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集合住宅.12:たすき掛けのメゾネット

物件データ

構造:
SRC造10F/B2F

築年月:
1967年2月

延床面積:
71.69平米

L型の外形を持つ2DKプラン。 その屋内動線上に直進階段が取り付いていることで、二層構成のメゾネット住戸であることが判る。 下層フロアには玄関とダイニングキッチン。 上層フロアには二つの個室と水廻りスペースを配置。
メゾネットでありながら一つの平面図で上下両方のフロアが描ける。 そのことから、自住戸内で上下に重なるのではなく他住戸の上下にそれぞれのフロアが積層することが読み取れる。


図1:住戸平面図:

では、当該住戸が他住戸とどのように組み合わさって積み重なり住棟全体を構成しているのか。
同一物件で中古販売中の他住戸の間取りを参照しつつ推察すると、図1の点対称若しくは線対称で且つ階段の昇降方向が反転する相似形の住戸が図1とは別に三種類見えてくる。 図1を含めたそれら四つの住戸が、三フロアに渡って桁行方向及び梁間方向にたすき掛け状に噛み合う。 その状況を図示すると、図2〜4の通り。
この組み合わせ図の中で、図1住戸の下層フロアは図3の左上のブロック、上層フロアは図2の下半分のブロックに位置する。


図2:上層階住戸組合せ基本単位の推定図

図3:中廊下設置階住戸組合せ基本単位の推定図

図4:下層階住戸組合せ基本単位の推定図

※1
中廊下に面して相対する扉どうしは、お見合いとならぬように千鳥配置すべく住戸プランの玄関廻りが微妙に調整されている。

組み合わせ図のうち、図3のフロアは、共用廊下が設けられて各住戸へのアクセス動線が確保されている。 このフロアを、「中廊下設置階」とする。 中廊下に面した各住戸の玄関扉※1から屋内に入ると、正面にダイニングキッチン。 そしてその手前に、上昇ないしは下降する階段が取り付く。 その階段を介して、上層階(図2)若しくは下層階(図4)に位置する居室及び水廻りを配したフロアに連絡する。
図1以外の三住戸についても、実際に各住戸玄関から屋内にアクセスし、階段の昇降を含めて内部を巡ってみるとどの様な間取りなのか、そしてそれぞれの住戸がどの様に他住戸と組み合わさっているのか把握して頂けると思う。
住戸構成の特徴を改めて纏めると、以下の通りとなる。

1.
各住戸はL型の平面形状をなし、桁行方向に上下フロアがずれるメゾネット形式をなす。
2.
隣り合う住戸は線対称の相似形の平面構成をとる。
3.
玄関を有するフロアは同一階に位置する。 従って、共用廊下は、玄関が配置されるフロア(中廊下設置階)のみに設けられる。
4.
中廊下設置階から階段を介し繋がる居室や水廻りを有するフロアは、一方の住戸が玄関階より上層となる場合、隣戸側住戸は必ず下の階に配置される上下反転の積層構成をなす。
5.
そのため、線対称の相似形を基本としながら、階段の昇降の向きは隣接する住戸同士で必ず逆となる。

これらの事項に基づく図2〜4の組み合わせを一単位とし、縦横にこの住戸単位が複数並ぶことで住棟全体を構成しているのであろう。 推定になるが、例えば図5〜7の如くだ。


図5:
下層階推定図
(2階,5階,8階)


図6:
中廊下設置階推定図
(3階,6階,9階)


図7:
上層階推定図
(4階,7階,10階)

各住戸へのアクセス経路となる共用廊下を全フロアではなく特定階のみに設けて動線を集中させる。 これは、高い専有比率の確保には有用だ。 また、垂直動線に関しても、エレベーターは中廊下設置階にしか停止しないから、効率的な運行が可能となる。
その共用廊下を梁間方向中央に配して桁行方向に貫通。 更にその廊下を囲うように梁間方向にたすき掛け状に上下に二住戸を配置する構成は、かのユニテ・ダビタシオン等の事例が在る。 しかしここでは更に、桁行方向にも住戸どうしのたすき掛けによる組み合わせを展開することで、ユニテ・ダビタシオン以上に複雑な住戸配列を実現した。

その計画意図は何か。
単純には、同じ都市型集合住宅であるユニテ・ダビタシオンを参照しつつその応用発展形として更に変化に富んだ住戸の積層状態を実現しようとしたのかもしれぬ。 しかしそれ以上に、各住戸の狭隘な間口に対し、桁行方向のたすき掛け状の積層という形態操作を追加することで少しでも閉塞感を和らげようとする商品的配慮が企図されたのではないか。 一間半幅の居室をとることがやっとの住戸内にあって、階段昇降時に間口方向の広がりを空間体験として得ることが出来る。 高度な集住を実現しつつ各居室を外皮に面するようにする場合、住戸間口を狭めざるを得ぬ。 そんな板状箱型集合住宅の制約の極限に迫りつつ、それでもなお豊かな暮らしを実現しようとする立体的な工夫。 その結果が、当該プランに繋がったのかもしれぬ。



2012.05.12/記
2020.07.04/図面差替,文章全面改訂