日本の佇まい
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建築外構造物
バス停の待合小屋


写真1:外観1

写真は、新潟県長岡市の郊外にあるバス停留所の待合小屋を撮ったもの。 このこじんまりとした公共施設は、都心で見掛けることは少ない。 しかし、郊外に出向くと時折散見される。 ここに載せた事例は、これといった特徴も無いありふれた小屋ではあるが、道路と水田の狭間の斜面に、何とも絶妙な収まリ方で建っているところが微笑ましい。

小さくて地味な構造物だけれども、しかしとっても有りがたい施設であることは、特に多くの言を要しない。 バスの到着を待つ間、雨風をしのぎ、あるいは苛烈な日射を避けることが出来る安息の場。

かつて真冬の北海道の日本海沿岸を歩いていて、集落の外れで猛烈な地吹雪に見舞われたことがあった。 叩きつける風雪に、前方に伸ばした自分の腕の先すら満足に見えない。そんな視界不良の状況に若干の恐怖を覚えつつ、為すすべもなくその場に立ちつくすしかなかった。 こんなところで遭難か?と思った矢先、殆ど何も見えない視線の先に、辛うじて待合小屋の存在が確認できた。 当然、その中に避難。 地吹雪をやり過ごした経験がある。
建築の根源が、過酷な自然から身体を守るためのシェルターであるとするならば、待合小屋にこそ、建築の原初の姿が在るといっても良いのかもしれぬ・・・。

話が大上段に膨らんでしまった。
バスを待つ間、写真の待合小屋に独り佇む。 造り付けのベンチに腰を下ろして和んでいると、それまで気付かなかった様々な環境音が知覚されてくる。
例えば、木の葉が風に揺れる音。 鳥の鳴き声。 遠くの方から聞こえてくる水田を耕すトラクターの作動音等々。
身体にピッタリと寄り添うような茶室の如き簡素な狭小空間の中で、それらの音に耳を傾け、そして愛でる。
なかなかに穏やかで奥床しいひと時ではないか。

暫くして、バス待ちの客が一人、小屋の中に入ってきた。
初老のその御仁は、私のことをジロジロと見て、「近所では見掛けない人だネ」と声をかけてきた。 「えぇ、東京から来ました。以前、長岡に住んでいましてね」と返答。 しばし他愛もない会話を交わす。
なるほど、待合小屋はコミュニケーション形成の場、あるいは地域コミュニティのささやかな拠点でもある訳だ。



2016.10.01/記