にあって、泰然と存在し続ける都市基盤。 建築が獲得困難な持続性を力強く体現するその土木構造体の上部を、開業以来変わることのない“阪急マルーン”と呼ばれる塗装色を纏った同社の車輌が今日も優雅に行き交う。



 
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2020.11.14/記