日本の佇まい
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建築外構造物
小松市の旧弾薬庫
所在地:
石川県小松市


写真1:

金沢への出張時、JR小松駅と小松空港を結ぶシャトルバスの車窓から不思議な構造体が見えた。 建築とは思えぬ形をした荒々しいコンクリートの量塊。 ほんの一瞬、視界に飛び込んできたその構造体の詳細を確かめるべく、空港到着後、現地に引き返す。
畑の中に住宅が散在するのどかな風景の中に、潜水艦のような形をした異様に頑強なコンクリート躯体が唐突に横たわっていた。 風化具合からは、相当前に建てられたものと判断できる。 その尋常ならぬ躯体の分厚さは、明らかに防爆仕様。 瞬時に戦争遺跡であろうと思った。

飛行機の出発時刻が迫っていたために、じっくりと確認することも出来ず、あとでネットで調べれば何らかの情報を掴めるだろうなどと思いつつ、空港に戻る。
しかし、それは甘かった。 調べ方の問題もあるだろうが、具体的な情報を探しあてるには至らず。 戦争遺跡関連の書籍も調べるが、この構造物に関する記述は見つけ出せなかった。
こんなことなら、現地の周辺にお住まいの方に尋ねておけばよかったと後悔しつつ、究明は次の金沢訪問の機会を待つこととなった。

そして約一年後、再度金沢への日帰り出張の予定が入る。
日帰りだからスケジュールには一切余裕が無い。 それでも何とかこの構造物を再度確かめようと思い、シャトルバスではなくタクシーを利用。 空港から小松駅へ向かう途中、この構造体に寄ってもらう。
とりあえずは記録をと思い、周囲を巡って写真を撮影。 その間、運転手さんが気を利かせて近隣の人に、この構造体の来歴を聞いてくれた。 それによって、戦時中に造られた弾薬庫であったことが判明。 やはり戦争遺跡であった。


写真2:

写真3:

なんとなく潜水艦をイメージさせるのは、かまぼこ型をした躯体中央の突出箇所が、艦橋の様に見えるため。 とはいえ、近くで確認すると欠落箇所が確認出来る。 当初の姿がどのようなものだったのか、そしてその機能が如何なるものであったのかの判別は不能。
更にその突出部の片側に伸びる本体部分の損傷も甚だしい。 その表面は草木で覆われ、ところどころに鉄筋が露出している。 サルバドール・ダリの「毛深い建築」という言葉を想起する。
この損傷は、かつての戦禍の痕跡か。 それとも、戦後になって除却を試みたものの、あまりの強固さに途中で諦めて放置された状況なのか。
いずれにせよ、その損傷状況が、並外れた強固さを凶々しいまでに誇示している。

目的を失いながらも、しかしその強靭さゆえに存続し続ける構造体。 しかも、周囲の風景から孤絶せざるを得ない、哀しき存在。
風化という静かな時間の作用のみが、建設された当初とは別の佇まいへと、この構造体を変容させつつあるのだろう。



2010.03.20/記