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1.グッドリビングショー
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※1:
ミサワホームSIII型外観*
※2:
但し、付け柱や隅木は単なる装飾ではなく、屋根面の雨水処理に係る竪樋と呼樋をそれぞれ内蔵する。
更に、方形屋根の軒先四周に回された破風も軒樋隠しとして機能しており、雨水排水経路及びその部材が外観上露出しない様に配慮されている。
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1980年4月28日〜5月5日迄の8日間、東京都の晴海にかつて在った国際見本市会場にて第六回東京国際グッドリビングショー(以下、GLショー)が開催された。
同イベントにおいて、ミサワホームは二つのモデルハウスを出展している。
一つが、同年一月に同社が発売したミサワホームSIII型。
そしてもう一つが、この場で言及するミサワホーム55・U型と名付けられたモデルになる。
ミサワホーム55・U型外観*
会場に並べて建てられた二棟は、全く異なる外観を呈している。
ミサワホームSIII型※1は、木質パネル接着工法という同社が創業以来培って来た施工方法に基づく。
壁式構造に分類されるこの工法は軸組構造材を不要とする。
しかしそれらをイメージさせる要素が化粧材として外表に取り付く。
例えば、隅角部の付け柱、軒裏の隅木、更には胴差※2。
これらの配置が、太陽光パネルを意匠として組み込んだ錣屋根と相まって、外観に和風の印象を付与。
そしてその外観に合わせるように、屋内も白木をベースにした和風の雰囲気で統一された。
他方のミサワホーム55・U型は、ユニット工法を採用。
外表に、石積み風のパターンを施したコンクリート系のパネルを用い、内観には天井面にワッフルスラブが露出するという、従来の住宅の雰囲気とはかけ離れた様相を呈している。
それは、和風とか洋風といった単純な属性では括れぬ。
無理やり印象を言葉にするならば、「未来的」ということになろうか。
雰囲気を全く異にする二つのモデルハウスは、それ自体が同社の幅広いデザイン力、商品企画力、技術開発力を示すものだ。
しかし一方で、異なりながらも相通ずる構成要素もその外観に見い出せる。
例えば総二階建を基本とした単純なボリューム。
あるいは開口の形状と位置の整理や最小限の外装化粧材によって意匠性を獲得するといった、同社がミサワホームO型以降洗練させて来た手法の展開だ。
これらは、工業化住宅としての生産性の追求と企画住宅としての商品性の付与を両立させるための、極めて合理的な解法でもある。
こうして建ち並ぶ二棟が会場に醸し出す風景は、さぞかし壮観なものであったことだろう。
会場の南側から眺めて左手に配されたミサワホームSIII型は、住宅に纏わる課題として当時一般化していた省エネルギー性能に関し、太陽熱利用の給湯システムを錣屋根風のデザインの中に組み込み標準搭載したモデル。
一方、右手に配されたミサワホーム55・U型は、国が主導した住宅生産の工業化に関わる先導事業「新住宅供給システムプロジェクト」の一環で、翌年の正式発売を目前に控えたミサワホーム55のプロトタイプモデルとして発表されたものであった。
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2.プロトタイプモデルの最終形
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「新住宅供給システムプロジェクト」の概要については、別項で纏めているミサワホーム55のページで言及しているのでここでは省略する。
その推進企業体として採択されたミサワホームグループでは、商品化を実現するまでの開発期間において幾つものプロトタイプモデルを製作。
ミサワホーム55・U型は、その11番目の最終形になる。
平面プランは以下の通り。
ユニット工法を前提としつつ、そのユニットの配列に雁行を組み込むことで内外観に変化を与え単調さを回避。
更に全居室を南面させることを可能とした。
引用した図面には記載が無いが、地下室も作られ、当時同社が「余暇室」を呼称していたセカンドリビングも用意。
そして二階の中廊下部分への採光確保のため、屋内階段の外形そのままの塔屋がその直上に建ち上がり、トップライトも計画された。
その屋内階段の取り付き方がやや強引ながらも、このまま商品化するとこも十分可能な形に纏め上げられているという印象だ。
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※3:
玄関廻り内観*
正面のアーチを伴う開口の奥がリビングルーム。
天井面がワッフルスラブとなっている様子が確認出来る。
また、写真左手の壁に施されたパターンは、外壁と同じ。
これらはPALCパネルの直仕上げになる。
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平面図*
当該モデルの最大の特徴は、床や壁や屋根といった外皮に用いられているPALC(Precastable Autoclaved Lightweight Ceramics)と呼ばれるコンクリート系の新素材。
その開発こそが、「新住宅供給システムプロジェクト」における同社を含む企業グループの提案の根幹であった。
一般的に建物の外皮には、様々な性能が要求され、それぞれの性能を満足するために多種に亘る材料・工種が混在する。
例えば構造材、防水材、断熱材、内外装材等々。
それらを一つの素材で対応する「多機能素材」として、このPALCが開発された。
前記の石積み風の外表も、PALC成型時に型枠に予め施した凹凸のパターンが転写されたものである。
同様に、室内側も内装材として違和の無い繊細なパターンが施された。
あるいは、天井面のワッフルスラブ※3も成型時に施されたパターンになる。
物性の類似性としてALCが参照され得るが、しかし使用材料や製造工程は似て非なるものだ。
当該モデルでは、このPALCを用いた大型パネルがスラブと外壁に全面的に採用された。
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3.商品化モデルとの乖離
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第六回GLショーでミサワホーム55・U型を公開した翌年、ミサワホーム55が正式に発売された※4。
それは、U型に比べると矮小化したものという印象が否めぬ。
要因は、そもそもの「新住宅供給システムプロジェクト」自体にあろう。
同プロジェクトは、延床面積100平米の住宅を、1980年(昭和55年)時点で500万円台の価格で大量供給可能な住宅生産システムを構築することを目的とした。
ローコストモデルという絶対命題の一方で、U型はGLショーという晴れの舞台でのデモンストレーションという役割を担っていた。
その目的の違いが、プロトタイプと商品化モデルの乖離を生んだ。
乖離は建物規模だけでは無い。
PALCの採用箇所も、商品化モデルにおいては外壁のみに限定された。
未来的な内観を呈していたワッフルスラブは採用されていない。
これも、ローコストという与件に対する現実的な着地点の模索の結果だったのであろう。
理想形と商品化モデルとの乖離。
これは技術開発のプロセスにおいて、程度の差こそあれ往々にして付き纏う。
しかし、同社ではミサワホーム55を発売した翌年、同じ工法及び外壁材を用いたミサワホームLx3※5を商品化している。
その内容は、最上階の天井を勾配を伴う総ガラス張りとしたサンルームからサンクンガーデンに面する半地下階のセカンドリビング迄の間を半層ずつスキップフロアで諸室を並べる破格の構成。
低廉な国民住宅の安定供給というお題に適切に対応したミサワホーム55に対し、同じ工法と新素材を用いてこんなに自由で豪勢なことも出来るんですよという真逆の方向性に基づく。
その様なモデルを商品化するならば、U型だってワッフルスラブを諦めさえすれば、ラインアップの一つに据えることは十分可能だったのではないか。
それを成し得なかったのは、前述のやや強引な階段の納まりのためか。
展示モデルの空間演出としては面白いかもしれぬが、現実モデルとしては少々厳しい面が無くもない。
その強引さも、プロトタイプモデルゆえであろう。
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*引用した図版の出典:ミサワホーム
2019.08.24/記
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