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町並み紀行
今井町
場所:
奈良県橿原市
今井町



※1

周囲の景観に配慮してエリア内に建てられた銀行の店舗。

この伝統的建造物群保存地区を初めて訪ねたのは、学生最後の夏休み。 国内各地を旅行している折に寄った。 その時の天候は油照り。 風景を堪能するというコンディションからは程遠く、暑さにやられて印象や記憶は極々僅か。 古い街並みが面として良く残っているネといった程度に留まる。
それから幾年月。 久々に再訪する。 きっかけは、たまたま近鉄大和八木駅近傍に出向く機会があったこと。 フと、「そういえば近くに今井町が有るんだよナ」と気付く。 そして今回は盛夏ではない。 以前とは異なり穏やかな気候の下で落ち着いて風景を堪能できるのではないかと、現地に向かうことにした。

八木駅側からアクセスした際に最初に見えてくる当該エリアの街路は、三和土を思わせるテクスチュアのカラーコンクリート舗装が路床に敷設され、電柱を排し電線類は地中化。 鋼材部をダークブラウンに塗装した街路灯が適宜並ぶ。 歴史的街並みの修景としてお定まりのパターンが、ここでも広範に施されている。
このサイトの様々なページに書いているが、修景はあまり手を加え過ぎるとテーマパーク的な嘘っぽい様相へと堕しかねぬ。 このエリアで施されているそれらは、第一印象としてはかなり微妙なところ。 歴史を経てきた家々に対してやや浮いた雰囲気であるのは、まだそれらが施工されてからの時間の経過が浅いためであろうか。 そしてそんな印象を持つこと自体が、この街並みを構成する建物の群景が伝統的様態を面的に良好に維持していることの顕れでもある。

しかし、エリア内の南側の街路に歩を向けると様子はがらりと変わる。 右の画像の通り、路床はアスファルト舗装。 そして電柱や電信柱が無造作に立ち並び、上空には電線が縦横無尽に飛び交う。
これは勿論、私が再訪した時点における状況。 今後段階的に修景が施される予定なのかもしれぬ。 しかしそれらを眺めると、冒頭に示した画像のエリアの様に修景を施すことの有効性が実感できる。 加減が難しいものの、風景の優化や雰囲気の継承のために大切な行為なのだと。

修景済みのエリアに再び戻る。
同じに見えた路床の表情も場所によって僅かに異なる。 それが施工時期の違いに起因していることは明らか。 修景は段階的に進められているのだろう。 結果、真新しい箇所は三和土の様なテクスチュアを保持。 一方、ある程度時間が経っている箇所は舗装に用いられている細骨材が摩耗し豆砂利洗い出しの様な風合いに。

そんな通り沿いに並ぶ家々の状況も、実は同じく様々だ。 全てが歴史を経つつ様式を維持してきた建物ばかりという訳ではない。
修繕や改修が施されたもの。 劣化するままに放置されたもの。 周囲の様式に合わせて新築されたもの。 その狭間に、洋風の近代建築やハウスメーカーの住宅等も散見される。
テーマパークや映画の背景のセットではなく実際に人が住み続ける歴史的町並みにおいてそのディテールは時の経過と共に微細な変容を堆積しつつ、それらも含めて奥深い景観を継続的に醸成する。 だから、例えばエリア内に建てられた地銀支店の外壁が周囲の家々の雰囲気を擬態して簓子下見板風鋼板張り仕上げなのも、取り敢えずは御愛嬌といったところ※1



2018.03.10/記