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間取り逍遥
集合住宅.26:分離×分離×分離

物件データ

構造:
RC11F

建築年:
1997年5月

総戸数:
41戸

専有面積:
70.63平米


平面図

キッチンが独立型なのは、対面型が主流となっている昨今の感覚からすると少々珍しい。 しかし、竣工時期を鑑みるならばむしろこちらの方が一般的。
キッチンの北側にユーティリティを、そしてリビングダイニングルーム(以下、LDR)との間に小さな造り付けのカウンターを設けて、冷蔵庫や水屋置場と兼ねたささやかな家事室を確保。 それらを一直線に並べて家事動線に配慮した造り込みは、対面式に対抗し得る商品性を持ち合わせていると言えるのかもしれぬ。
キッチンは、LDR側と玄関ホール側の二か所に出入口を設けた、いわゆる2way設計。 玄関ホール側の引き戸は、キッチンとサニタリー廻りを往来する短絡経路であり、家事動線への配慮が一層補強されている。

少々変わっているのが、その経路上にもう一枚、玄関ホールに面して間仕切り扉が設けられていること。 トイレの扉の開閉軌跡と干渉する中途半端な位置に取り付けられたこの開き扉の設置目的は、住戸内におけるパブリックとプライベートの分離であろう。 この扉によって、共用の領域に属するLDKと私的領域に属する個室群及びサニタリー空間の分け隔てが明確となる。
その明確化の中で、和室も完全に私的な領域に取り込まれている。 通常であれば隣り合うLDRとの間に複数枚で構成された大きな間仕切り引戸を設けて続き間にする。 それによって和室の用途の多様化とLDRと連携した空間的な広がり感を演出するところだ。 その様な開口を設けず間仕切り壁で完全に分割・独立させたのは、先述の玄関ホールの開き扉の設置と抗わぬ公私の分離の徹底。

その徹底は住戸内に留まらぬ。
玄関前の奥行の深いアルコーブと両開き門扉の設定により、住戸内外における公私の分離も強化されている。 すなわち、ここでは公私が入れ子に分け隔てられた構造を持つことになる。

更にもう一つ、プライベート側の領域に配置されるクランク形状の廊下は、一見するとやや無駄という印象。 水廻りや収納の位置関係を整理することで経路を単純化し、北側居室の広さを拡張することも可能なのではないか。
しかしここではむしろそのことよりも北側居室と南面和室の距離感の獲得が優先されたのかもしれぬ。 その空間操作による双方の間のプライバシーの強化。 であるならば、ここにも分離の意思が働いている。

住戸内外、そして住戸内のLDKと個室群、更に個室間。
三重の分離構造だ。



2019.01.12/記