各住戸のアクセスに関して片廊下形式を用いる通常の板状箱型住棟の中スパンの住戸は、一面(主に南側)がバルコニー、そして逆側(主に北側)が共用廊下に面することとなる。
残りの二面は隣接住戸との界壁になるから、間取りは自ずとある程度決まってしまう。
つまり、プライバシーの確保や眺望・採光、そして換気などの居住性能に対して優れたバルコニー側に主室であるLDKを配置。
そして、プライバシーや眺望は期待出来ないものの、居室に必要な採光や換気の確保が可能な共用廊下側に面して寝室が設けられる。
あとは残余のスペースに水廻り等の非居室をレイアウト。
かくして、いわゆる「マンション田の字」型間取りに落ち着く。
この骨格を基本に、あとは立地条件や近隣競合物件の販売動向を睨みつつ細かな調整が図られ、微々たる商品的個性がでっち上げられつつ、似たり寄ったりのプランが無量の如く市場に流通する。
ところが、この物件はその形式から外れる。
住戸アクセス形式に関し、三住戸を一組とする垂直動線に纏めることで、北側が共用廊下に面さない中スパン住戸を多く作り出している。
当該住戸もその一つ。
南北二方向がバルコニーに面するという条件を活かし、通常とは異なる間取りを実現している。
つまり、LDKを北側、個室を南側に配置した逆転プランだ。
LDKは、同じく北側に配置された玄関と組み合わせて、いわゆるリビングイン形式のプランを採用。
つまり、家の内外を往来する動線が必ず屋内の共用空間であるLDKを介すことによる家族のコミュニケーション確保の円滑化という、この形式のプランのメリットとして用いられる常套句が、とりあえずはこの場でも反映されていることとなる。
同様に、来訪者の動線も北側半分で完結するため、南側半分に配置される個室群との間に明確な公私分離を図ることが出来る。
更に、通常の中住戸プランの個室では望めぬ採光や眺望を含めた快適性について、それらを南側に配置することで実現している。
プランの特徴としてもう一つ、収納のことも挙げておこう。
玄関を入って真正面に配置される納戸は、三箇所からの出入りが可能だ。
つまり、玄関ホール、キッチン、そして主寝室のウォークスルークロゼット。
このことによって、住戸内に複数の動線設定が可能となっている。
例えば、リビングイン形式を基本としながらも、主寝室に関してはウォークスルークロゼットを介してLDKを通らずとも玄関に到ることが出来る。
あるいは、キッチンについても、リビングを通らずに玄関との間を行き来することが可能だ。
納戸に動線の分岐点を設定することは、それ自体の使用方法にも多様性が生じ重宝であろう。
この納戸以外にも、デッドスペースを含め各所にきめ細かく大小様々な収納が計画されている。