日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築探訪
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
 
INDEXに戻る
間取り逍遥
戸建住宅.19:和室の消失,洋室の和様化

物件データ

構造:
木造

築年月:
2003年7月

敷地面積:
102.62平米
延床面積:
101.25平米

一階のリビングダイニングルーム(以下、LDR)に接続する6帖の居室が気に掛かった。
例えば採光や眺望の確保、そして家事動線の効率化を鑑みるのであれば、当該室とキッチンを入れ替えてレイアウトすべきなのではないか。 そうすることで当該室は南面するし、キッチンも他の水廻りに近接し家事動線が短絡する。 敢えてその様な配置としなかった意図の推察すべく、間取りを暫し眺めることとなった。


一階平面図

二階平面図
※1
幅が半間と一間、奥行を双方とも半間とする収納が設けられているが、二階の各居室も同じ量の収納が確保されている。 いずれも、各居室の間に挿入することで個々の部屋の独立性やプライバシーの向上に配慮している。 更に、これらの居室とは別に、一階の玄関ホールや二階の廊下にも収納を設置。 全般的に収納の確保に配慮されている。

※2
同時期の変化として、階段の位置も挙げられよう。
近年はリビングに直に接続する計画が主流であるが、当該事例は旧来の一般形である玄関ホールと一体の計画となっている。 端境期ゆえに、要素によって新旧の適用が混在しているところも面白い。

この6帖の居室は、キッチンとLDR双方と引込み戸で連携する。 そして、この位置に配置されることで玄関から直接至る動線も確保された。 更には、水廻りにも近接する。 これらによって、当該室に様々な用途への転用性が付与された。
例えば、就学前の幼児がいる場合、一つの部屋に親子が川の字になって就寝するケースが多いと言われている。 収納をたっぷりと有し※1、階段の昇降も必要とせずトイレにも近いこの部屋は、その用途に最適であろう。 就寝時以外は、その収納部に布団を仕舞い込めば、幼児の遊び場としてそのまま使える。 キッチンやLDRと続き間となっているから、それらの室から子供を見守ることも容易。 あるいは、この部屋を子供が散らかした状態の時に不意の来客があっても、引き戸を閉めてしまえば雑然とした状況を露呈せずに済む。 子供が一定の年齢に達し二階の個室を使う様になっても、この6帖間はキッチンとの連携を活かし、茶の間としての使用が可。 玄関から直接来訪者を招き入れて客間として使用することも可。 更には、引き戸を全て取り払えば、LDRやキッチンと一体となった広々とした空間も演出できる。

この様な転用性が期待される空間には、旧来であれば和室が充てられていた。 概ね2000年代前半頃までは、その様な目的の部屋として和室が少なくとも一室は間取りの中に組み込まれることが普通であった。 しかし、以降その定型が崩れる。 当該プランと同様、本来和室であった筈のその空間が洋室で計画される様になり、和室が全く無いプランは珍しく無くなってきた。 建設年からして、この事例は調度その変化に差し掛かった時期に位置する※2

和室の不在。 これは、既に和室そのものが形骸化していることと深く関わろう。 例えば縁側などの中間領域を介して庭と流れる様に繋がる屋内外の関係性。 あるいは年中行事に合わせた室礼を展開するための床の間等の空間装置の配備。 そういった本来和室として備わるべき要素が喪失し、あるいは室礼そのものを習慣として嗜む生活様態も失われて久しい。 結果、単に床仕上げ材の選択として畳が敷かれただけの部屋を慣例上"和室"と呼称する扱いが常態化していた。
そして住む側も、転用性を期待する部屋として和室ではなく洋室を違和無く受け入れ使いこなすライフスタイルが定着して来た。 つまりは、洋室の和様化。 そんな背景が、和室を設けないプランが一般化した要因なのでもあろう。



 
INDEXに戻る
2021.03.13/記