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戸建住宅.20:奥性を演出する仕掛け

物件データ

構造:
木造

築年月:
1988年6月

敷地面積:
262.50平米
延床面積:
130.66平米

玄関と和室が壁一枚隔てて隣り合う。 にも関わらず、玄関から和室に至るためには、屋内に馬蹄状に延伸された動線を巡る必要がある。 そして辿り着いた和室は行き止まり。
ちょっとした調整で、玄関ホールと和室を直接往来する動線の確保は可能だ。 そのことによって周回動線も形成出来るのに、敢えてそれをやらなかった意図。 それは、奥の間としての和室を造りたかったためなのであろう。 そして、その奥性獲得のために、動線の迂回のみならず空間の造り込みにも周到な意が払われている。


二階平面図

一階平面図

それは、馬蹄状ゆえに生じる視線の180°の移動に伴い次々と立ち顕れる。
即ち、玄関ホールから親子扉を介してリビングに進むと正面にフロアレベルが一段上げられたダイニングスペース。 そこから右手に90°視線を動かすと、正面の壁にベイウィンドウを穿ったリビングルーム。 直上は屋根形状に合わせた勾配天井を持つ吹抜け空間が広がり、二階のギャラリーへと繋がる。 開放的な設えを暫し堪能しつつ更に右手に90°視線をずらすと今度はリビングの床面から一段下がった土間。 脇には階段が寄り添い、吹き抜けに面して二階のギャラリーへと意識を繋げる。 そして土間の奥に、矩折りに廻された縁側を介して漸く和室に至る。
この様に動線上に目撃される様々な設えによって、床の間の無いやや無機質な和室に奥性が与えられる。 そしてそれは恐らくは奥性の獲得に留まらぬ。 その様にして生成される奥性と共に、屋内で楽しく暮らすための仕掛けとして、これらの設えが日常生活に作用するのであろう。

奥性の生成は一階のみの留まらぬ。 例えば二階のギャラリーについても、玄関を起点とした経路においてスパイラル状の動線が設定されている。 更にそこには吹き抜けや階段を介した鉛直成分が加わり、もう一つの奥性を創り出す。
そしてこれらの動線とは別に、一階北側に一直線に配列された水廻りは、上記の二つの動線と錯綜せぬもう一つの生活動線を形成。 その裏動線の確保によって、奥性の生成を司る二つの動線の意味が純化される。



 
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2022.08.06/記