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間取り逍遥
集合住宅.15:マンション田の字の変容

物件データ

構造:
RC造5F/B1F

築年月:
2009年6月

総戸数:
85戸

専有面積:
75.88平米

バルコニー面積:
10.94平米

平面図
1.田の字型間取り

田の字型の間取りという表現は、戸建住宅においてそのプランの特徴を端的に顕わすべく普遍的に用いられる。
すなわち、二行二列を基本に矩形の居室を整形に配置する形式。 配列する居室数が縦横それぞれ二を超えて計画されている場合においても、拡大解釈して「田の字」と表現され認識される程に融通無碍に流通する言葉である。

しかし、だからといってマンションの間取りに対しても、この「田の字」という表現を拡張してあてがうのは如何なものかと個人的には思う。 ここで「マンション田の字」と呼びならわされているのは、片廊下形式の板状箱型住棟において短冊形に分割された住戸に一般的に用いられる間取り形式。
特に説明は要しないかもしれぬ。
住戸の共用廊下側中央に玄関を設けて左右に居室を配置。 逆のバルコニー側にリビングダイニングルームをレイアウト。 そして双方に挟まれた中央の残余のスペースにキッチンやサニタリーを配置。 更にもう一つの居室を、バルコニーに直接面するか、あるいはリビングダイニングの奥に続き間として配置する。
極度に定型化された3LDKの間取り形式ではあるが、しかしそこに「田」の字を見い出すにはかなりの思索的飛躍を要しよう。 とはいえ、ネット検索をかけると該当する語句が多数ヒットする位に、取り敢えずは広く一般化されていることは確かだ。

2.マンション田の字の背景

集合住宅において、十年一日どころか二十年ないしは三十年一日の如くこの間取り形式が用いられ続けてきた理由。 それは売り易いからであり、且つまた確実に売れるからでもある。 そして売れ易いということは、後々手放すことになっても転売し易いであろうことを、購入検討者は購入の動機付けとして当然念頭に置く。
いや、勿論そんな不動産商品としての側面のみではない。 限られた床面積の中で、そして長辺方向が隣戸と接するために短辺側しか外気に面さぬ短冊状のボリュームの中で、採光と通風を十分取り込める居室を効率的に、そして可能な限り広く確保しようとするとどうしてもこの類いのプランにならざるを得ぬ。
故に、田の字マンション住戸が全国各地に怒涛の如く供給され続ける。 新聞に折り込まれてくる不動産関連のチラシや、街頭で無料配布されている不動産情報誌の各ページにも、尽きることなく大同小異の田の字型間取りが並ぶ。
しかし、この形式も全く不変という訳ではない。 諸室の構成はライフスタイルに基づく様々なニーズに合わせ、微細に変化している。 例えばユニットバスの面積は確実に拡大。 以前は多かった独立キッチンは、今ではまずあり得ぬ。対面式やオープン型が主流。 更には、かつては和室が必ず一室は設けられていたが、最近は全て洋室というパターンが増えつつある。

3.微細な形態操作

さて、僅かな変容を伴いつつも確固たる骨格を堅持するマンション田の字プランであるが、ここに提示した事例はそんな骨格を少し撓めているところが少し面白い。
つまり、共用廊下側とバルコニー側に設けられたほぼ同じ広さの居室。 その間に細長くも巨大なウォークインクロゼットが挿入され、方角以外ほぼ等価な両居室を繋げつつ距離感と独立性も付与する。 そしてそれらとは別に、やや狭い居室が廊下を挟んでもう一つ。
この平面プランにおいてイメージされる暮らし方は、どの様なものだろう。 例えばDINKS。あるいは夫婦別室を指向する住まい方。
“マンション田の字”の骨格を僅かに崩すプランニング操作により、通常の3LDKで想定される一般的な暮らし方とは異なる可能性が見えてくる。



2013.12.07/記