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間取り逍遥
集合住宅.01:二つの展開性

物件データ

構造:
RC造4F

築年月:
2009年2月

総戸数:
179戸

専有面積:
105.80平米


平面図1


平面図2

間口8.1m、床面積105.8平米、三方向が外壁。 この様な恵まれた条件であれば、集合住宅の間取りも様々な展開が考えられる。 そんな事例の一つであろう。 一般的に言われているところの「マンション田の字」とは異なるプランニングが実現している。

平面1に見受けられるこの間取りの特徴は二点。
一点目は、廊下が二方向に分かれていること。
ここでは仮に、玄関から正面に伸びる方を「廊下.1」、横に伸びる方を「廊下.2」と名づけておく。 この二方向の廊下の配置により、住居の中における公私が明確に分離される。
つまりLDKという公的な空間に至る廊下.1と、個室群とサニタリースペースという私的な空間に至る廊下.2という構図だ。
二点目は、水廻りに展開されるサーキュレーションプラン。 つまり、玄関−廊下.1−キッチン−洗面所−廊下.2−玄関という周回動線である。 建築家宮脇檀は、様々な著書の中で、家の中に回遊性を持たせることの重要性を説いている。 師匠の吉村順三直伝の住宅設計手法だとのことであるが、これには私も賛成。 動線が単一の場合と複数設定されている場合では、日常生活の利便性に差が生じる。

さて、そこで一つの展開として考えられるのが、もう一つの回遊動線の可能性である。 平面図2のように、リビングと個室(ここでは個室を和室に変えてみた)の間を分断する納戸の一部を取り去って両者を繋げることで、それが可能になる。
つまり、玄関−廊下.1−リビングダイニング−和室−廊下.2−玄関という動線。 前述の水廻り部分の動線と併せて、ダブルサーキュレーションプランの誕生だ。
廊下の分岐により可能たらしめた公私の明確な分離性は弱まるが、各個室とリビングダイニングを行き来するルートが二以上確保されることになり、同じ住戸面積であっても、感覚的な広さに違いが出てくると思う。 更には、リビングと個室(和室)が繋がることで、和室への採光をリビング側から確保することが可能となるため、長辺方向の両側が隣接住戸に面する条件においても、このプランの採用が可能になる。

ところで、平面図1におけるリビングに面した納戸の配置はいかにも唐突である。 勿論、リビングに大きな収納があるのは良いことだ。 その時々の生活シーンや季節の変わり目に応じて、様々なしつらえを行うためのモノをしまい込む場所として重宝であろう。 しかし、それ以上に企図されたのが、メニュープランの展開であると考えられる。 即ち、この納戸とその前面のリビング部分を使って、もう一つの個室を作るオーダーへの対応だ。
例えば、6畳の和室を作るメニューを想定しているのではないかということが、南側のバルコニーに面したサッシの割付けからも容易に想像できる。 それを、この間取りにおける二つ目の展開性ということにしておこう。



2009.02.09/記