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集合住宅.22:哀しき斜め採光

物件データ

構造:
RC造6F

築年月:
1990年11月

総戸数:
34戸

専有面積:
76.10平米


平面図

窓からの自然採光を確保するためには、隣地からある程度の離隔が必要だ。 そのため、窓に正対する敷地境界までの距離によって法的に要する採光に係る開口面積が規定される。
もしもその距離に乏しく一定量の採光が望めぬ場合、その対処として「斜め採光」が一般的に用いられる。 つまり、敷地境界線に対して窓の角度を振るのだ。 それによって形式上距離を稼ぐことが出来る。 単純な三平方の定理だ。

通常の分譲マンションは、周到なマーケティングによってある程度購入層を絞り込んでいるとはいえ、不特定多数を相手に販売を行う商品だ。 従って、普遍的に売り易いプランが求められる。 その点において、「斜め採光」によって作り出される不整形な居室はあまり好ましくない。
購入する側にとっても、一般的には同様であろう。 家具のレイアウトを含めた住まい方に制約が生じる。
施工する側だって同じだ。 なるべく単純な形態の方が作り易いし品質管理面でも施工費の面でも有利だ。 否、設計者も同じであろう。 不整形ゆえの煩雑な面積計算。 あるいはディテールやデザイン処理の検証・調整に要する手間の増大。
要は、誰も得をしない。 その上、計算上距離を稼いだからといって実質的な採光量が増える訳でもない。

しかしこれは法の欠陥では無い。
法律の組み立てにあたっては、日本国憲法に謳われる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する仕組みが必須だ。 あるいはその運用において脱法行為が発生せぬようにしなければならぬ。
更に、法的な採光基準を満たさぬ部屋は納戸の扱いとなり居室表示が出来ないため、販売する上での商品価値も購入後の資産価値にも影響してしまう。
結果、斜め採光が横行する、あるいは採用せざるを得ない状況が連綿と続き、同様の形態を纏った建物がマンションを中心に連綿と作られ続ける。

ここに載せた物件のバルコニーに面する窓に生じている状況も、この様な背景に拠るものであろう。
隣接する二つの居室の斜め窓をコーナーサッシとして扱い対称に並べ、且つ一方のコーナー窓と直角にリビングダイニングの斜め窓を配置。 あるいはバルコニー手摺の両端も斜めにカットし、開口部の形態との関連を持たせている様だ。
制約の中でのこれらの形態処理が、逆に外観デザインに思いも寄らぬ効果を付与している可能性もある。 住む側にとっても、この“個性的”な居室を使いこなす工夫によって、意外な生活シーンが獲得され得るのかも知れぬ。



2017.03.18/記