日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです |
|||||
■
|
INDEXに戻る |
住宅メーカーの住宅
プロトタイプモデル:ミサワホーム・第8号実験棟 |
|||
1.偶然、そして久々の・・・ | |||||
かつて居住していたその地に引っ越して間もない頃、近辺をあてもなく散策していた折、ミサワホームが手掛けたこの住宅の存在に気付いた。
その際の第一印象は、「ふ〜ん、ここに建っていたのか・・・」といった程度。
|
|||||
※1:
興味を失ってゆく過程及びそれが復活する経緯については、かつてこのサイトの雑記帳に書き散らした「住宅メーカー私史」という不定期連載の中で少し言及した。 復活は、本当にとりとめの無いフとしたきっかけであった。 |
それから数年が経ち、住宅メーカーの住宅への興味が唐突に復活。
といっても、その対象はかつて興味を持っていた時代のものに限定される※1。 |
||||
2.様々な研究開発成果の集積体 | |||||
そこに載せられている内外観写真を改めて確認してみると、いずれもとても興味深い。 |
|||||
玄関廻り* |
|
||||
一階洋間*
|
|||||
※2:
概念図と平面図を比較すると、同じ形態のキッチンセットが確認できる。 また、概念図の上層に描かれた洗面室やトイレや浴室のレイアウトも、平面図の二階サニタリー部分と同じであることが読み取れる。 |
しかしそれらの画像以上に興味をひいたのは平面図であった。
こうして少々列記してみただけでも、当時、もしくはそれ以前から同社が連綿と開発を進めていた様々な技術要素が多々反映されていることが容易に読み解ける。 そしてそんな各種要素が、南北の居室用途のボリュームを雁行させることで獲得した動的な印象を伴ってバランスよく配置されている。
建物の中央に非居室用途を線形に配置するプランニングは、動線計画の効率化の面で極めて有効だ。 |
||||
3.居住性検証を目的としたプロトタイプ | |||||
※3:
解体間際の第8号居住実験棟北東側外観。 平面図からも読み取れるように、南西側とほぼ相似形の外観を持つ。 |
その後、当該住宅に関する資料に幾つか出会う機会を得た。 それらによって、この住宅がその二年後に発売された「ミサワホーム55」のプロトタイプモデルとして1979年に建てられたものであったことを知る。 ミサワホーム55は、旧通産・建設両省が1976年に共同で立ち上げた「新住宅供給システムプロジェクト(通称「ハウス55プロジェクト」)」という住宅生産に関わる先導事業の一環として開発が進められた住宅。 その開発過程において、居住性検証を目的に建てられたのが当該住宅になる。 その名称は、「第8号実験棟」。 八番目に建てたプロトタイプモデルということであろう。 ミサワホーム55の初期開発が完了し商品化が実現した後も、当該住宅は開発関係者が居住を継続。 2010年代前半に建て替えられるまで住み続けられた※3。 このモデルが建てられた時代。 それは、住宅そのものの生産性に関わる各種技術開発が大いに進展した時代であった。 だが、今は違う。 勿論、かつてとは異なる新規研究開発テーマには事欠かぬ。 しかしそれらはいずれも、主要構造体の施工方法に関わる生産技術というよりも、内外装材や設備等の個々のパーツに対する異業種との技術提携に依拠したものが多い。 もはや、住宅そのものの工法や意匠性のみで先進性を帯びようとすることは、枝葉の追求でしか無くなってしまっているのかもしれぬ。 そんな状況において、未だその様な先進性に向けてしのぎを削ることが可能であった幸せな時代のプロトタイプモデルが、その物理存在を終えたこと。 それをとても象徴的な出来事として捉えるのは、考え過ぎであろうか。 |
||||
|
|
||||
*引用した図版の出典:ミサワホーム
2020.08.01/記 |