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間取り逍遥
戸建住宅.23:玄関の位置づけ

物件データ

構造:
枠組壁工法2階建

築年月:
2023年9月

敷地面積:
101.87平米
延床面積:
96.10平米

一階部分に通り土間的な動線処理が組み立てられた間取りだ。
玄関ドアから屋内に入ると、やや奥行きの深い土間。 その奥行きが、諸室へのアクセス動線となる。
手前は式台の様な小上がりを介し、両引き分け戸の向こう側にリビングダイニングルーム。 その少し奥には、同じ小上がりを介してキッチンに至る一本引き込み戸。 更に奥に進むと、サニタリーゾーンに向かう。 しかもそれとは別に最奥部にはウォークスルー形式のクロゼット。 そのクロゼットを介して玄関とサニタリーを往来できる。

例えば手前の土間とリビングダイニングルームを往来する動線は、来客を意識したもの。 キッチンに向かう動線は勝手口的な機能。 そして最奥部には、クロゼットを介して外出若しくは帰宅時に玄関とサニタリーを直接結ぶ動線。 即ち、屋内における様々な目的や行為に対し、土間の奥行きが積極的な役割を果たす。 勿論、土間を介さず室どうしを往来する動線も確保されている。


一階平面図

二階平面図

それだけではない。 土間部分に更に階段と吹抜けを組み合わせて、二階への動線と空間的な広がりも付与。 その二階は、吹抜けを巡りながら各室にアクセス。 つまり、土間が吹抜けを介して二階の動線にも関与する。
南面の個室にはDENが付随。 テレワークのニーズを意識したものか。 であれば、土間からサニタリーに至る動線も、昨今の住居に求められる感染予防策を意識したものとの解釈が可能だ。

近年、今回取り上げた事例と同様、屋内に複数設定した動線の分岐点に玄関を位置付け様々な機能や用途を担わせるプランが散見されるようになった。 そこは既に単なる屋内外の通過点ではない。 そしてリビングルームや寝室等の用途が明確な居室でもない。 あるいは水廻りや収納部の様に住まいとして必要な特定の機能が付与された非居室でもない。 いずれにも属さぬ新たな「室」としての可能性が、玄関に求められ始めているのかもしれぬ。

1980年代前半、住宅専門月刊誌「ニューハウス」に松田妙子が「苦言直言」と名付けたコラムを連載していた時期がある。 1984年8月号の掲載文は「今こそ「玄関」の再考を」と題し、玄関が狭隘化し、単に靴を脱着する場と化した住宅事情に一石を投じる内容であった。
一部引用してみると以下の通り。

合理性だけを追ったり、外国のものまねではなく、日本人の暮らしにあった、これからの玄関を考えなければならない。 そこで、玄関をただ通り過ぎるだけの場所ではなく、一つの部屋と考えてみてはどうだろう。
氏の提言に、時代が追いつき始めたのだろうか。 


 
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2025.09.20/記