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集合住宅.25:平準化・特殊化からの距離

物件データ

構造:
RC9F

建築年:
2001年8月

総戸数:
149戸

専有面積:
80.62平米

三箇所配置したヴォイドによる居室及び水回りへの通風と採光の確保。 更に北側のそれは共用廊下との離隔ももたらし、北側居室へのプライバシー確保とバルコニー設置を可能とする。 そして、親子開きの門扉を設け共用廊下と区画した専用の長いアプローチ空間の導入による戸建て感覚の演出。
左右を他住戸に挟まれた位置にありながら、通常の田の字型中住戸プランとは異なる間取りの採用によって、商品性を向上。 そこからは、事業計画における他社競合物件との差別化を図ろうとする意図が容易に読み取れる。

マンション事業において単純田の字が延々と供給され続けるのには、それなりの理由がある。 つまり、業界全体で繰り返し同じ形式を採用し続けることによる細部に至るまでのノウハウの蓄積。 暗黙の集合知ともいえるその蓄積によって、隅々まで破綻や不具合の無い商品の提供を容易とし、尚且つ売り易い商品の供給も可能とする。 それは、ある意味では「洗練化」と呼びならわしても良いのであろう。
プランに破綻が無いということは、施工管理にとっても好都合。 品質が確保されることで、不具合発生に伴うクレーム対応頻度の低減も期待される。 売れ易い商品ということは、購入後に何らかの理由で入居者がその住戸を手放す場合も、中古市場において売りに出しやすいというメリットも付く。
しかしその結果、マンションの分譲に係る各種販売資料や専門雑誌等の各種媒体には、どれも同じような住戸プランが延々と並ぶことになる。 否、個々に細部を確認すれば、それなりに他物件との差別化を図るためにそれなりに意を尽くしていることが読み取れぬ訳でも無い。 しかしそれらは、ちょっと収納量が多いとか、少し変わった開き勝手の建具を採用したといった枝葉の差異に留まる。

その様な平準化・特殊化の成れの果てといった状況の中で、一瞥した印象で明らかに他とは異なるプランに出会うと、自然目に留まることとなる。 当該プランは、その様な事例。
しかし「洗練化」された形式と違うことを指向する場合、その形式と同等の細部に至る配慮を実現するには、それなりの覚悟と労力を要する。 そしてそれであっても、こなれていない箇所を生じてしまう場合が無きにしも非ず。 当該プランの中でその様に見受けられる事項を以下に幾つか挙げてみる。

1.
アプローチの最奥部に位置する玄関扉周りのヴォイドに面する壁面は、原図の表現から恐らくはガラスブロックの壁。 そうだとすると、袋小路状となるこのアプローチ空間内における夏季の熱籠りが懸念される。 ガラスブロック壁の一部に換気用小窓が欲しいところ。
2.
同上。梅雨の時期等における高湿環境の恒常化による夏季型結露発生リスクも低くはないと想定される。
3.
同上。一面が開放された袋小路状空間に吹き込む雨水の排水処理は適切に計画されているのか。
4.
当該アプローチに面した居室の外部開口は、採光・通風共に殆ど期待出来ない。何のための開口か。
5.
ヴォイドを介した上下住戸間の騒音への懸念。特に中間期において窓を開放する場合の生活音の影響。 例えば、キッチンの窓から漏れる調理音が上下階南面居室のヴォイド側開口を通して空気伝播する可能性。
6.
ヴォイドに面するLDRの小窓は外部側ガラス面の清掃を鑑みると開き窓ではなく竪辷り出しにすべき。
7.
LDRの照明点灯スイッチは、通常出入口扉の戸先近辺の室内側に付ける。 しかしそこに収納扉が取り合っており、 その設置位置はやや使い勝手の悪い変則的なものとなっている可能性が高い。
8.
トイレの照明スイッチも同様。居室以外の室の照明スイッチは一般的に戸先の室外側近辺に付けるが、その適切な壁面が無い。こういた場合は、戸先側に小壁を設けるのが常道。
9.
そのトイレと玄関の位置関係。
10.
トイレの扉の開閉軌跡とLDR出入口扉の位置関係。
11.
廊下からキッチンに至る出入口扉は、キッチン内の水屋設置想定位置を考慮した結果であろう。主寝室の出入口扉の位置関係はある程度やむを得ぬところもあるが、ここでもキッチン内の照明スイッチの設置位置がおそらく変則的。
12.
住戸内の水回りの位置(段差スラブの位置)及びヴォイドの位置を鑑みると、PRCスラブの採用は困難。おそらく小梁付きスラブとなろう。 その場合、居室内を横断する小梁により下がり天井が発生する。 小梁の架け方を考える上で、居室内の下がり天井の発生範囲を最小限に留めつつ上下階の遮音性能に影響するスラブ支配面積を鑑みながら合理的な構造計画を行おうとすると、なかなか悩ましいプラン構成。

等々。
否、勿論、当該プランを全否定するつもりは無い。 冒頭に述べた通り、独自の商品性を有するプランでもある。 むしろ、ここに列挙した各事項に対し、実際にどの様な措置や配慮が施されているのか。 そのことに関心を持つ。 そしてその様な関心を抱かせるのは、平準化・特殊化からやや距離を置いたプランであるが故だ。



2018.10.20/記