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集合住宅.番外編:「君の名は。」立花瀧の家試案
※1
同サイトの記事は、もう一人の主人公・宮水三葉の家についての考察が主。 その中に立花家の内外観パースも幾つか掲載されている。

物件データ

所在地:
東京都新宿区若葉
構造:WRC造6F
関連資料にて確認可能な内外観には柱型や梁型が一切描かれていないため、壁式鉄筋コンクリート造と判断。 但し外観鳥瞰図では建物が6階建てに設定されており、この構造の採用は特殊だ。
築年月:1970年代か
映画の中の描写は、結構築年数を経ていることを表現している。 玄関扉に鋼板プレスドアが用いられていることからもそのことが窺える。

新海誠監督作品「君の名は。」の主人公・立花瀧の家の間取りについて、試案を作ってみた。 参考にしたのは、このページの末尾に記した資料。 それらに載せられている設定資料や、あるいは内外観描写をもとに間取りを考えた。
ちなみに、アットホームとピクトアップが提供する「シネマドリ」※1にも内外観画像が数点紹介されているので、以下の記載内容に関してはそちらも参照願いたい。

立花家は、集合住宅の中の一住戸。 公式ビジュアルガイド(以下、「ガイド」)には、住戸内の廊下のパースが描かれている。 その廊下に取り付く扉の配置から平面プランの骨格を推察。 そこに各部屋のパース画から得られる情報を落とし込む。 そうして出来上がった平面図を、同じく「ガイド」に掲載されている建物外観鳥瞰パースと照合し、窓の配置等から住戸位置を特定。 そこに描かれている外壁面の凹凸やバルコニー等を平面図にフィードバックさせて纏めた試案が右図になる。 以下に、所見を三点。

1.方位

室内に入射する自然光の描写から類推した。 もう一人の主人公、宮水三葉の意識が初めて瀧の身体に入った日の朝、洗面化粧台の鏡の前で自分の姿を見て戸惑うシーンにおいて、傍らの折戸から自然光が燦々と洗面室内に射し込んでいる。 この折戸は浴室出入口で、浴室に穿たれた窓から朝日が差し込んでいることを物語っている。 つまり、浴室の開口がある側が東側。 このことは、瀧が自室で目覚めるシーンにおいて浴室の開口と同じ方角に穿たれたベッド脇の開口から自然光が射し込んでいることからも想定が可能。
しかしこれだと南面の中央にトイレが来る変則的な間取りとなる。 それに、瀧に入れ替わった三葉が登校のために玄関ドアを開けた際、六本木方面の景色が眼前に一気に広がるシーンとも矛盾してしまう※2

2.瀧の部屋

南東の角部屋が瀧の部屋。 角住戸の角部屋のため、二面に外部開口が確保されていることは作中でも描かれている。
映画鑑賞時にも気になったのだが、彼の部屋は片隅に斜めの壁がある。 なぜ斜めになっているのか理解出来なかったが、平面図に落としてみても必然性が読み取れない。 取り敢えず、「ガイド」の中の建物全景パースにおいてもこの箇所は複雑に入り組んでいる様に表現されているし、コミカライズされた単行本第一巻(以下、「コミック」)に描かれる外観も同様に表現されていることを踏まえて平面図に反映させた※3

3.リビングダイニングキッチン

「ガイド」に掲載されている設定資料を見ると、キッチンとそれ以外の場所の床仕上げが変えられており、双方の接続面に床見切りが設けられている。 この見切りと冷蔵庫脇の袖壁、そしてLDKへの出入口扉の納まりは少々いびつだが、設定資料の描写通りに平面図に落とし込んだ。 キッチンの位置もちょっと不思議ではある※4。 しかしこの配置は、「コミック」の中の室内描写においても確認可能だ。

劇中の開放廊下廻りの描写と内部空間の整合を始め、各部位の描写と設定資料の記述の違い等、建築的な考証において不明な点は散見される。 しかし、内外観の描写にあたり詳細設定が行われていることを平面図の試案作成によって垣間見ることが出来た。 この様なきめ細かい演出も、作品の完成度と魅力を大いに高めているのであろう。

※2
そのシーンを方位設定の根拠として優先させると、建物所在地と六本木の位置関係から玄関側が南面となってしまう。 でも、試案通りの西向き玄関の場合も、新宿副都心が見渡せる筈だ。

※3
瀧の部屋で不明な点がもう一つ。 設定資料では室内北側の壁にベッドに面してガラリ状の建具の様なものが取り付いている。 単純にはクロゼット扉の様に見えるが、そこはベッドや腰高のラックによって塞がれており収納の用を為さぬ。 瀧の部屋は本棚や衣服掛け等の備品で溢れているので、取り敢えずクロゼットは無いと判断。 ガラリ状の設えを室内装飾と見做しプランを纏めた。

※4
この試案では、キッチンを含めた水廻りの排気・排水経路が明確になっていない。 建築年を1970年代と想定し、その頃の一般的な手法を用いるならば、それらはフロアを貫通して棟内を貫く共用シャフトにて処理することとなろう。 そのシャフトの位置は設定資料からは読み取り得ないため省略した。


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参考文献:
・新海誠監督作品「君の名は。」公式ビジュアルガイド
・「君の名は。」映画パンフレット
・コミック「君の名は。」1巻

2016.10.08/記