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間取り逍遥
集合住宅.04:対角状の諸室配置

物件データ

構造:
SRC造11F

築年月:
1969年7月

総戸数:
240戸

専有面積:
49.87平米

平面図

二つの和室、そしてキッチンと水廻りが対角線上に配置された、たすきがけの空間構成だ。

それにしても、二つの和室の位置関係は、なんとも微妙だ。 これは、中古住宅のチラシから採集した間取りなので、果たして竣工当初のオリジナルのプランなのか、それともその後のリフォームで徹底的に改変された結末であるのかの判断は難しい。
しかし、一つの可能性として、南側の大きな開口のみから二つの室の採光をまかなうことを企図した結果であるとは考えられそうだ。 何らかの理由で、北側の共用廊下に面して居室への採光の機能を満たす大きさの開口部を設けることが困難なのだろう。 また、バルコニーが無い建物のようなので、南側開口部とのバッファーゾーンとして、縁側のような空間が南側和室の前面に計画されたのかもしれない。
空間構成の意図をこの様に類推するならば、これが竣工当初からのオリジナルである可能性は高い。

結果として、短冊形のボリュームを縦横それぞれ二等分して出来た四つの領域に、諸室を当て嵌めるプランが形成された。 等分割した二行二列のグリッドについて、右上のエリアから時計回りにそれぞれA,B,C,Dと名づけてみよう。
すなわち、水廻りや玄関等の非居室用途を納めたA。
南面和室+縁側で構成されるB。
Cはダイニングキッチン。
Dは北側の和室。
CとDは等分布のグリッドから半間分北側にずれてしまうが、概ね、この様なエリア分けが成立する。 その際、南側6畳の和室の左上隅角に位置する柱は、この住戸のほぼ中央に鎮座し、二行二列の格子の基点となる、いわば大黒柱と見立てることも出来ようか。

二つの和室は、間仕切の多くを建具としている。 とりわけ南側の和室のそれは極めて大胆であるが、これらの建具の開閉パターンにより、様々な空間の使い方が可能だ。 例えば、両方の建具を全て開け放てば、大きなワンルーム空間となる。 建具を介したB,C,Dの各エリア間における連環の可能性が、面白いではないか。
更には、縁側的空間の存在。 南側和室の前面の僅かなスペースではあるが、最近の広い集合住宅でも見受けることが稀なこの空間は、使い方によっては極めて魅力的な場所となりえるだろう。

建具の開閉により、矩形に分割された諸エリアを融通無碍に繋げたり閉じたりする構成。 そこに絡む縁側の存在。 そして、グリッドを規定する大黒柱としての見立てが可能な柱。 これらは全て、かつての日本的空間の特質だ。
要素として抽出され再構築された伝統的空間構成の中に、居室と水廻りをたすきがけ状に配置する形態操作。 南側一面採光と狭小空間という厳しい条件が課された矩形の内側に、そんな読み解きを可能とするプランが形成されている。



2009.04.18/記