地上一階地下一階建ての物件。
そのプランからは、敷地と建物の関係について二通りの想定が可能だ。
一つは、北東に向かって下り勾配の傾斜を伴う敷地に建つ住宅であること。
従って、地下一階の北東部を除く各面は地盤に接するために無窓ないしはドライエリア設置の措置がとられている。
対して北東側はその外壁の殆どが地盤面より上となるため、窓が数か所穿たれているという見方。
もう一つの考え方は、高さ制限等の何らかの理由で下階を半地下状にしている可能性。
それはアプローチ部分に階段が設けられているいることからも容易に想定し得る。
この場合、地下階の北面に穿たれた窓は、ハイサイドライトの扱いになる。
地域一帯に課せられた建物絶対高さ制限の範囲内で、上階LDKの天井高をなるべく高く確保するために、この様な措置が講じられたのかもしれぬ。
実際、これだけ広いLDKの場合、慣例的な天井高では圧迫感が生じる筈だ。
外観写真等の情報が無いため、二つのうちのいずれに近い形態なのかは判断できない。
あるいは、これら二つの想定とは全く異なる与件に基づく計画である可能性も、勿論ある。
一階平面図
地下一階平面図
プランの特徴はもう一つ。
それは理不尽なまでに引き伸ばされた動線。
玄関から浴室に至るまでの経路をみれば、そのことは明らか。
屋内の階段の配置によっては、もっと短くて効率的な動線設定と諸室配置が可能だ。
果たして、この非効率な動線計画の意図は何か。
それは、外部から玄関に至るシーンを想像してみれば何となく見えてくる。
前面道路から建物を真正面(この場合、南東側立面)に捉えた時、一般的には極めて閉鎖的な佇まいという印象を抱くことであろう。
なぜならば、その外観は、ただ壁面が立ち上がるのみで、窓が全く無い。
御丁寧に、玄関ドアの前面にも壁が立ちはだかっている。
その玄関ドアと思しき建具を開けて中に入ると、しかしそこは玄関ではない。
倉庫や勝手口に挟まれたポーチの向こう側に、屋外廊下が奥へ奥へと一直線に伸びる。
空間的に絞り込まれたポーチ部分から屋外廊下に歩を進めると、外観からは想定できなかったシーンが展開する。
上部はぽっかりと開放されて空を仰げ、進行方向右手にはLDKの大きな開口。
そして左手には半地下まで掘り込まれたドライエリアが広がる。
言わば、コートハウスの中庭を通って、漸く本当の住戸玄関に辿りつくという構成。
恐らくは、こんな意外性を演出するために、この動線計画が策定されたのではないか。
外から家の中に入る過程にバッファーゾーンを組み込み、気持ちの切り替えを確実なものとする。
そんなメリハリの利いた日常生活を保証するための設え。
更にそれは、防犯や外部騒音の遮断、そしてプライバシーの確保等の要請から仕組まれたものでもあったのかもしれぬ。
家の中に物語性を持ち込むための演出。
そのために引き伸ばされた動線計画。
果たして住宅にとって動線とは如何に在るべきか。
効率性を重んじた最短経路の設定のみが間取りを組み立てる上で優先される事項ではないことを、このプランが示している。