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町並み紀行
夕張
場所:
北海道夕張市
本町

写真1:志幌加別川の対岸から観た本町の景観


※1

写真2:
斜面地に炭住が並ぶ1980年代後半の風景。

※2

写真3:

この地を初めて訪ねたのは1980年代終盤の真冬。 山肌にびっしりと炭鉱住宅が並ぶ独特の景観※1を観て廻ることを目的に同地に赴いた。

それから約30年。 久々に同地を再訪した。
基本的に、建築鑑賞や街並散策を目的に訪ねた場所については、都市構造の概要を含めて凡そその風景を取り敢えずは記憶に留めるべくいつも意を払っているつもりだ。 夕張に関しても、その記憶をもとに徒然に街中を散策してみようなどと軽く思いつつ、札幌駅前にて高速バスに乗車。 約100分の行程を経て終着点に降り立つ。 しかしそこで視覚に入る周辺の風景には大いに戸惑うこととなった。
真正面に建つスキー場直結のリゾートホテルは確かに以前訪ねた時にもそこに在った。 だから確かにここは訪ねたことがある筈の場所だ。 そしてこのホテルを起点に厳冬期の市内を歩き回り、結果として「北の古民家」のページに載せている日の出写真館の様な極上の"建築"にも出会った。 にも関わらず街に対する記憶と実際の風景の間に大きな乖離がある。
原因はすぐに判った。 それは、山肌に炭住が連なる光景がほぼ滅失していたこと。 かつてそれらがびっしりと連なっていたひな壇造成された斜面地は、既に山の一部へと回帰。 その合間に、かつて炭住であったと思しき改変著しい住宅や、あるいは藪と化して先に進むことも憚られる小路の向こう側にそれらしき廃屋が僅かに認められるのみ※2。 街の変貌は著しい。

炭住の群景観賞は早々に諦め、それらが連なっていた山肌に挟まれた谷底に位置する繁華街に歩を向けてみる。 早春の休日の昼下がりに訪ねたその場所にも、かつての記憶との合致を見い出せぬ。 それは訪ねた季節の違いが原因ではない。 日の出写真館も含め、この街のかつての隆盛が偲ばれる小粋でモダンな意匠を残す歴史を経た印象的な建物や風景の幾つかが姿を消し、あるいは廃屋と化して通り沿いに静かに横たわる。 繁華街の風景も随分と変わってしまった。

写真4:
志幌加別川に架かる思い出橋の上から観た本町方面。

写真5:
本町2丁目商店街


写真5
写真4
ここでその廃れ具合について執拗に書き連ねるつもりはないし、それらを論って一方的に悲観に暮れることに何の意味もありはしない。 主要産業消滅以降の曲折を経て、この街は縮退する市勢の推移に抗わぬ身の丈に合った都市の在り方を模索する途上にある。
街のそこかしこに見受けられる状況は、その困難な模索の過程の一断面。 そしてその推移は、既に国内の多くの地方都市が向き合っている現況でもある。 あるいは、都市改造と称するカンフル剤を盛んに打ち続けることで発展を持続させているかに見える東京を含めた主要都市とて、その例外となり得る保障は無い。


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