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間取り逍遥
05:不思議な動線計画

物件データ

構造:
木造2F

築年:
1971年9月

敷地面積:
215.14平米

延床面積:
112.2平米

風変わりな動線計画の間取りだ。

玄関を入ると二方向に廊下が接続する。
正面方向の廊下は、そのまま奥へと伸び、主に一階の諸室を連絡する動線となっている。 もう一つの玄関脇方向に伸びる廊下は、階段で二階に至るための動線。
仮に前者を「廊下.1」、後者を「廊下.2」としよう。


一階平面図:

二階平面図:

廊下.1と廊下.2は玄関によって分断されている。 しかし廊下.2は、一階の和室からもアクセス可能である。 つまり、一階と二階を往来するためには、この玄関か一階和室を通らなければならない。
動線計画としては少々無理があろう。

通常ならば、廊下.1に面する押入れを取りやめ、更にトイレの上部を一部欠き込む形で、階段を配置するのではないか。
それによって、二階のトイレの位置等を移動する必要が生じるが、動線は整理される。
そのために必要な調整は同じ容積内でいくらでも対応可能だ。 にも関わらず、あえて変則的な動線計画としての現況の階段配置を選択したのはなぜか。

一つの可能性として、一階と二階の独立性を高めたいという意図があったのかもしれない。 現況の動線計画ならば、一階の生活様態に殆ど干渉することなく玄関から二階に至ることが出来る。
では完全に二階が一階から独立しているかというと、そうでもない。 二階はトイレと洗面こそあれ、それ以外に住宅として必要な機能である台所と浴室が無い。 その機能は一階に依存するしかないのだ。
ということは、玄関のみを共有する二世帯住宅ということではなさそうだ。 それに、双方の階を完全に独立させたいのなら、廊下.2部分に二階専用の玄関を別途設けることも可能であった。
つまり、一階と二階の関係が何とも中途半端なのだ。

そこで、この住宅から、家族が住むためだけの用途に完結した間取りという前提を外してみよう。 そうすることで、もう一つの可能性が読めてくる。 すなわち、二階部分を家族が住むこと以外の用途に供していたとする枠組みだ。
例えば、この家の持ち主が経営する塾や習い事の場として使用していたとするならば、この特殊な動線計画も納得出来よう。
更に推察するならば、これは新築当初からの間取りではないのかもしれない。 例えば、子供の独立によって生じた余剰空間を活用した用途変更に伴う様々な改変によって、今の間取りがあるとも考えられる。 だから、オリジナルは前述した位置に階段のある素直な動線の間取りであったかもしれない。 あるいは現在の階段が、二階の用途変更に伴う増築である可能性も、その取り付き状況から推察できぬ訳でもない。

ということで、様々な住まい方やその歴史,変遷を想定し得るところがとても気になる間取りだ。



2010.08.07/記