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集合住宅.27:ニーズの変容と共に

物件データ

構造:
SRC14F

建築年:
1981年12月

総戸数:
88戸

専有面積:
95.41平米

共用廊下に面して二つの玄関を持つ。
一方の玄関からは、広々としたワンルームのリビングダイニングキッチンが広がるパブリックな領域に至る。 他方の玄関からは、個室及びセカンドリビング、そしてサニタリー空間が配されたプライベートな領域にアクセスすることとなる。
双方は、バルコニー側に張り出した出部屋状の部分の途上に設けられた扉を介して屋内での往来も可能となっている。

少々変則的なこのプランの生成は、もともとは中央を通る壁によって分離独立していた左右二つの住戸を連結し一つの住戸に纏めたいわゆる「水平2戸1化」が実施された経緯に起因する。
かつて、低廉で良質な住宅を供給することを目的に一住戸あたりの面積を絞り込んだ全住戸同一プランの画一的な集合住宅が、公営住宅を中心に大量に供給された。
当該物件もそんな時代背景と共に在る。 水平2戸1化前の左右それぞれの二住戸は同じプランで成り立ち、その広さは50平米弱。 南面に6畳の和室を二室配した2DKプランであったと推定される(後述※2参照)。
しかし、時代の推移と共に住戸面積拡張のニーズが発生。 狭小な住戸は敬遠され空き住戸が増加。 ストックの維持が困難となる懸念が生じた。
対策として、隣り合う二つの住戸を一纏めにして面積を単純に二倍にすることが企てられた。 ところがその際、住戸どうしを分かつ壁が問題となる。 板状箱型の一般的なRC造の集合住宅は、構造形式として連層耐震壁が採用される。 すなわち、住戸どうしを分かつ界壁は、耐震壁として建物の主要構造を為す。 従って、双方を一体化しようにも、両者を分断するこの耐震壁に開口部を穿つことや壁そのものを撤去することは構造耐力上極めて難しい。 あるいはその実施には大掛かりな構造補強を要することとなる。 そのため、双方のバルコニーの一部を屋内化。 サンルームの様なその部分を介して双方の往来を可能とする方策が採られた。 結果、プランに制約と変則性が生じることとなった。

冒頭に提示した図面は、中古販売するにあたってフルリノベーションが施されたあとのもの。 しかし、水平2戸1化はその改修時に実施されたものではない。 それより前の段階で既に2戸1化が行われていたことや、あるいはその際のプランがどの様なものであったのかということについては、同じ物件で中古販売されている他住戸の図面(下図)※1※2によって把握が可能だ。
部屋数獲得と構造上の制約から、諸室配置や動線計画が相当いびつなものであったことが、そこから読み取れる。 特に、向かって左側の住戸であったエリアのバルコニー側洋室に生じている通過動線は、当該プランでの日常生活にいくばくかの制約を課すことになろう。 一方、リノベーション後のプランは、部屋数の低減が図られた。 そのことによって、いびつさが払拭されたことが新旧の比較でよくわかる。

大量供給のための狭小住戸の建設に端を発し、広さと部屋数に対するニーズに対応して水平2戸1化。 更に、少子化等に伴う家族構成人数の減少と、より豊かで余裕のある暮らしを求める市場動向に合わせたリノベーションの実施。 それなりの築年数を経る中で、その時々のニーズに逐一対応して来たプランの変容が、冒頭のプランに繋がっている。

※1:
つまり、水平2戸1化は入居者の合意形成のもと、全住戸を対象に実施された可能性もある。 UR(旧、日本住宅公団)が手掛けた築年数を経た団地等でその様な事例が多々あるが、その合意形成や実施工事の手法については、ストック活用に向けて今後益々増えるであろう類似事業の展開における円滑性確保のために蓄積が求められるノウハウであろう。

※2:
右図の左右それぞれの住戸プランのパーツを組み合わせることで、先述した水平2戸1化以前の狭小プランがある程度推定できる。


2019.06.08/記