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間取り逍遥
集合住宅.23:空中廊下とスキップフロア

物件データ

構造:
SRC造14F

築年月:
1977年3月

総戸数:
2809戸

専有面積:
47平米


平面図


※1
奇数階のフロアレベルに繋ぎ梁天端レベルが設定されている。 従って、そこより半層分高い位置にある空中廊下を支えるために、梁天端に束が立てられている。
この架構が二層おきに全てのスパンに均等に配置され、その上に空中廊下が貫く。 更にその空中廊下の両脇に2スパン毎に上下に半層分昇降する階段が取り付くヴォイド内の光景は、なかなか壮観であろう。

住戸を規則正しく縦横に積み重ねた板状箱型の中層住棟を、僅かな離隔を介して背中合わせに平行配置する。 この配棟計画を採用する場合、二つの住棟の間に接地階から最上階まで貫く壮大なヴォイドが形成されることとなる。 そしてそのヴォイドに面してそれぞれの棟に共用廊下を通し、各住戸へのアクセス経路とすることが一般的だ。
ヴォイドを挟んで二本の共用廊下が並行配置されるこの形式のことをツインコリドール型と呼び、高密度な集住を形成する公共住宅等を中心に多用された時期があった。
今回取り上げる間取りを有する集合住宅も、同様に住棟を背中合わせに配棟する形式に拠っている。 しかし、その形態はツインコリドール型ではない。 各住戸へのアクセス方法について全く異なる方法をとる。

この集合住宅に来訪する者は、概ね以下の様な空間体験に接することとなろう。
まずその外観を見上げて、予備知識を持つ者であればそれがツインコリドール形式の集合住宅であろうと認識する。 そしてエレベーターに乗り目的階にアクセスしようとするが、カゴの中の行き先階ボタンは隔階のみ。 スキップ形式のツインコリドールとは珍しいなと思いながら取り敢えずは最寄階のボタンを押し、その階へ昇る。 エレベーターの外に出て共用廊下へと歩を進めると、ツインコリドール形式特有の壮大なヴォイド空間が眼前に広がる。 しかし様子が少し違う。 ヴォイドを挟んで両側に共用廊下が設けられているのではなく、ヴォイドの中央に一本の共用廊下が建物の端から端まで浮かぶように通されているのだ。 つまり共用廊下の両側にヴォイドが形成され、廊下と住戸が明確に分離されている。
その共用廊下を通る際、あたかも中空を歩いている様な気分となるのは、両側がヴォイドとなっているためだけではない。 上部に視線を向ければ、直上の共用廊下は二層分上にある。 つまりエレベーターの停止階と連動し、隔階に共用廊下が設けられているのだ。 この上部への抜け感が、左右のヴォイドと相まって空中を歩いている様な感覚を強める。 勿論、共用廊下は実際に宙に浮いている訳ではない。 両側の住棟に掛け渡された繋ぎ梁の上に束立てで載る形で構造的に支持されている※1
そんな共用廊下には、一定の間隔で両側に階段が並ぶ。 共用廊下と住戸がヴォイドによって切り離されているために双方を連絡するための通路が必要であるが、その通路が階段形式となっているのだ。 しかも半層分昇る階段と逆に半層分降りる階段が並列している。 すなわち、一つの廊下で上下二層の隣り合う二住戸それぞれ至ることが出来るようになっているのだ。 共用廊下が一層おきに存する理由がここにある。 と同時に、この階段の取り付き形態から、共用廊下と住戸のフロアレベルに半層分の高低差が設けられていることも判る。 平面のみならず鉛直方向においても、共用廊下と住戸が分離されているという訳だ。

当該住戸については、その間取りの面白さというよりは、ヴォイドやスキップフロアを採用した住棟形式の妙という点で取り上げてみた。 従って、その説明を長々と行うこととなってしまった。
間取りそのものは、建設時の公共住宅において良く見受けられた形式だ。 ヴォイド側に非居室用途を集め、バルコニー側に居室を配置。 さらにバルコニー側居室に連携させてその奥にダイニングルームを配置する。 バルコニー側二室とダイニングは間仕切り襖を取り外せば一体空間として利用出来るところがかつての田の字型間取りの民家の様で面白い。 水廻りの方には独立性の高いキッチンが設けられている。 この住戸面積でダイニングと兼用でないのは珍しい。 一方で、洗面室は浴室と兼用になっている。 トイレとダイニングルームの間の空間を独立した洗面室と出来そうなのに敢えてそのような措置を取らなかったのは給排水管の経路上の制約だろうか。 浴室とトイレの間の間仕切りにガラス戸(高窓であろう)を設け、トイレにも自然採光及び通気を確保している。

キッチンの排気はヴォイドに排出され、上昇気流となって屋上へと抜けていくのであろう。 つまり、食事の支度をする時間帯には、各住戸から排出される調理中の排気の匂いでヴォイドが満たされるのかもしれぬ。 様々な匂いが充満する只中に通された空中廊下を往来するのは、密集する民家の間を縫う路地を彷徨う際と似た穏やかな生活感を知覚する機会となるのではないか。



2017.04.29/記