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住宅メーカーの住宅
ミサワホームM型・008
1-1.企画と規格
「企画住宅」と「規格住宅」の違い。 これは言葉遊びではない。
両者とも、メーカー側が用意した出来合いの固定化された間取りや内外観デザインで構成されており、自由設計の様に顧客の要望に応える対応は敢えて行わないという点では共通する。 しかし、そこに住まい方に対する先導性や先進技術が導入されているか否か。 その有無が、同じ発音ながらも両者を全く異なる概念として分け隔てる。
別項で紹介しているミサワホームのO型やM型といったモデル群(初期GOMASシリーズ)には、企画住宅としての要素が確実に有る。 20年、30年先の住まいの在りようを見据え、それに向かった先導性を持つプランの提案と、それらを実現するための技術開発と導入。
さもありなん。 そもそも「企画住宅」という言葉は、同社がO型を開発した際に編み出した造語である。 そこには、明確に「規格住宅」とは切り離す意図が込められており、以降、広く一般化する用語となった。
1-2.それぞれの優劣

では、「企画住宅」が常に「規格住宅」より優れているかというと、それは否。 先導的であることが、必ずしも市場性と合致するとは限らない。 もっと卑近に言えば理想と現実の違いということになろうか。
巧く合致すれば商業的に成功するし、後年においても高い評価を継続的に得ることが出来る。 前述のミサワホームO型は、その代表例だ。
しかし売れない企画住宅は、「早すぎたモデル」という評価に留まり、短命のうちに市場から去ることになる。

一方の「規格住宅」。
単なる安かろう悪かろうの規格住宅という事例も有るが、ここではそういった類のモノは論外。 多くは、各社がしのぎを削って売れ筋をマーケティングした上で商品化するから、概ね外れは無い。 場合によっては、現実に即している分、「企画住宅」よりも住みやすい事例もあり得る。
だから、市場性の追求に割り切れば、何も「企画住宅」を目指す必然も無い。 但し、住みやすさや売りやすさには秀でていても、それ以上の価値をそこに見出しにくい場合が多い。



2.侮れぬ規格住宅
さて、そこで1984年頃に売り出されていたこのモデルである。
当時の同社の企画住宅の商品体系には組み込まれていないが、手元資料には、M型・008-39-2Sと型式表記されている。 従って、規格住宅に区分されよう。
実際、同じ内外観の住宅の建設事例を私も何件か確認しているし、その中の一件は、屋内を観る機会も得ている。
印象は、とても良かった。 そのことは、下記の内外観図面からも窺い知ることが出来る。

図面1:外観*1

図面2:平面図*1
特に平面プランは、「間取り逍遥」の項にて言及してみたいほど興味深い内容が散見される。 しかし、ここではそれが趣旨ではないので、主だったところを簡単に箇条書きするに留める。
一階部分:
1.
要素が整理され簡素にまとめられた玄関廻り
2.
他の居室群とはある程度の距離を以て配置された独立性の高い和室
3.
ダイニングとキッチンとの自然な連繋による水平方向の広がりと、吹抜けによる垂直方向の広がりが組み合わさったリビング
4.
MIII型を彷彿とさせる、勾配天井を伴う吹抜けを介したリビングと二階居室の連繋の妙
5.
キッチンから勝手口、そして水廻りを一直線上に配置することで実現した家事動線の効率化
6.
その家事動線と主要居室間動線が交差しないプラン上の配慮
二階部分:
1.
階段と主寝室にやや距離があるが、その間に書斎を挿入することで無駄な廊下の発生を回避
2.
そのことにより、独立性の高い主寝室を実現
3.
書斎を除く三つの居室どうしも、収納や階段室を介することで独立性を高めている
この様な各部位によって構成されたプランの全形はL字型。 それによって、同社の当時の初期GOMASシリーズには見受けられない、動的で変化に富んだ外観を形成している。
その外観についても、幾つか言及してみる。
1.
大屋根を採用することで、大らかな全体像を形成すると同時に越屋根によるアクセントを付与
2.
リビング南側の三角平面の出窓や、二階主寝室南側のフラワーボックスなど、当時の同社の企画住宅に共通して用いられたパーツを採用し、意匠を効果的に調整
3.
上下階の開口の位置を統一ないしは関連性をもたせることで端正な外観を実現


3.企画と規格の狭間
優れた内容を持ちながら、このモデルは企画住宅として商品体系化されることは無かった。 規格住宅の一つとして、建売住宅の販売用リーフレット等、限られた資料の中に掲載され、そして地味に販売されるに留まる。
しかし、例えば同じM型という名称を冠する同時期の同社の企画住宅であるミサワホームM型NEWと比較した場合、住みやすさや内外観デザインにおいて、決して劣ることはない。 あるいは、より秀でた面もある。
ここに、企画住宅のジレンマ、あるいは規格住宅の強みが顕然する。 企画住宅に必須であることろの先導性から自由であるがゆえに商品として立ち現れる魅力。 ないしは実質本位の内外観構成。
そんな企画と規格の微妙な関係の如実に露呈させてしまうモデル。 実はそういった事例は、当時の同社の規格住宅において事欠かない。 社是として企画住宅として位置づけられないにしても、同様に大々的に売り出せば、セールス的にはそれなりの結果をもたらしたであろうモデルの数々。 にも関わらず、なぜに・・・と思わせる事例の代表格。 そんな意味で、「不可解なモデル」の項にこのモデルを無理矢理掲載することにした。


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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2013.09.07/記