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北の古民家
太刀川家住宅店舗
所在地:
函館市弁天町15-15

建築年:
住宅店舗;1901年
洋館;1915年
構造:
住宅店舗;煉瓦造
洋館;木造

指定:
国指定重要文化財

現況:
店舗は2009年9月11日よりTACHIKAWA CAFEとして活用

写真1:外観


※1
創刊は、1984年1月。「創刊新春号」となっている。
当時は季刊誌。 また、社名も「日本リクルートセンター」であった。

重厚な煉瓦造漆喰仕上げの店舗併用住宅と、その左隣に瀟洒な洋館が寄り添っている。
現在、リクルート社から出版されている「月刊ハウジング」の前身である「ハウジング情報」誌の創刊第二号か三号に、この洋館の特集が組まれていた※1。 見開きの二ページ丸々使って一階応接室のカラー写真が掲載されていた記憶があるのだが、残念なことに既に手元にはない。 処分したというよりは、いつのまにか無くなっていたという情けない状況なのだけれども、ディテールを確認する上でも極めて貴重な画像だっただけに、今となってはきちんと保管していなかったことを後悔している。

同誌には、何年間も放置されていたこの洋館を、現在のオーナーである六代目当主が再生する際の様々なエピソードが載せられていた。
ドアノブやランプとなどの小物で交換が必要な部材について、雰囲気に合ったものを調達するために古道具屋を巡ったこと。 あるいは、特殊な織り方をしたレースのカーテンのクリーニングに関わる顛末などが書き綴られていた様に記憶している。
しかし、当時はこの記事に対してさほど興味を持った訳ではない。 なぜなら、同誌の購入目的は、そこに掲載されている夥しい量のハウスメーカーの情報であったから。 太刀川家の記事に関しては、「随分古い家に住んでいる人がいるんだネ」といったところがせいぜい。 それが函館に建っているということも読み落としたまま、暫し時が経過する。


写真2:外観

※2
写真2は、一階開口部の鋼製引戸シャッターが閉められた状態。 このシャッターは戸締りの機能とは別に、防火の用途にも供したのであろう。

それから三年後の1987年8月、函館を訪ねた折に偶然この洋館と再会する。 「あ、函館に建っていたのネ」などと呑気に思いつつ、右手に隣接する店舗棟と共にその外観を愛でる。
店舗棟の方は、木骨煉瓦積みの構造体に漆喰を塗り込めた土蔵風。 和瓦葺きの寄棟屋根を載せ、二階の両袖に卯建を配置。 外観構成要素は和風の意匠をベースにしつつ、一階廻りには三連アーチを鋳鉄製の円柱で支持する洋風の意匠。 そして二階にも洋風のガラス戸が連なる等、和と洋の折衷が破綻することなく成立している。
一階の店舗部分は、私が訪ねた時点ではアンティークショップになっていたが、元々は米穀商。 現在はカフェとして活用されている。

洋館の方は、店舗棟とは全く異なる意匠ながらも、同様に三連のアーチをファサードに設けることで、チグハグな印象を払拭している。
そのアーチを支える柱は木造ながらもコリント風を装い、キーストーンも凝ったもの。
二階部分も洋風の意匠でまとめ、洋館としての個性を強めているが、屋根は和瓦で葺かれ、これも店舗棟との調和に一役買っている。

応接専用の別棟として建てられた洋館。 そして土蔵造り風の店舗棟。
更に、その背後に生活の場としての木造和風棟が連なる。
異なる形態が寄り添っているにも関わらず雑多な印象となっていないのは、施主と施工者のセンスなのだろう。



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