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間取り逍遥
集合住宅.28:小さく豊かに住まう

物件データ

構造:
RC造12F

築年月:
2021年1月

総戸数:
141戸

専有面積:
38.02平米

バルコニー面積:
5.23平米


平面図

玄関の踏込み部と廊下、そしてキッチンが一体空間となっている。 上り框も無く床仕上げも同一であることが、参照した広告に掲載された平面図から読み取れるので、設えそのものを一体空間として意図したのだろう。 つまり、玄関から屋内に入ると、そこはいきなりキッチンの中という造り。 玄関扉は勝手口という訳だ。
外部との往来が勝手口的な扱いというのは、来客等をあまり想定せぬ極私的な個の空間としてのコンパクトマンションならではの割り切り方であろうか。

そんな玄関兼廊下兼キッチンを抜けると、二段降りてリビングダイニングルーム(以下、LDR)。 そのLDRから出入りするサニタリー廻りには、再び二段昇ってアクセスする。
水廻り部分のみフロアレベルを上げる措置は、界床をフラットスラブとした上でこれらの用途の床下に給排水用の横引き配管を通す懐を要するため。 居室用途にはそのような懐は必要なく、躯体スラブに直に仕上げを施すことが可能。 だから敢えて段差を持ち込んで居室部分について天井高さを少しでも確保し狭隘な室内を立体的に広く見せるよう配慮。 更には居室と非居室の間に設けた段差が、日常生活へのメリハリの導入と空間の柔らかな区分けを実現している。

しかし当該間取りの最大の特徴であり類似する同規模のプランとの大きな違いは、個室の位置にある。
外気に面する壁面の位置や面積が限られる集合住宅は、採光や通風確保のために外壁に面して居室を優先的にレイアウト。 残余の部分を非居室用途とするのが定石。
ところがここでは敢えて個室を外壁に面さぬエリアに行燈部屋として計画。 二本引込み戸によりLDRとの続き間とすることで採光と換気を確保している。 一方、非居室用途である浴室を外壁に面して配置。 この規模でビューバスを実現しているのは商品性に関わる差別化として有効であろう。 しかしそのために唯一の個室が行燈部屋となっているのは、定石からするとなかなかに大胆な措置。
但し、その広さは3畳強。 ベッドを置くだけでほぼ空間を使い切ってしまう。 就寝に特化した室と位置付けるならば、これも一つの割り切り方。 あるいは、暗騒音の大きい環境下であれば、安眠の確保といった面で却ってこの方が有意という考え方もあり得る。
浴室がバルコニーに張り出す形で計画されているため、桁梁がその直上を横断する。 浴室内の天井高に係る梁下寸法確保のためには梁せいを抑えるか階高を上げる必要がある。 もしも後者の措置が採られているならば、居室部分は通常よりも相当豊かな天井高が確保される。 先述のフロア段差の導入と相まって、面積に比して広がりのある空間が提供されることになろう。

定石から離反することで得られる商品性、あるいは今までに無い居住性の確保。 定型化が極度に進んだいわゆるファミリー向け3LDK住戸とは異なる展開が、独居ないしはそれに近い生活様態をターゲットとしたコンパクトマンションを中心に小さく豊かに住まうための新たな室空間の在り方を多彩に進展させ得るのかもしれぬ。



2019.11.23/記