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集合住宅.32:風と光を集める変形田の字

物件データ

構造:
RC造5F

築年月:
1968年9月

総戸数:
24戸

専有面積:
53.82平米


平面図

住戸の平面図から推察される隣戸どうしの接続形式。 更に戸数を根拠とする建物規模に基づけば、敷地は東西に短く南北に長い短冊形の狭隘なものであろう。 そして東側は隣地境界が外壁面から大した離隔距離も無く迫り、隣には似たような規模の建物が境界ぎりぎりに建て込んでいるのではないか。
そのために、東側のバルコニーが外壁面を底辺とした不等辺五角形平面を持つやや特殊な形状となっている。 日照的に不利な条件下で少しでも南側からの採光を求めたものであろう。
外壁やそこに取り付く外部開口が東向きなのだから、その形態操作には何ら機能的意味を持ち得ぬ。 しかし、前面に迫る近隣建物との相互の視線を逸らし南側を指向しようとする形態的な意思は辛うじて視覚化される。 縦横に連なり住棟を構成する24戸全てが、同様のバルコニー形態を持つことでその企図が建物外観に強固に示されると同時に意匠として引き立つ。
そしてそれは南面への指向性のみに留まらぬ。 五角平面の短い斜辺は、手摺ではなく床から天井までの通しの壁面となっている。 これが全ての住戸に採用されることで、住棟の北側から東側立面を眺めた際に、斜壁が幾重にも連なる屏風のような個性的な外観が形成されているのではないか。

住戸平面は、田の字をやや崩した形態をなす。 つまり、二行二列のグリッドのうち、南側の東西二マスが続き間の和室。 北東のマスがリビングルームと玄関。 北西に水周りとダイニングキッチン。 その北西のマスが、二行二列の田の字をやや変形させることとなっている。
平面図向かって右側の隣戸は、水廻り部の戸境壁を軸にした対称形の平面をなしているのであろう。 但し、バルコニーの形状は、先述の理由により対称形ではなく同じ取り付き方をしている。 その様に考えると、玄関を出てすぐ脇に、隣戸と共用の折り返し形式の階段が配置される。 五階建てであることと建築年代からエレベーターは無し。 そんな二戸一形式の住戸単位がワンフロアに三つ、南北方向に整形に直列配置。 それが二階から五階まで積層すると考えれば、建物全体の住戸数と合致する。 となると、一階は駐車場等の用途に充てたピロティなのであろう、といった建物の全体像が一戸の平面プランから見えてくる。

住戸内は、玄関に入ると敢えてホールを設けず東西に長いリビングダイニングキッチンにダイレクトに繋がっている。 若しくは、玄関前のホール的な空間がリビングルームとダイニングキッチンを柔らかく分かつ。 更には続き間の和室二室それぞれへの出入り口となる二枚引違い戸も玄関寄りに設けることで、玄関と諸室を結ぶ屋内動線がリビングルームやダイニングキッチン内に直接錯綜する状況が避けられている。
この二室への引違い戸と、更に双方を続き間扱いとする三枚引違い戸を一本の柱の元に集中させることで、それらを全て開け放った際に屋内全体をワンルーム的に扱うことが可能となる。 これは田の字型間取りならではのメリット。
そして、二戸一階段方式ゆえに可能となった東西両面バルコニー設置により、続き間の和室には通風が確保される。 あるいはそれは、玄関によって柔らかく分けられながらも東西に連続するリビングルームとダイニングキッチンについても同様だ。 加えて、東ないしは西側の開口部から時間の経過と共に刻々と様相を変化させながら入射する自然光と相まって、家の中に風と光が豊かに集まり巡り、そして通り抜ける空間が獲得された。

本来の意味での田の字型平面の導入が、不動産用語として用いられる「マンション田の字」型プランでは成し得ぬ商品性を実現している。



2021.09.11/記